長尾育子氏 乳腺外科医
乳がんは、日本人女性のがんの約20%を占め、女性のかかりやすいがんの第1位です。乳がんにかかる人は確実に増加傾向にあり、現在は日本人女性の12人に1人がかかるともいわれています。乳がんの予防法があったら知りたいと思うのですが、残念ながら確実な予防法はありません。では、日常生活で何に気を付けたらよいのか?
今回は乳がんの発症リスクと生活習慣について、最新の「乳がん診療ガイドライン2019年版」で示された内容を紹介します。
生活習慣でまず気を付けたいのは太りすぎです。肥満はさまざまな生活習慣病の原因になることが知られていますが、乳がんとの関係も深いことが分かってきました。特に閉経後の女性では、肥満が乳がんの発症リスクを高めることは、確実と言われています。日々の食生活に気を付け、太りすぎないようにすることはとても大切です。肥満の指標として用いられるBMI(体重キロ÷身長メートル÷身長メートル)が、30以上の人は要注意です。
生活習慣では、アルコール摂取により乳がんの発症リスクが高くなることは、ほぼ確実と言われています。ある程度のアルコール摂取は、日々のストレス解消にもなり良い点もありますが、程度が問題です。できれば、1日に日本酒なら1合(180ミリリットル)、ビールなら中ジョッキ1杯、ワインならワイングラス2杯程度にしておくと良いでしょう。アルコール摂取量が増えるほど、乳がんリスクが高まることは確実です。
喫煙が乳がんの発症リスクを高めることも、ほぼ確実と言われています。また、受動喫煙も乳がんリスクを高める可能性があります。たばこは、肺がんや心臓血管系の病気の原因となることが広く知られていますが、乳がんのリスクも高めます。喫煙習慣のある人は、禁煙するとその時点から発症リスクが下がると言われていますので、なるべく早く禁煙することをお勧めします。
運動は閉経後の女性の乳がん発症リスクを、低くすることがほぼ確実と言われています。定期的に継続することが大切で、少し汗ばむぐらいの歩行やジョギングを毎日10~20分程度行うことが推奨されています。
乳製品や大豆製品を摂取すると、乳がんの発症リスクが高くなるのではないか、と心配する声をよく聞きますが、リスクを高めることはないので、安心して食生活に取り入れてください。日本人の乳がん発症率が欧米人に比べて低いのは、食生活に理由があるともされ、特にイソフラボンと言われる成分を含む大豆製品の摂取が、乳がんの発症を減らしているのではないかと言われています。イソフラボンはサプリメントで一度に大量に摂取するのではなく、食生活に大豆食品(豆腐、みそなど)を取り入れ、毎日の食事から摂取することをお勧めします。
乳がんの発症リスクを減らすためには、適度な運動を取り入れ、体重増加に注意し、規則正しい食生活を送ることです。禁煙は、他の生活習慣病の予防にもつながります。既に乳がんと診断され、治療を受けている人にお勧めしたい生活も同様です。乳がんと診断された人のうち、身体活動が高い人の方が長生きするというデータがあるので、乳がんにかかった人も毎日の生活に運動を取り入れ、無理のない範囲で活動的な生活を送ることが大切です。
(県総合医療センター乳腺外科部長)