YJS園田に参戦した深沢杏花騎手とマスコットの「そのたん」

 「積極的な騎乗を見せたい」の宣言通り、果敢な逃げあり、ロングスパートあり。 デビュー4年目、笠松競馬の深沢杏花騎手(21)が7日、ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)園田ラウンドに参戦。見せ場たっぷりのレースで、ファンをワクワクさせてくれた。上位進出はならなかったが、敗れて爽やか。若手同士の熱戦で成長した騎乗ぶりを披露し、レース後には笑顔も見せていた。

 笠松競馬「ウマ娘シンデレラグレイ賞」初代クイーンでもある深沢騎手。8月18日に地方競馬通算100勝を達成。レースぶりも一人前のジョッキーらしくなってきた。YJS園田第1戦の8Rではムーンティアラ(牝4歳)に騎乗。専門紙「競馬ブック」の予想は単穴の▲印だったが、深沢騎手のYJS挑戦は今年が最後。これまで計9レースに騎乗してきたが、10頭立てでも7番人気が最高と、くじ運に恵まれなかった。それだけに朝の発売開始後、ムーンティアラが単勝1番人気に推されていてちょっと驚いたが 最終的には7番人気に落ち着いた。

騎手紹介式では深沢騎手(中央)ら13人が並んだ

 ■騎手紹介式では「センター」、お母さんも応援

 天候は曇りで雨もぱらついたが、この地方の最高気温は32度と真夏の暑さ。JRAから古川奈穂騎手ら5人、地方競馬から8人の若手が参戦した。騎手紹介式で13人のうち、ちょうど真ん中(センター)に並んだ深沢騎手は「最後まで一生懸命騎乗するので応援よろしくお願いします」と意欲。

 兵庫県姫路市出身で、地元の姫路競馬場では今年2月、白鷺賞にナラで参戦したことがあったが、園田競馬場での騎乗は初めて。ゴール前にはお母さんも駆け付けて応援。笠松でのハードスケジュールもあって「実家にはあまり帰ってこられないですが、地元のレースでいいところを見せてほしいです」と声援を送った。深沢騎手は園田競馬場の人気マスコット「そのたん」にも気に入られたようで、最後まで激励を受けていた。  
         

第1戦、1周目ゴール前を先頭で駆け抜けるムーンティアラと深沢騎手

 ■第1戦、逃げて3コーナーまで先頭

 YJS園田は2レースとも12頭立て1400メートル戦。スタート地点は笠松と同じ4コーナー奥。第1戦の8R、深沢騎手は典型的な逃げ馬のムーンティアラ(牝4歳)に騎乗し、大外から好ダッシュ。先陣争いが激しい笠松仕込みの手綱さばきで、鋭く内に切れ込んで先頭に立った。軽快な逃げで2馬身リードし、1~2コーナーを回って向正面へ 。前走800メートル戦では2着に粘り込んだが、距離が延びてどこまで逃げられるのか。

 3コーナーからは厳しいレースになった。同厩舎の馬に先頭を譲り、4コーナーでは3番手に後退。最後の直線ではバタバタになり、しんがり負け。応援するファンらの願いは届かなかった。
 
 レース前「最後は止まっちゃうけど、気持ち良く逃げさせてあげて」と陣営の指示もあって、積極的に逃げる競馬ができた。「同厩舎の馬(他に2頭)がいて、私が前に行って、残ればラッキーだなあと思って乗りました」。3コーナーまでは良かったが「いつもこういうレースだそうで。(後続馬に)すぐに来られちゃいましたね」。

 1400メートルで逃げ切ったこともあったが「笠松なら、いいかもしれないですけど」と苦笑い。 外差しがよく決まる園田の馬場では厳しい展開になった。最後は失速したが、馬にけがなどはなかった。単騎で逃げて見せ場十分のレース内容。「前回の金沢(12着)のように何もなかったわけじゃないから」と力を出し切っただけに悔いはなかった。 

第2戦、しんがり人気だったが7着に健闘したラガーヴィーブ(12番)と深沢騎手

 ■第2戦は他馬接触のアクシデント、12番人気で7着

 2戦目の10Rは実績上位の馬だったが、近走はさっぱり。専門紙など全て無印で単勝90倍、12番人気のラガーヴィーブ(牝6歳)に騎乗した。またも大外枠で「展開が向けばいいなあ」と挑んだ深沢騎手。中団6、7番手につけると 向正面からロングスパートを開始。3コーナーでは3番手に押し上げ、前の2頭を追った。
 
 最後の直線では他馬も殺到し、馬群が密集。ラスト200メートル付近で、外によれた馬が深沢騎手の騎乗馬にぶつかるアクシデント。食らいついて着順を上げられそうな勢いはあったが、ラストスパートは不発。7着に終わったが、トップとは0.6秒差と健闘した。

YJS園田を終え、笑顔も見せていた深沢騎手

 ■「早めに動かし、いいレースをしてくれた」

 検量室前に戻ってきた深沢騎手。先生からは「特に指示はなく、自由に乗っておいで」と言われていた。向正面から結構いい脚で上がっていったが「頑張りました。スッと切れる脚はないそうなんで、早めにジリジリと動かしていきました。前がごちゃごちゃしていましたが、流れでいいところに行けました」とロングスパートに出て、3~4コーナーでは好感触だった。

 「長くいい脚を使ってくれて、最後の直線でも『よしっ』と思ったんですけど、ちょっとぶつけられて、馬がひるんじゃいましたね。でもいいレースをしてくれました」と回顧。人気は知らなかったそうだが、最低人気で7着と健闘。他馬との接触がなければ、掲示板(5着以内)はあったのでは。「最後は伸びずにそのまま7着に終わって、ポイントも伸ばせず、悔しいですね。でも。しっかりと馬が走ってくれて良かったです」と、できることはやり切った。

8R、本馬場へ向かう深沢騎手

 ■次は笠松「地元なんで1着目指して頑張ります」

 トライアルラウンド最後となる笠松ラウンドに向けては「地元なんで頑張ります。1着を2回取れば(ファイナルに)行けますよね。簡単ではないですけど頑張ります」と戦闘モードを次戦に切り替えていた。西日本地方騎手の総合4位以内に入れば、ファイナル切符をゲットできる。

 昨年の笠松ラウンドでは東川慎騎手と長江慶悟騎手がそれぞれ1番人気馬で勝利を飾った。深沢騎手は10番、7番人気馬で5着、7着だった。それだけに今年こそ、笠松では勝負になる馬が当たるといいが…。

 ■兵庫の山本屋騎手と金沢の兼子騎手が1着

 園田ラウンドの第1戦は兵庫の山本屋太三騎手(17)が1番人気・トーアセレーネに騎乗し、8馬身差の圧勝。深沢騎手の騎乗馬と同厩舎の馬で、2番手から楽勝。西日本地方総合3位に躍進した。2着はJRAの角田大和騎手(西日本JRA総合3位)、3着は高知の岡遼太郎騎手(西日本地方総合4位)。

 第2戦は金沢の兼子千央騎手(22)が騎乗した3番人気・ロードヴォラーレ がハナ差で豪快に差し切り勝ち。2着は兵庫の長尾翼玖騎手、3着はJRAの川端海翼騎手だった。兼子騎手は地元・金沢での2戦をけがで欠場しており、ファイナル進出はならなかった。

YJS記念の勝負服キーホルダーを手にうれしそうな深沢騎手

 ■昨年の浅野皓大騎手は最下位からファイナル進出

 深沢騎手は総合8ポイントで16位だが、本人が言うようにまだチャンスは残されている。昨年の名古屋ラウンドでは羽島市出身の浅野皓大騎手(22)が地元・名古屋で1着、2着。50ポイントを獲得して最下位から一気に浮上し、ファイナルラウンドに進出した。深沢騎手にもその可能性はあり、最終戦となる10月11日、地元笠松(2戦)でのラストチャンスで逆転を狙う。ルーキーの松本一心騎手、4年目の長江慶悟騎手も後方グループだが、地の利を生かして巻き返す構えだ。長江騎手は9月21日の名古屋ラウンドでも1戦だけ騎乗する。
 
 園田競馬場内のグッズ店「そのたんSHOP」では、YJS園田に参戦した各騎手の「勝負服キーホルダー」もオリジナルグッズとして販売。深沢騎手にもダイヤモンド柄のキーホルダーが、競馬場関係者からプレゼントされ、記念となってうれしそうだった。この日は、笠松で愛馬たちの攻め馬をこなしてから園田入り。翌日は調教がない全休日だったため、久しぶりに実家へ帰ることができた。

深沢騎手「100勝達成」のセレモニー。多くのファンとサインなどでも交流した

 ■「次の200勝に向けて頑張りたい」見習騎手卒業

 地方通算100勝達成のセレモニーでは「デビューして長い時間かかりましたが、関係者の皆さまのおかげで100勝することができました。ありがとうございます」。これからの目標については「積極的なレースをするように心掛けています。一鞍一鞍大事に乗って次の200勝に向けて頑張ろうと思います」と意欲を示した。セレモニー後の10Rで101勝目、翌日の1Rでも1着でゴールし連勝。これで見習騎手は卒業し、次開催からの負担重量は、女性騎手一律の「2キロ減」での騎乗となる。笠松、名古屋のジョッキー仲間7人が参加。加藤聡一騎手が「祝100勝」のプラカードを持った。大勢のファンがサインを求め、和やかに交流した。 

渡辺竜也騎手「700勝達成」のセレモニー、大勢のファンが見守った(笠松競馬提供)

 ■渡辺竜也騎手「700勝達成」、笠松最多勝記録更新狙う

 8月24日、名古屋2Rでは、渡辺竜也騎手がサーキュレイト(牡3歳、地辺幸一厩舎)に騎乗し、好位から差し切って地方通算700勝を達成した。

 笠松競馬場でセレモニーが行われ、渡辺騎手は「本当は笠松のファンの皆さんの前でやりたかったんですけど、ちょっと早めに名古屋で達成してしまって、申し訳ない気持ちです。順調に勝ち星を積み重ねさせていただいて、今年も笠松の最多勝記録を狙って頑張りたい」。この日も4勝を挙げ「後輩に恥ずかしい姿を見せないようにと思っています」とモチベーションを高め、日々の好騎乗につなげている。ファンには、渡辺騎手と所属の笹野博司厩舎からプレゼント品(クリアマリンボトル)の配布も行われた。

ペップセで岐阜金賞を制覇した浅野皓大騎手。ゴールの瞬間にはガッツポーズも

 ■岐阜金賞はペップセで浅野騎手が制覇

 渡辺騎手、深沢騎手のセレモニー後に行われたのが岐阜金賞。東海地区クラシックレース最後の1冠を制覇したのは浅野皓大騎手騎乗の2番人気・ペップセ(牝3歳、今津勝之厩舎)で、クイーンカップに続いて笠松重賞V2となった。3コーナーから名古屋のクフィール(牡3歳、今津博之厩舎)との一騎打ちになったが、ゴール前では半馬身差で競り落とした。3着に渡辺竜也騎手騎乗の笠松・エンジョイリッキー(牡3歳、田口輝彦厩舎)が食い込んだ。駿蹄賞1着、東海ダービー3着で1番人気の名古屋・リストンは8着に終わった。

 ゴールの瞬間にはガッツポーズも飛び出した浅野騎手。優勝インタビューでは「めったに出会うことのない馬で、素直にうれしいです。大外を生かして馬込みに紛れないように挑み、しっかりハミをとってくれて手応えはとても良かったです」。加藤聡一騎手のクフィールもよく粘っていたが、最後の直線では自厩舎の馬との対決になって「多少やりづらい面もありましたが、競馬は勝負なので、しっかり追うことができて良かった」。
    

岐阜金賞を制覇し重賞2勝目のペップセと喜びの関係者

 「メンバーは強かったですが、馬の力を信じて乗ることができた。これからはもう少し大きいレース、全国交流も狙えたら」と他地区での重賞へも意欲。陣営でも「競馬がうまい」と成長ぶりに手応え。次走は名古屋「秋の鞍」(9月22日)を目指している。笠松コースでは3連勝。ゴールまで100メートルを切ってからの決め手は鋭く、勝負根性が素晴らしい。SPⅠの重賞を勝った堂々のレース内容。雨にぬれた浅野騎手は、うれし涙も浮かべていたようで、何度も目をぬぐっていた。


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。