消化器内科医 加藤則廣氏

 十二指腸は、図のように胃の出口である幽門から小腸の入り口のトライツ靱帯(じんたい)までの長さが約20~25センチの腸管です。近年の内視鏡機器の進歩により、上部消化管内視鏡(胃カメラ)は食道や胃だけではなく十二指腸の下行脚までの病変が診断されるようになってきました。また人間ドックや住民検診でも、無症状で十二指腸の病変が指摘される機会が増えています。今回は十二指腸に見られる疾患について説明します。

 十二指腸の主な疾患を表に示します。十二指腸潰瘍は成因であるピロリ菌感染が減って、最近は少なくなっています。一方、十二指腸がんは食道や胃、大腸など他の消化管がんに比べてまれな疾患です。2021年に初めて十二指腸がん診療ガイドラインが日本消化器病学会から発刊されました。

 十二指腸には、胃で消化された食べ物に、消化酵素である胆汁や膵(すい)液が十二指腸内で分泌される乳頭部があります。十二指腸がんは乳頭部がんと、それ以外の十二指腸粘膜から発生する非乳頭部がんに大別されます。

 乳頭部がんは胆汁の流れがせき止められるため閉塞(へいそく)性黄疸(おうだん)を来したり、膵液が出なくなることによる急性膵炎様の症状を呈したりします。一方、非乳頭部がんでもがんが乳頭部まで広がると同様の症状が見られます。また胆道がんや膵がんが十二指腸へ浸潤することも少なくありません。なお、十二指腸乳頭部がんは、胆道がんにも分類されます。

 十二指腸がんの治療は、早期がんであれば内視鏡的粘膜切除術(ESD)が選択されます。早期であればリンパ節転移がほとんどないので腫瘍のみを切除すれば治癒します。また境界領域である十二指腸腺腫も、がんの発生母地とされていますのでESDの対象です。しかし十二指腸のESDは食道や胃、大腸に比べて手技的に難易度が高く、合併症として穿孔(せんこう)を来すこともあります。

 一方、先進的な病院では十二指腸腫瘍に対して、消化器内科医による内視鏡手術と外科医による腹腔(ふくくう)鏡下手術を同時に行うLECSと呼ばれる手術法が選択されます。しかし進行がんになると外科的切除が行われ、膵頭十二指腸切除術など侵襲の大きな手術となります。なお切除術が困難な場合は、十二指腸ステントを留置して通過障害を解除する緩和治療も選択されます。

 その他には、十二指腸だけに限局する濾(ろ)胞性リンパ腫があります。悪性リンパ腫の一種ですが低悪性度であり、現在は化学療法や手術などの積極的な治療は行われず経過観察がされています。また、十二指腸の粘膜の生検によって全身性アミロイドーシスなどの診断のきっかけになることもあります。

〈十二指腸にみられる主な疾患〉
【良性疾患】
 ・十二指腸潰瘍
 ・ブルンネル腺腫瘍
 ・平滑筋腫
【境界領域】
 ・腺腫
 ・消化管間葉系腫瘍
  (GIST)
【悪性疾患】
 ・十二指腸乳頭部がん
 ・十二指腸非乳頭部がん
 ・悪性リンパ腫
  (濾胞性リンパ腫)
 ・神経内分泌腫瘍
 ・平滑筋肉腫