オレンタノに騎乗した田口貫太騎手。父の厩舎の馬で初勝利を飾った

 真っ先にゴールを駆け抜けて「貫太スマイル」がはじけた。両親が笠松競馬の元騎手という「良血」を受け継いだJRAの田口貫太騎手が躍動した。

 8日、1カ月ぶりに笠松のレースに参戦した田口騎手。9RのJRA交流「あじめ峡特別」を自厩舎の馬で際どく勝利。続く10R「乙女渓谷特別」のエキストラ騎乗では、父・田口輝彦調教師の管理馬で圧勝。強力タッグで「父子制覇」となる初勝利を飾った。

 今年3月にデビューした田口騎手。JRAでは今年のルーキー最多の7勝を挙げており、JRA交流戦での勝利は全て笠松で4勝目となった。

 エキストラ騎乗とは、JRA・地方競馬の当該交流競走以外のレースでも、遠征ジョッキーが騎乗すること。コロナ禍で制限されていたが、3月から再開された。

 田口騎手はこれまでも笠松で父の管理馬に騎乗。ピューリファイで7着、サンジョノコで3着、オレンタノで3着があった。迎えた4戦目で最高の1勝をつかむことができた。

JRA交流戦ではキングダイヤモンドで競り合いを制し、1着でゴールする田口騎手

 ■JRA交流戦は自厩舎の馬で激戦を制す

 9RのJRA交流戦では、中央の有力馬1頭が出走を取り消し。田口騎手騎乗のキングダイヤモンド(牡3歳、大橋勇樹厩舎)は2番人気に推された。2番手から逃げ馬をぴったりマークし、最後の直線では3頭での激しいたたき合い。真ん中の田口騎手が岡部誠騎手の1番人気・カタリナマリーをアタマ差でかわし、1着ゴール。勝ったことが分かり、応援するファンの一人として「貫太ー」と叫んでいた。キングダイヤモンドは父がサトノダイヤモンド。デビュー4戦目で初勝利を飾った。

1周目ゴール前では大きく離され、後ろから2番目だったオレンタノと田口騎手

 ■後方追走、2コーナーから大まくりで会心の騎乗

 10Rは父・田口調教師がきっちり仕上げた芦毛馬・オレンタノ(馬名・俺たちの=岐阜の方言)に騎乗。オーナーは吉田勝利さんで「オヤカタ馬と田口親子」での待望の1勝となった。このレースでも1番人気が予想されたイロゴノミが出走取り消し。田口騎手には負担重量3キロ減の恩恵もあるし「これは父の管理馬で勝てそうだ」とVの予感が漂った。

 「馬の状態は申し分ない。少しの展開利があれば」と送り出した父。オレンタノと田口騎手のコンビでは同じ3歳1組で0秒5差の3着があり、3番人気に推された。

 レースは驚きの展開となった。オレンタノはスタートはゆっくりで、後ろから2番目を追走。「これは厳しいかな」と思っていたら、2コーナーのインを突いてスルスルと上がっていくと大まくり。向正面では一気に先頭を奪った。

ゴールを1着で駆け抜けるオレンタノと田口貫太騎手

 そのまま3~4コーナーを回ると、最後の直線では後続を突き放す強い競馬。2着のマナマハロには7馬身差をつける「貫勝」となった。乗り役が貫太君だけに、2コーナーからゴールまでVロードを貫いたといえよう。それにしても2コーナーからのロングスパートでまくっていくとはファンもびっくり。最後しっかり伸びており、会心の騎乗となった。

 レース直後、残念ながら「父子制覇」の口取り写真を撮ることはできなかったが、装鞍所エリア外で田口騎手に喜びの声を聞いた。 

 ■父の指示通り、仕掛けて手応え十分

 ―お父さんの厩舎の馬で初勝利ですね。後ろからの競馬になりましたが、お父さんからは指示はありましたか。

 「先生(父)には『いつもゲートはゆったり出る馬。ズブい脚なんで、2コーナーを向いた時点で、前にスペースがあったら、外にでも出して仕掛けていって』と言われました。ちょっと内の狭い所に突っ込んじゃって反省しなければいけませんが、そこからはいい脚でした」

JRA騎手試験に合格した田口貫太さんの頭をなでる父・輝彦調教師(左)=千葉県白井市、JRA競馬学校

 ―向正面から、3~4コーナーでも先頭に立っていましたね。

 「もう手応え的にも十分だったんで、良かったです」

 ―4コーナーを回って突き放しましたが、この馬のいいところは。

 「ずっといい脚を使って、早めに仕掛けていってもゴールまでずっと走ってくれるところですね。前にも1回乗せてもらって(3着)それを生かせなかったですが、今回は向正面からうまく仕掛けることができて良かったです」

 ―9Rは自厩舎の馬で際どく勝ちましたね。

 「あれは馬が強くて、馬の力で勝てました」

 ―素晴らしい騎乗で連勝し、最高の結果でしたね。

 「良かったです。ありがとうございます」

 ―勝って戻ってきて、お父さんには何か言われましたか。

 「勝ったのはいいけど、あそこ(インを突いた2コーナー)は狭いから気を付けないといけないぞ、と言われました」

JRA交流戦では田口騎手所属厩舎のキングダイヤモンドで勝利を挙げ、喜びに浸る関係者

 ■目標は「最多勝利新人騎手賞」

 吉田オーナーも「所有馬で1日3勝の固め打ち。田口厩舎、田口貫太騎手で勝ったのは特にうれしいです」とツイッター上で喜びの声。ファンも「田口騎手うまい」「(オレンタノ)3勝目おめでとう」と祝福した。

 デビューして3カ月余り。中央で7勝、地方で5勝。田口騎手は10、11日には中央で13頭もの騎乗予定がある。これまで1~3番人気で騎乗した12戦では、4着以下が1回しかなく「優秀な新人騎手」として注目され、騎乗技術もメキメキと向上。「愛されキャラ」でもあり、毎週十数頭の乗り鞍があり、応援するファンも多い。1年目の目標は「JRA賞最多勝利新人騎手賞」の表彰対象となる「30勝以上」だ。けがなどなく、1勝ずつこつこつと積み上げていきたい。

砂よけのホライゾネットを装着したオマタセシマシタと渡辺竜也騎手

 ■アイドルホースのオマタセシマシタは6着

 人気お笑いトリオ・ジャングルポケットの斉藤慎二さんがオーナーを務めるオマタセシマシタは8日の4R(3歳2組・特選)で登場した。笠松のアイドルホースは前走後も順調な仕上がり。中1週で距離延長の1600メートル戦に挑んだ。今回は、跳ね上がる砂が目にかかるのを防ぐ「ホライゾネット」を装着。前走9着から巻き返しを図った。

 パドック周回では、ラチ沿いにもファンが並んで熱い視線。馬体重はマイナス3キロで、スタンドからは「ちょっと細いねえ」「あっても3着かな」といった声が聞こえてきた。

 クラスは上がり、今回も厳しい対戦相手。前走、同じレースで2着だったフリースタイルに深沢杏花騎手が騎乗し、単勝1.0倍の断トツ人気。専門紙の予想でオマタセシマシタは無印だった。

砂にまみれながらゴールを目指したオマタセシマシタ

 ■2勝目は「お待たせシマス」

 主戦の渡辺竜也騎手が騎乗し、3番人気のオマタセシマシタ。逃げる手も予想されたが、スタートダッシュはならず、後ろから2番目から追走。最後の直線で追い上げたが、8頭立ての6着でゴール。3コーナーで先頭を奪ったフリースタイルが圧勝した。オーナーは小林照弘さんで、父は風水専門家のDr.コパさん。ラブミーチャンの馬主として知られ、笠松競馬とのつながりも深い。

 1月の笠松デビューで初Vを飾ったが、その後の3レースは苦戦が続いているオマタセちゃん。3歳戦では中央からの転入馬も多く、厳しい戦いが続きそうだ。現状では3歳馬が古馬編入(C級)になる10月以降なら勝つチャンスも出てくるが、当分「2勝目はお待たせシマス」ということになりそうだ。まずは「けがなどなく無事にゴールし、笠松競馬場で長く走り続けてほしい」と願うファンは多い。

 オマタセちゃんの人気を改めて実感したのはこの日の駐車場でのこと。いつもコンビニ横の第3駐車場を利用しているが、オマタセちゃんが登場する4R前には若者の姿も見られ、南側駐車スペースは満車状態だった。ところが9R前に車は半分近くに減っていた。観客動員の面での主役はやはりオマタセちゃんで、若いファンにとってのメインレースは4Rだったようだ。

ゴール前で一伸び。飛山濃水杯を制覇したヒロシゲウェーブ(左)と加藤聡一騎手

 ■飛山濃水杯は名古屋・ヒロシゲウェーブが重賞初V

 今年から岐阜新聞社・岐阜放送賞となった重賞「第5回飛山濃水杯」(SPⅢ、3歳以上オープン、1400メートル)が9日、笠松競馬場で行われ、4番人気の名古屋・ヒロシゲウェーブ(セン馬7歳、今津博之厩舎)が加藤聡一騎手の好騎乗で差し切り勝ち。うれしい重賞初Vを飾った。3着には笠松のストームドッグ(セン馬6歳、森山英雄厩舎)が食い込んだ。

 笠松所属馬の重賞勝ちは随分と遠ざかっており、昨年6月にドミニク(後藤正義厩舎)が3歳牝馬重賞・クイーンカップを制覇して以来、約1年間も勝利がない。秋風ジュニアなど準重賞のジュニア3競走は、笠松デビュー馬または所属馬限定のレースで、当然、笠松の馬が勝って表彰される。ところが重賞勝ちのセレモニーに、笠松所属馬はなかなか登場してこない。

飛山濃水杯を制したヒロシゲウェーブを囲んで喜びの関係者
優勝馬ヒロシゲウェーブの雄姿

 飛山濃水杯のレースは名古屋の3番人気・レイジーウォリアーが逃げ、ヒロシゲウェーブは差のない3番手を追走。3~4コーナーで名古屋勢3頭が抜け出し、最後の直線ではヒロシゲウェーブがメイショウシルト=岡部誠騎手=との競り合いを制して半馬身差でゴールイン。加藤聡一騎手は笠松重賞4勝目で、コースとの相性の良さを示した。

 笠松勢では、連勝中で3番人気に推された馬渕繁治騎手騎乗のストームドッグが追い上げはしたが、3着争いが精いっぱい。またしても遠征勢にVをさらわれた。1番人気・レイジーウォリアーは6着に終わった。

飛山濃水杯の表彰式が行われ、優勝を祝った

 ■「勝負強さを発揮してくれた」

 重賞8勝目の加藤聡一騎手。5月5日に名古屋で地方通算700勝を達成。笠松では仲の良い渡辺竜也騎手が通算661勝で追い上げており、内心「いつか抜かれるのでは」との思いもあるようだ。笠松では6年前のくろゆり賞でヴェリイブライトに騎乗。カツゲキキトキトにハナ差勝ちし、自身の初重賞Vを飾っている。

 優勝騎手となり「外枠でしたし、先行馬を前に置いてちょうどいいペースで運べた。最後は外からも来ていたが、勝負強さを発揮してくれて、それに助けられた感じ。いい枠で条件がそろえば力を出せるので、これからも楽しみ。こういう大きい舞台で結果を出すことができたので、また応援よろしくお願いします」と喜びいっぱいだった。

ファンサービスでサインに応じる加藤聡一騎手

 ■復活した「騎手サイン」でファンサービス

 コロナ禍で封印されていた「騎手のサイン」も復活。加藤聡一騎手は、ウイナーズサークル前に詰め掛けたファンが差し出す色紙などにペンを走らせ、ファンサービスに努めていた。笠松の騎手が優勝後にサインできる日はいつになるのか。今シリーズは変則開催で、12日(月)が最終日。22日にはクイーンカップが開催され、1年ぶりとなる笠松所属馬の重賞Vが期待されている。