脳神経外科医 奥村歩氏

 スマホは今や生活必需品。しかし「脳健康」の妨げになることがあります。皆さん、暇つぶしや気晴らしのスマホで、逆に疲れてしまったことはありませんか?

 「もの忘れ外来」の受診者に、スマホの使い過ぎが原因で脳の働きが低下している方が増えています。過度なスマホの使用では、脳に膨大な情報が入り続け、脳が疲れ過ぎてしまいます。そのため情報処理がうまくいかなくなり、認知症と似た症状が出ることがあります。その状態が、いわゆる「スマホ認知症」です。

 脳の情報処理は「仕入れる」「整理整頓する」「取り出す」の三つの過程で成り立っています。スマホから膨大な情報が入り続けると、脳が疲れて、整理整頓が追い付きません。その結果、脳がごみ屋敷の状態になります==。そのため、重要な情報が必要な時に取り出せなくなってしまうのです。

 その症状は「人や物の名前が出てこない」「漢字が書けない」などの生易しいものだけではありません。仕事や家事など、作業の能率が著しく低下して、生活に困る深刻なことがあるのです。「コミュニケーション力」も低下します。適切な言葉が出てこなくなる、相手に自分の気持ちが伝えられない、相手の話がなかなか理解できないなどです。

 さらに「スマホ脳」では、心身の不調を来す場合があります。頭痛・目まい・うつ・胃もたれ・便秘・動悸(どうき)・不眠などの原因にもなります。脳は心身の管理をしている臓器です。その脳が疲れることによって、心身の不調が表れるのです。

 スマホ脳やスマホ認知症とは、スマホの使い過ぎに警鐘を鳴らす目的で提唱されました。これらは教科書的な病気ではなく、生活習慣の見直しで回復できる状態です。治すには、まずは意識を変えることです。スマホが脳に与える影響は、食事が身体に与える影響と同じです。皆さん、健康やダイエットのため、食べ物の質と量を吟味しますよね。同じようにスマホの使い方にも慎重になってください。「だらだらスマホ」は「脳の暴飲暴食」みたいなものですよ。

 だらだらスマホに陥らないように、スマホを寝室やトイレ、風呂には持ち込まないようにしましょう。寝る前のスマホは睡眠の質を低下させます。さらにスマホを目覚まし時計代わりに使うと、朝からそのまま、ネットサーフィンやメールのチェックが続くことでしょう。

 意識的にスマホを手放す「ぼんやりタイム」を大切にしてください。しかし、ぼんやりすることは意外に難しい。そこで、身体を動かしながらのぼんやりタイムを。皿洗いや雑巾がけ、キャベツの千切りで大丈夫。天気の良い日は、散歩や自転車。四季の移り変わりを五感で味わいながらのリズム運動は、脳内物質セロトニンを増やして脳の疲れを取ってくれるでしょう。

(羽島郡岐南町下印食、おくむらメモリークリニック理事長)