【県岐阜商4―3市岐阜商】

 「厳徳(森)のために意地でもチャンスをつくって勝ちにつなげる」。3―3、九回裏の県岐阜商。力投するエース森の代打・水野陽喜は強い思いを胸に先頭の打席に立った。高めを見極め、低めの直球を狙うのがチームテーマだったが、変化球が多い傾向を察知し、切り替えた。4球目、真ん中内寄りのチェンジアップ。左翼にはじき返して二塁打にし、主将日比野遼司のサヨナラ打へつなげた。「課題だらけ」と辛勝での1位獲得にも、すぐさま猛練習を開始した鍛治舎巧監督だが、自責ゼロのエース森については「117球での完投。よく投げた」とたたえた。

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県岐阜商×市岐阜商=9回裏県岐阜商無死、先頭の代打水野が左翼線二塁打を放つ=大野レインボー

「直球の切れと質」 進化目指すエース森

 秀岳館(熊本)時代は完投できる複数投手での継投で甲子園3季連続ベスト4。鍛治舎監督は今夏の反省を踏まえ、投手の「完投能力」にこだわり、新チームを始動させた。中でもエース森は強豪相手の練習試合で完投させ続けている。当初から地区決勝での森完投のプランを立て、準決勝までは他投手を起用する予定だったが、準決勝の岐阜聖徳戦の思わぬ展開に七回途中からスクランブル登板。「1週間以上、実戦から遠ざかっていたので、いい機会になった」と、地区決勝〝岐商ダービー〟のマウンドに立った。

県岐阜商×市岐阜商=9回3失点完投した県岐阜商のエース森=大野レインボー

 立ち上がり、いきなり連打されたが、決め球のスライダーを絡め、2三振と右飛で後続を断った。その後も「球も走り、コントロールもまとまっていた」と失策が重なった1失点のみで、快調に市岐阜商打線を打ち取っていった。

 だが、七回、再び守備の乱れでピンチに陥る。1死二、三塁。3番松井侑海雅を追い込みながら選択した外へ逃げるスライダーが甘く入り、左前適時打され、1点差。さらに併殺崩れの間に同点とされた。九回は3者凡退でギアを上げ、サヨナラの流れをつくったが、「七回はスライダーではなく、内角を厳しく攻めるべきだった」と悔やむ。

県岐阜商×市岐阜商=8回表市岐阜商1死二、三塁、松井が外角スライダーを左前適時打し、1点差=大野レインボー

 名門の創部100年世代のエースが、取り組んでいるのが、ストレートの軌道。〝伸びのある〟と表現される球質にこだわり、握力を鍛えて、握りやリリースの仕方、投げやすさなどを追求している。「切れも球質もよくなって、順調にきている」と森は手応えを実感している。

発展途上の新チーム 公式戦終了直後に猛練習

 一方の打線は決勝では、12安打放ったものの得点はわずかに4。だが、京都国際、大阪桐蔭と強豪との練習試合同様、地区決勝でもサヨナラ勝ちするなど勝負強さは今チームの特徴でもある。サヨナラ打の主将日比野遼司も「少しずつだが、打線はよくなってきている。県、東海に向けて圧倒的に勝てるようにしていきたい」と意気込む。

 打線に加え守備、バントミスと山積する課題に、スタートの地区大会で大いなる発展途上を露呈した名門100年世代。だが、地区準々決勝からの3連戦で連日、試合直後から夜まで猛練習する厳しい指揮官に鍛えられたナインの努力は、今後、着実に結果となって現れるに違いない。

 森嶋哲也(もりしま・てつや) 高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。