昨年11月、東京都で開かれた全国警察逮捕術大会で岐阜県警が団体2部で2大会連続11回目の優勝を果たした。岐阜県警は全国に先駆けて県大会を開き、競技としてのルールの礎を築いたなどしたとして、逮捕術の「聖地」として認知されている。そもそも逮捕術とは、どんなものなのか。本紙警察担当記者が練習に参加し、奥深さに触れた。

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全ての警察官が習う

 逮捕術は、警察官が鍛錬する武道の一つ。事件現場での犯人制圧を想定した警察独自のもので、全ての警察官が習う。

 岐阜中署6階の道場内では、逮捕術の術科特別訓練員(特練員)十数人が集結していた。壁は過去の全国大会で優勝したメンバーの集合写真で埋め尽くされている。正面にはOB会が寄贈した横断幕。紺色を基調に、戦国時代の武将斎藤道三の家紋をバックに書かれていたのは「積極果敢」。勢いよく犯人を制圧する意味が込められている。緊張感漂う場所で稽古は始まった。

面を着ける本紙記者=岐阜中署

 道着に着替え、準備運動。前屈などで足の筋や腕の筋肉を伸ばす。久しぶりの運動だからか、この時点で体の節々が痛くなってきた。

徒手に短刀、警棒、警杖も

 特練員をまとめる監督の加藤洋基警部補から「これ使ってください」と前掛けと専用のシューズを渡された。前掛けは剣道の防具とほとんど変わらない。ただ、道着の上から着用しているからか、よろいを付けているように重い。それに加えて、分厚いシューズを履く。空手や柔道を経験してきた記者だが、畳を履物で踏みしめるのは違和感があった。

 防具を着け終わると、15分ほど道場内を走る。手には逮捕術用の警棒。長さは65センチほどだ。逮捕術では警棒のほかに「徒手」や30センチの「短刀」、1メートル25センチほどの「警杖(けいじょう)」を使う。素材は違えど、大きさや太さなどは実際の職務で使われるものと変わりない。実際の現場での対応を想定しているためだという。片手で持っていると手首が痛くなってきた。息を切らしていると太鼓が数回鳴った。特練員らは「ワー」「ヤー」と言いながら一心不乱に警棒を振っていた。見よう見まねで実践してみるが、走って体力を削られた上でこの動き。汗が噴き出してきた。

 練習は実践的な形式に移った。「胴」や「小手」のほか、剣道と違って「肩」も有効打として認められる。「思いっきりやったってください」。指導する特練員に言われるが、なかなか強く打てない。人に打撃を与えるのは子どものけんかの時以来だ。見かねた相手が「こうです」と言った途端、右の胴に鈍い衝撃が走った。初心者にもかまわない姿勢にその強さを感じた。

記者に打ち込む水川拓夢巡査=岐阜中署

投げ技や蹴りもOK

 最後に試合形式での稽古だ。いよいよ、練習の成果を発揮する時。相手は同署地域課の水川拓夢巡査(22)。全国大会優勝チームの一員だ。一礼をして位置につく。右足を出すと「始め」と号令がかかった。制限時間3分。3本勝負で2本先取した方が勝ちとなる。互いに間合いを取り合っていたところ、水川巡査の左胴に一瞬隙が見えた。「これはいける」と警棒を短く持ち迫った。だが、相手の方が数段も上だった。向かってきた記者の肩に鋭く一本。2本目も同様にやられてしまった。

 逮捕術は、面への打撃などは禁止されている反面、投げ技や蹴りなどは認められている。その特殊さの理由は「犯人を効果的に制圧するため」という目的があるからだという。何をしてくるかわからない犯人に対応しようとした結果が、逮捕術の奥深さを生み出していた。