東海ダービーを制覇した笠松のビップレイジングと藤原幹生騎手(右)ら関係者

 やはり、競馬に絶対はなかった。名古屋競馬場の最後の直線、単勝1.0倍の本命馬が逃げ込みを図ったが、笠松の追い込み馬の大まくりで衝撃の結末。思わず「やったぞ、笠松」とゴール前で叫んでしまった。

ゴールに向かって猛スパート。サムライドライブ(左)を追って先頭に立つ勢いのビップレイジング(右)

 名古屋、笠松の3歳王者を決める「第48回東海ダービー」(SPⅠ、1900メートル)は、藤原幹生騎手が騎乗した4番人気・ビップレイジング(笹野博司厩舎)が制覇した。デビュー以来10連勝のサムライドライブ(角田輝也厩舎)を豪快に差し切って、笠松勢では2010年のエレーヌ(筒井勇介騎手)以来、8年ぶりの優勝。シニスターミニスター産駒の牡馬が、東海ダービー馬に輝いた。
 
 東海公営では最大の夢舞台。笠松勢が意地を見せて、名古屋勢を圧倒した。差し脚鋭いビップレイジングに「展開がはまった」といえるレース内容だった。

 牝馬のサムライドライブは丸野勝虎騎手が主戦。10連勝中に2着馬につけた着差は何と51馬身半。モンスター級の強さを発揮し、駿蹄賞など重賞では7連勝中だった。東海ダービーでも軽快に逃げたが、2番手キンショーウィーク以下とは差のない展開。勝負どころの3コーナーでは引き離しにかかり、3馬身ほどリード。「やっぱり強い。これは決まりだな」と思わせたが、最後の100メートルで失速気味となった。

ゴール直後のビップレイジングと藤原騎手

 勝ったビップレイジングは、中団内側の6、7番手をがっちりキープして追走。4コーナーで大外に持ち出されると、ゴール前では藤原騎手の左ムチに応えて、切れ味鋭い差し脚がグイッと伸びた。サムライドライブに1馬身半差の勝利。3着には、前走・ぎふ清流カップを勝ったウォーターループ(友森翔太郎騎手)が食い込んだ。ビップレイジングと同じ笹野厩舎で2番人気のドリームスイーブル(岡部誠騎手)は4着。笠松勢のもう1頭、メモリーメガトン(向山牧騎手)は7着だった。

1着が確定。ゼッケン「1」を手にするダービージョッキーの藤原騎手。サムライドライブは惜しくも2着に終わった

 優勝インタビューの藤原騎手。「サムライドライブは強いと思っていたが、ビップレイジングは(名古屋戦では)前回より落ち着いていたし、位置取りも良かった。末脚を生かそうと外へ出して伸びてくれた。サムライドライブを追って差し切れ、いい気分でした。輸送競馬ではエキサイトする馬ですが、他の競馬場でも力を出してくれるといい。また、笠松にも足を運んでもらえたら、うれしいです」と、ダービージョッキーになった喜びをかみしめた。名古屋のユーセイスラッガーで9着に終わった佐藤友則騎手からも祝福を受け、笑顔だった。

第48代の東海ダービー馬になったビップレイジング

 ビップレイジングは昨年8月、北海道・門別から笠松・笹野厩舎に移籍。藤原騎手を主戦に潜在能力を発揮し、秋風ジュニアとジュニアクラウンのJRA認定戦を2連勝。名古屋のゴールドウイング賞では、初対決となったサムライドライブに完敗し3着。今年1月にはJRAに移籍したが、3歳オープン2戦でしんがり負けが続き、笠松に復帰。4月に新緑賞を勝ったが、前走のぎふ清流カップで5着に敗れ、東海ダービーは真価を問われる一戦だった。

東海ダービーの栄冠に輝き、表彰を受けた笹野博司調教師(左)ら関係者

 笹野調教師は「名古屋の重賞も勝っていないのに、初Vが東海ダービーとは...。実感が湧かず、びっくりしています。入れ込みがきついタイプだが、中間の調教もビシビシとやって意外と落ち着いていた。シニスターミニスターの子でうるさいが、馬っぷりが良かった。『いい馬だなあ』と選んで北海道から連れてきて、勝てて良かった」とうれしそう。

 15年前、ピザ屋の店長から29歳で笠松の厩務員に転職。調教師になってまだ6年で、2年連続のリーディングに輝き、今年は「ダービートレーナー」の座を射止めた。「ダービーは勝ちたいと思っていたが、本当に勝つとは想像もしていなかった。自分の思いよりも早く勝つことができ、驚いている。ゴール前では、勝ったのはよく分かっていなくて、『エッ』という感じでした」。

 「ビップレイジングは動揺しやすい馬ですが、目標となるサムライドライブが前にいたので、いいタイミングで外に出していけた。バテないのが強みで、長い距離がいい馬。今後は遠征で大きいレースを狙っていきたい」と、ジャパンダートダービー(7月11日・大井、GⅠ)への挑戦も視野に入ってきそうだ。

ダービートレーナーとなり、喜びの笹野博司調教師

 藤原騎手に対しては「(調教師として)所属するジョッキーを一人前にするのが役目。ビップレイジングには、同じ厩舎の水野翔、渡辺竜也の若い騎手2人も調教で乗ってくれていたし、東海ダービーは3人の力で勝たせてもらった」。4着のドリームスイーブルについては「調教も良かったんで、チャンスがあるかなあと思っていた。いい位置取りだったが」と振り返り、これからも大きい舞台で悔いを残さず、全国的にもファンに愛される馬づくりをしていく決意だ。

 一方、2着に惜敗したサムライドライブの角田調教師は悔しさをにじませた。「ダービーには魔物がいた。強いだけでは、勝利の女神はこっちを向いてくれなかった。馬がメンタル面で成長できるといい。(1900メートルに距離が延びて)あと100メートルが長かったのかも。もっと息が入れられる馬にしたい。今後については全く白紙ですが、もっと強くなってあしたへの道を歩ませていきたい」と巻き返しを誓っていた。

 3歳若駒同士の対決は、成長力が鍵となる。ビップレイジングの陣営では、地元の新緑賞Vの時点で、東海ダービー制覇の夢が広がっていたはずだ。笹野厩舎の2頭が新緑賞ワンツーを決めたが、2着ドリームスイーブルには、サムライドライブの丸野騎手が騎乗していたのは偶然か。

 新緑賞のビップレイジングは、5番手から4コーナーで大外を回して差し切り勝ち。東海ダービーでも必勝パターンを再現し、逃げ込みを図ったサムライドライブをきっちりと差し切った。まだ東海地区の王者になっただけだが、笹野厩舎のチームワークによるハードな調教に応えて、この豪脚をコンスタントに発揮できれば、全国の舞台でもいい戦いができるに違いない。