姫山菊花賞を制覇したストーミーワンダーと渡辺竜也騎手

 ストーミーワンダー(牡5歳、笹野博司厩舎)の強さはもう本物だ。園田の姫山菊花賞Vで、重賞は今年だけで5勝目。3~4コーナーで一気にまくる圧倒的なパフォーマンスで、ほれぼれとする勝ちっぷり。「笠松10年周期の超大物」として、待望のスターホースにふさわしい活躍を見せている。
 
 2009年12月のラブミーチャンGⅠ制覇(全日本2歳優駿)からちょうど10年。「オグリの里」では今年4月、「笠松競馬場育ちのスターホースにはどうやら『10年周期説』があるようだ」と唱え、中央馬を圧倒するような地元馬の登場に期待を込めた。

 ラブミーチャン以前には、(1979年)地方馬による中央初Vを達成したリュウアラナス、(89年)マイルCSからジャパンCへのGⅠ連闘で、競馬ブームに火をつけたオグリキャップ、(99年)デイリー杯3歳S優勝後の朝日杯3歳S2着で、中央の芝GⅠ制覇へ半馬身差まで迫ったレジェンドハンターと、これまで確かに10年周期で笠松から超大物が出現し、中央馬と激闘を演じてきた。 

 だが、近年の笠松所属馬の実力は、他地区の強豪との比較では明らかに劣勢だっただけに、厳しい戦いが予想された。デビューした2歳馬には飛び抜けた存在がいないし、果たして年内に「スター誕生」はあるのか、半信半疑ではあった。

ストーミーワンダーを囲んで優勝を祝う笹野博司調教師(左端)ら関係者

 そんな中、5歳秋を迎えて本格化したストーミーワンダー。得意の1600メートル戦でこれまで8戦8勝と負け知らず。他地区の重賞戦線でも互角以上に戦っており急成長。打倒・中央馬を果たせる実力を備えた競走馬として、「10年周期の超大物」に指名させてもらった。今後は地方重賞だけでなく、JRAとの交流重賞であるダートグレード競走に挑戦して、「笠松にストーミーワンダーあり」を全国にアピールしてもらいたい。

 重賞初Vを飾ったのが1月の笠松・白銀争覇だったが、3月の高知・黒船賞、4月の名古屋・東海桜花賞は相次いで出走を取り消し。順調さを欠いて「未完の大器」といえる存在が、飛山濃水杯、金沢スプリントカップ、くろゆり賞と夏場の重賞を3勝しブレーク。秋競馬でも姫山菊花賞Vで、秘めていた素質を開花させた。

 笠松発のサクセスストーリー。その夢の扉をこじ開けたストーミーワンダーには、今後の活躍が期待できる三つの強みがある。第一は、気性難が解消されて、遠征先(金沢、園田)でも堂々とした走りができたこと。園田では、笹野調教師が「この馬は、笠松よりも遠征先の方がおとなしいです」と話していたように、テンションが高くならずに落ち着いてレースに臨めた。ビッグレースでも普段通りの走りで実力を発揮できるようになったのだ。笠松ではこれまで、パドックから引き返しての装鞍所騎乗が多く、入れ込み癖があったが、「爪を悪くしてから、かからなくなって、距離をこなすようになった。シフトチェンジしてきています」と笹野調教師。気性面で成長し、ギアを上げて園田の姫山菊花賞Vにつなぐことができた。

くろゆり賞でカツゲキキトキトを倒したストーミーワンダー(笠松競馬提供)

 第二の強みは勝つ味を知っている馬で、勝率が高いこと。デビューした中央での3戦は完敗続きだったが、笹野厩舎に転入後は、トップジョッキー(藤原幹生、佐藤友則、渡辺竜也騎手)の手綱に導かれて潜在能力を発揮。藤原騎手での9連勝もあって、25戦して17勝、2着3回。勝率は7割近くで、安定感抜群である。

 第三の強みは必勝パターンに持ち込んで自分のレースができること。2、3番手の好位につけて3コーナーから押し上げると、4コーナーでは一気に先頭に躍り出て、後続馬を寄せ付けないレース運び。特に金沢スプリントカップが圧巻の走りで、佐藤騎手の手綱に応えて、向正面7番手からロングスパートを決めて4馬身差の完勝。JRAのザッツザプレンティで03年の菊花賞を制した安藤勝己さんのレースを見ているようで、興奮させられた。

姫山菊花賞を連覇し、ダートグレード戦線でも健闘したマルヨフェニックス(笠松競馬提供)

 園田の姫山菊花賞といえば、09、10年に笠松のマルヨフェニックス(柴田髙志厩舎)が尾島徹騎手(現調教師)の騎乗で連覇を飾っている。06年のデビューで、地方競馬の低迷期に、ラブミーチャンとともに笠松競馬を支えた。東海ダービーや大井・黒潮賞を制覇するなど全国の重賞戦線で活躍。09年の姫山菊花賞Vの後、名古屋で初開催されたJBCクラシックにも挑戦。ヴァーミリアン(武豊騎手)が勝ったが、マルヨフェニックスは地方馬最先着の5着と健闘。

 重賞は通算14勝で、49戦全てに尾島騎手が騎乗。ダートグレード戦線では帝王賞など4着が5回と、勝利にはあと一歩届かなかったが、笠松競馬の歴史に残る名馬の一頭である。

 そんな先輩マルヨフェニックスに続いてほしいのがストーミーワンダーだ。姫山菊花賞を初制覇した5歳牡馬という共通点もある。飛山濃水杯でサムライドライブ、くろゆり賞でカツゲキキトキトと名古屋の強豪を次々と撃破。勢いでは東海地区最強馬へと名乗りを上げたといえよう。JBC指定競走の姫山菊花賞では連覇を狙った園田のタガノゴールドを完封し、全国の地方競馬ファンを驚かせた。

 騎乗した渡辺騎手は「全国区で勝ちにいけるといいです」と意欲。笹野調教師は「1900メートルまでなら距離は持つでしょうが、1400メートルの名古屋・ゴールド争覇(10月29日)から笠松グランプリ(11月21日)を目指したい」との意向だったが、JBCクラシック(1900メートル)への挑戦も選択肢の一つではあった。年明け以降なら3月の名古屋大賞典や高知・黒船賞、5月のかきつばた記念といったダートグレード競走(GⅢ)は距離適性もあり、挑戦を考えてはどうか。

白銀争覇でストーミーワンダーを重賞初Vに導いた佐藤友則騎手ら

 ストーミーワンダー主戦の佐藤騎手は肩甲骨骨折にも動じず、南関東遠征をスタート。これまで調教を含めて、代打騎乗の渡辺騎手とも強力タッグでストーミーワンダーの重賞Vを後押ししてきた。このところ絶好調の渡辺騎手は、前開催で1日5勝、4勝の固め勝ちもあって計12勝。リーディング争いでトップに立った筒井勇介騎手(92勝)とは17勝差あるが、急追でその背中が視界に入ってきた。

 佐藤騎手、渡辺騎手のどちらが乗っても、「勝利」という結果で応えてくれて、頼もしいストーミーワンダー。この先、どこまで成長してどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。牡馬でもあり、8歳、9歳まで第一線で活躍できるダート界。まずは、けがなどなく無事であることが第一だ。

 笠松デビュー馬として応援しているカツゲキキトキトは6歳になったが、ダートグレードでは2着1回、3着3回で、まだ勝っていない。リュウアラナスやオグリキャップの時代から「中央馬に負けない馬をつくるんだ」という気概にあふれ、チャレンジを続けてきた笠松の調教師やジョッキーら。カツゲキキトキトを負かして、現在4連勝中のストーミーワンダーには、これからもビクトリーロードを突っ走って、東海の絶対エースとして、ダートグレード競走で中央馬を倒してほしい。笠松のホースマンたちの思いは熱い。