27日に開催される「オグリキャップ記念」への来場を呼び掛けるポスター
馬券の売り上げが伸びて、活気を取り戻した笠松競馬。年末のレースではスタンド前もファンが埋まり、競走馬に熱い声援を送った=2015年12月
笠松競馬場の正門近くで、ファンの来場を待つオグリキャップ像

 笠松競馬場で27日、オグリキャップ記念(地方全国交流レース)が開催される。今年で26回目を迎えるが、笠松競馬は「名馬、名手の里」として、苦難の時代を乗り越えて復興を遂げてきた。全国のファンから「オグリキャップが育った競馬場をつぶすな」と後押しがあったからこそ、存続することができた。キャップがいなかったら、笠松競馬は間違いなく廃止になっていたことだろう。正門近くのブロンズ像は笠松競馬場の守り神として、来場するファンを温かく迎えてくれる。

 笠松競馬が低迷を脱して活況を取り戻しているとの「オグリの里」の記事に関して、日本新聞協会から4月の「新聞協会報」への寄稿依頼がありました。掲載された記事を紹介します。

(2017年4月4日付「新聞協会報」)

 ■V字回復果たす笠松競馬

    馬券ネット販売が威力

     中央との連携で花開く

 伝説の名馬オグリキャップが育った笠松競馬(岐阜県羽島郡)。バブル経済崩壊後は、経営難による廃止の危機が何度もあったが、騎手や調教師らは耐え抜いた。その道のりは長く険しかったが、2012年10月に導入された日本中央競馬会(JRA)の地方競馬インターネット投票が威力を発揮し、画期的なV字回復を果たしている。全国の各地方競馬でも、馬券の売り上げを飛躍的に伸ばし、活況を取り戻している。

 有馬記念で2度優勝したオグリキャップは、どんなピンチにも頭を低くして、最後まで諦めない走りを見せてくれた。その闘争心を育てた笠松競馬の関係者の心には「オグリキャップ精神」があり、現場の底力となって受け継がれ、復興につなげてきた。「赤字になったら即廃止」の厳しい条件にも、騎手や調教師には「中央に負けない強い馬をつくるんだ」という意地とプライドがあった。

まだ累積赤字もないのに、2004年には「経営は既に構造的に破綻しており、競馬事業を速やかに廃止すべき」とする経営問題検討委員会(県の第三者機関)の厳しい報告があり、関係者やファンに激震が走った。経営改善策も示せない「お役所競馬」の横暴な廃止論に対して、地元マスコミは現場やファンの憤りの声を伝え、存続につなげることができた。レース賞金や出走手当は05年度に40%以上、10年度にはさらに15%と大幅にカットされ、痛みを強いられたが、1年ごとに「存続」を勝ち取ってきた。

 岐阜県地方競馬組合(県と2町で構成)が主催する笠松競馬の13~15年度の実質単年度収支は4000万円増、1億2000万円増、4億7000万円増と急激な右肩上がり。5年前まで1日1億円余りに落ち込んでいた馬券発売額は2億円前後に回復し、3億円に上る日もある。16年度分も20%以上の伸びを示しており、4年連続の黒字を確保した。JRAをはじめ、オッズパーク、楽天競馬、SPAT4(南関東など)を含めた馬券のネット発売の恩恵は大きく、ナイター競馬を導入した園田競馬(兵庫県尼崎市)や高知競馬(高知市)では、1日4億円を突破することもあり、爆発的に売り上げが伸びた。

 「今の状況は天国のよう。これからはレース賞金を上乗せして、スターホースを誕生させてほしい」と前を向くのは、笠松競馬の存続を先頭に立って支えてきた調教師の妻たち。現場にようやく笑顔が戻り、賞金・手当の引き上げ、老朽化した施設の改修、大型ビジョンの新設などで競馬場周辺は活気に満ちてきた。

 地方競馬の馬券販売は、JRAとの連携を契機に「競馬場で1割、場外で2割、ネットで7割」とまで言われる時代になった。馬券売り上げの低迷にあえいでいた笠松の現場にとっては、JRAネット投票は最後の頼みともいえる「命綱」だった。約350万人のJRAネット会員の一部が地方競馬に興味を示し、売り上げが大幅に増加。JRAの馬券が購入できる「J-PLACE」が笠松にもオープンし、発売手数料による収益増につながった。

 地方競馬ファンの動向はどうか。平日開催の笠松の入場者は800人ほどで高齢者が多い。競馬場はウオーキングを兼ねた健康施設的な側面もある。地方競馬はレースごとの出走馬が少なく、馬券も中央よりも当てやすい。少ない予算で長い時間楽しめることも、年金暮らしの高齢者たちの人気を集める要因になっている。JRAは「この国に馬券の買えない場所はない(ネットがつながれば)」と、テレビCMでもアピール。在宅投票にアウトドア派も取り込み、全国のファンにネットで売る時代になった。スマートフォン普及による利便性の向上、ホームページやスポーツ紙などで出走表の充実も進み、地方競馬の馬券が買いやすくなった。

 地方競馬の活況はしばらくは続きそうだが、経営状況は世の中の好不況の波に左右される。アベノミクスやトランプ米政権、成立したカジノ法の先行きは不透明で、景気動向やギャンブルを取り巻く環境が一変して、いつ逆風が吹き始めるかもしれない。バブル経済崩壊後の「存廃サバイバルレース」で廃止になった多くの地方競馬の分まで、黒字体質をしっかりと根付かせてほしい。

 今年に入ってNHKの「プロフェッショナル」や「アナザーストーリーズ」でオグリキャップが特集され、改めて「笠松競馬の灯が消えなくて良かった」との思いを強くした。オグリキャップにアンカツさん(安藤勝己騎手)。笠松の人馬はいつも地方競馬の先頭を走って、立ちはだかる高くて厚い壁に挑み、中央への扉を切り開いてきた。

 馬券販売でも中央との連携を深めて、一気に視界が開けてきた地方競馬の未来は明るい。かつてのハイセイコーやオグリキャップのように、ファンは地方から中央への新たなサクセスストーリーを待ち望んでいる。