無傷の8連勝で東海ダービーを制覇したセブンカラーズと喜びの関係者

 セブンカラーズの輝く馬体が暗闇を切り裂いて「圧逃」。無傷の8連勝で東海地区3歳若駒の頂点に立った。

 クラシックロード2冠目「第53回東海ダービー」(SPⅠ、2100メートル)が5月31日、名古屋競馬場で行われ、単勝1.2倍のセブンカラーズ(牝3歳、川西毅厩舎)が、山田祥雄騎手の騎乗で逃げ切りVを決めた。笠松勢では、5番人気のツミキヒトツ(牡3歳、笹野博司厩舎)が3馬身差で2着に突っ込む健闘を見せた。

 山田祥雄騎手は東海ダービー初優勝、川西毅調教師は自らの最多記録を更新する6回目の制覇。勝ったセブンカラーズは父コパノリッキー、母ウイニフレッドで母父スペシャルウィークという血統。1着賞金は1000万円にアップした。

 ■競馬に「絶対」はないが「1強ムード」充満

 場内に「1強ムード」が充満し、セブンカラーズは断トツの1番人気に推されたが、競馬に「絶対」はない。今年の日本ダービーでは、スタートで落馬が起きたり、有力馬が急性心不全で亡くなるアクシデントがあった。5年前の東海ダービーでは単勝1.0倍のサムライドライブがゴール直前、笠松のビップレイジングに差し切られた。無敗馬を「絶対王者」と呼びたくはなるが、まだ3歳だけに過信は禁物だった。

山田祥雄騎手の騎乗で逃げ切りVを決めたセブンカラーズ。2着は笠松のツミキヒトツ(NAR提供)

 ■2100メートル消耗戦、2着争いは渡辺騎手制す

 ファンの大きな拍手とともにゲートがオープン。セブンカラーズは先頭に立つと、後続を1~2馬身差で引き連れてマイペースの逃げ。ここ4戦は1700メートルだったので、2100メートルへの距離延長を考えて、リードは小さめでスローな流れ。駿蹄賞勝ち馬で2番人気のリストン=丸野勝虎騎手=が2番手につけ、3~4コーナーで追い込むかという展開。笠松勢のワールドミッション(田口輝彦厩舎)には今井貴大騎手が騎乗。前走・若鮎賞圧勝の勢いで好位につけていたが、4コーナーで失速した。

 最後の直線、セブンカラーズは追いすがる各馬を突き放し、そのまま3馬身差でゴールイン。注目の2着争いは4頭が横一線。内から渡辺竜也騎手騎乗のツミキヒトツがグイッと一伸び。全馬初距離という消耗戦の中、上がり3Fはメンバー最速で2着に食い込んだ。リストンが3着、ワールドミッションは8着に終わった。

1着の枠場に入るセブンカラーズと山田騎手

 ■山田騎手「やっとおいしいビールが飲める」

 晴れてダービージョッキーとなった山田祥雄騎手。2002年に福山競馬でデビューした38歳。福山廃止とともに名古屋に移籍し10年の節目。セブンカラーズとのコンビで重賞4勝目を挙げて大輪を咲かせた。

 優勝騎手インタビューでは「1回でも負けていれば、まだ気が楽でしたが、無敗ということでプレッシャーがあった」と心情を明かし、ホッとした表情。「スタートが良く、道中もいいペースでしたが、3コーナーぐらいから手応えがなくなっちゃって。距離が長いのかなあ」と400メートルの延長に不安もあった。最後は「完全に脚が上がっていたんで、頼むから残ってくれと」。ゴールの瞬間は「うれしかったです」の一言。「今後も順調にいけば、結果を残してくれるのでは」。プレッシャーから解放されてダービージョッキーの座を獲得。「やっとおいしいビールが飲めそうです」と応援するファンと喜びに浸った。

笠松のツミキヒトツ。渡辺竜也騎手の好騎乗が光り、2着に食い込んだ

 ■無印のツミキヒトツ好走、岐阜金賞期待

 笠松勢では期待していたスタンレー(後藤正義厩舎)が順調さを欠いて、出走を回避。ゴールドウィング賞2着、中京ペガスターCを完勝し、セブンカラーズ追撃の1番手とみられていた。「距離延長で逆転のチャンスも」と期待していたが、対決は見られず残念だった。

 2着に食い込んだツミキヒトツは「積み木を一つずつ積み上げるよう成長することを願って」と名付けられた笠松生え抜き馬。重賞は中京ペガスターC2着、新緑賞3着があった。これまで10戦全て4着以内と堅実味が光る存在。東海ダービーでは専門紙の無印が目立ったが、その予想を覆す好走を見せたのだ。

 笹野調教師は「キレキレの動きを見せていたが、層が厚くなって距離延長はどうか。遅生まれ(5月10日)だし、現段階でどこまでやれるか」と大一番に挑んだ。
2着という結果はファンたちも期待以上だった。

笠松の2歳チャレンジを勝ったツミキヒトツと渡辺騎手(笠松競馬提供)

 ■内をスルスルと、手腕が光った渡辺騎手

 渡辺騎手は昨年のイイネイイネイイネに続いて、2年連続で東海ダービー2着。アタマ差でタニノタビトに敗れた昨年は悔しかったが、レース運びや心の持ち方など学んだことは大きく、その後の年間最多勝リーディングにつなげた。

 前走内容から厳しい戦いも予想されたが、さすが笠松のリーディングジョッキー。スルスルと内を突いて2着争いを制した手腕が光った。ファンからはツイッター上で「すごい、2強の間にツミキくん」「ジョッキーさすがでしたね。名古屋の馬場が合うね」と驚きの声が上がった。渡辺騎手の東海ダービーVのチャンスは来年以降もまた巡ってきそうだ。 

 ツミキヒトツの生まれ故郷のアサヒ牧場(北海道)でも「生産馬が大健闘でした。1歳オータムセールで200万円だった馬が、3歳の春に獲得賞金1000万円を超えた」と東海ダービー2着を喜んだ。

 まだ2勝だがファンの多い馬で、馬名のように一歩一歩成長する姿は愛らしく、今後も応援していきたい一頭だ。セブンカラーズは夏休みに入るようだが、昨年3冠馬となったタニノタビトのように岐阜金賞(8月30日)への参戦を期待。ツミキヒトツには地元でもう1段積み木を積み上げて1着ゴールに迫ってほしいし、スタンレーの復活も待ち遠しい。

 ナイター競馬で実施された東海ダービー。弥富移転後は入場無料で、この日の来場者は約1200人だったが、馬券販売は11億円超と好調。ダービー人気とナイター効果もあって、10億円の大台を軽く突破した。  

笠松での期間限定騎乗中に18勝を飾った及川烈騎手 

 ■及川烈騎手5カ月ぶり復帰、浦和で今年初勝利

  昨年6~12月に笠松競馬で期間限定騎乗に励んだ浦和の及川烈騎手(19)。今年1月に左鎖骨のボルト除去手術を行って療養生活を続けていたが、5月29日に浦和でレース復帰を果たした。

 笠松在籍中には18勝を挙げ、新天地で先輩騎手の助言をよく聞いて腕を磨いた。ヤングジョッキーズシリーズでは盛岡で勝ち、東日本地方騎手トップの成績でファイナルラウンドに進出した。

 浦和では復帰後5日間で17戦(6月2日まで)。そのうち14戦は人気を上回る着順で健闘した。5月31日には7番人気のクリムゾンオーラで先行し、今年の初Vを飾った。2着、3着もあり、まずは順調な再出発となった。

保園翔也騎手(中央)のお別れセレモニー。ジョッキー仲間が参加し、笑いに包まれた(笠松競馬提供)

 ■保園翔也騎手、名古屋と笠松で計57勝

 同じく浦和の保園翔也騎手(27)は昨年11月から名古屋で、今年4月からは笠松で期間限定騎乗。約半年間に名古屋で34勝、笠松では23勝。計57勝の好成績を挙げた。5月25日には笠松でヒナアラレで逃げ切り、地方通算250勝目を飾った。

 笠松騎乗のお別れセレモニーで保園騎手は「チャンスある馬にたくさん乗せてもらいましたが、思ったより勝てなかった。すごく良い経験ができました」と振り返った。

 このところ、レベルが高い南関東から期間限定で笠松に来る若手騎手が増えてきた。まだ十代で騎乗機会が少なかった田中洸多騎手(大井)や及川烈騎手に「期間中の目標は何勝?」と聞くと「30勝」という返答もあったが、笠松でもそんなに甘くはない。コロナ禍もあってそれぞれ目標を下回り、「このままじゃ帰れない」とばかりに、期間延長で勝利を上乗せした。デビューから7年の保園騎手は経験もあり、活躍が目立った。

 保園騎手のセレモニーには笠松・名古屋のジョッキー仲間が11人も参加してくれた。「僕は来なくても大丈夫と言ったんですが、皆さんがどうしてもというので来てもらいました」と爆笑トーク。参加をお願いしたのは、どうやら保園騎手の方で、ジョッキー仲間たちも笑いに包まれた。

 レース以外では「笠松ではみんなでフットサルをしたり、名古屋の人と野球をしたりと、リフレッシュもできました」と充実した日々を過ごした。6月1日から浦和に復帰。早速、及川騎手と同じレースで腕を競った。

オグリキャップの5走目、マーチトウショウに初めて勝った1987年8月12日の笠松1R出走表など(競馬エース)

 ■オグリキャップ笠松5戦目「芦毛対決」初勝利(1987年8月12日)

 笠松時代のオグリキャップのレースを振り返るコーナー。デビュー5戦目は宿敵マーチトウショウとの3度目の「芦毛対決」となった。800メートル戦も5回目で、3歳馬(現2歳馬)によるフレッシュな戦い。古馬には強い馬がゴロゴロいた時代で、キャップはまだ無名の存在だった。

 中央入り後は、タマモクロスとの芦毛対決で騒がれたが、それ以前に繰り広げられていた、マーチトウショウとの「元祖・芦毛対決」は3戦目。マーチトウショウにクビ差負けが続いていたキャップは○印で2番手の評価。専門紙には「4戦してすべて連対に絡んでおり、連の軸か。すかさず反撃」とあるが、まだ主役ではなかった。キャップに連勝したマーチトウショウが当然◎印で、川原正一騎手が初騎乗。前走で最後方発進から一気に馬群を割った力強い競馬。2頭による一騎打ちが濃厚だった。

 ■アンカツさん、キャップに追い抜かれた

 「次はお前の番だ」と逆転を期待され、ファンからはキャップが1番人気の評価。引き続き高橋一成騎手で、8頭立てで6番手からのスタート。マルカマドンナが逃げて、4コーナーではミルジョージの子・コトブキゼウスが先頭を奪った。

 キャップは3番手を進んでいたマーチトウショウをかわし、2番手に上がると直線では一気に突き抜けた。何とか2着は死守したマーチトウショウに「2馬身半差」。3度目の対戦でついにキャップが先着し、リベンジを果たした。タイムも自己最高の49秒7をマークした。

 3着はコトブキゼウス。アンカツさんはまだキャップとコンビを組んでおらず、騎乗した△フェートオーカンで6着。皮肉なことだが、キャップに追い抜かれ、豪快な追い込みを見せつけられたことになった。

 芦毛対決の枠連配当は250円。大口の勝負もあったことだろう。入場者数は6000人余りで馬券の売り上げは約2億5000万円。競馬場だけでの純粋な販売額で、実利は大きかった。インターネット販売なら10%超が手数料に消えるが、当時の人はそんな時代が来るとは夢にも思わなかっただろう。バブル景気で入場者が多く、競馬場は大いに潤っていた。

1987年8月12日付・岐阜日日新聞の笠松競馬予想欄

 ■サマータイム薄暮レース、ハクリュウボーイの名も

 キャップのレースは若駒たちの生き残りを懸けた戦い。開催初日の1Rだったが、2強マッチでファンも注目し始め、馬券の売れ行きは上々。出走表を改めてよく見ると、1R発走は午後1時30分とある。そうだ、笠松でも夏場には「サマータイム薄暮レース」が行われていたのだ。お盆シリーズで最終10Rは午後6時以降の発走。岐阜日日新聞(当時)の予想欄広告には「午後5時30分までの入場者に飲み物進呈」とある。当時は入場者が多い土曜、日曜にもレースが開催されていた。

 10Rの3枠には笠松のレジェンド誘導馬「パクじぃ」ことハクリュウボーイの名もあり、その後、キャップとも同じレースで走った。国内最高齢の誘導馬として30歳まで長生きしたが、ちょうど10年前に天寿を全うした。6月1日が命日だった。