自転車に衝突される事故に遭った女子生徒。右手には包帯が巻かれている=不破郡垂井町

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い密を避けて移動できる手段として自転車への注目が高まる中、県は2022年、自転車を利用する人に損害賠償責任保険への加入義務を求める新たな条例の制定を進める。県議会の議決などが必要となるが、早ければ10月にも全面運用したい考え。自転車事故関連のトラブルを未然に防ぐ効果を期待しており、県民生活課の担当者は「保険加入が進み、安全で安心な自転車利用が広がってほしい」としている。

損賠責任 加入費の負担が焦点

 条例案は「県自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例案」。自転車利用者だけでなく、子どもの保護者や学校長らの責務・役割を明確化するとともに、自転車利用者と保護者らに損害賠償責任保険への加入を義務付ける内容。さらに、利用時にヘルメットを着用することや、定期的な点検整備、反射材装着などの交通事故防止対策も努力義務として盛り込む。罰則規定は設けていない。

 条例案の焦点となるのは、損害賠償責任保険への加入義務付け。条例が素案通りに定められると利用者の金銭的負担が必要となるため、県は半年程度の周知期間を設けたい考えだ。

 自転車保険を巡っては、神戸市で男子小学生の自転車と衝突した女性が重傷を負い、13年に児童の母親に約9500万円の賠償命令が出たのをきっかけに、全国の自治体が加入を促進する条例の制定に乗り出した。愛知、三重の両県では既に条例が制定されており、21年10月から両県内での自転車利用者に保険の加入を義務付けている。

 岐阜県は20年11月から有識者による懇話会を開き、条例案の内容を協議してきた。県民生活課は21年12月22日に素案を公開しており、県のホームページのほか、県庁や各県事務所で閲覧できる。パブリックコメント(意見公募)の募集は1月20日まで。

保険内容は多種「確認を」

 免許なしで手軽に利用できる一方、誰もが事故に遭い被害者にも加害者にもなり得る自転車。県内でもようやく、条例の制定という形で自転車損害賠償責任保険の加入義務化の取り組みが動き出した。

 自転車損害賠償責任保険は、自転車事故で相手にけがをさせた際などに損害を補償する。損保各社が扱っているほか、整備された車体に適用されるTSマーク付帯保険、マイカーや火災の保険の特約としてカバーできる場合もあり、種類は多岐に及ぶ。コロナ下で自転車利用に注目が集まる中、加入を義務付けた条例が施行された場合、利用者の安全意識が高まるとともに事故によるけがなどが幅広く補償され、被害者が救済される可能性も広がる。

 ただ、保険の補償にはそれぞれ基準があり、加害者が保険に加入していたにもかかわらず、被害者が補償を受けられない事例も起きている。

 不破郡垂井町の中学1年の女子生徒(13)は2021年4月、町内の歩道橋で自転車の男子中学生に衝突される事故に遭い、右手首を骨折。事故後も痛みが残り、髪を自分で結えなくなったり、ペンを持てなくなったりと日常生活に支障が出る後遺症が残った。しかし、女子生徒のけがの程度が、男子生徒の入っていた保険の基準を満たさなかったため、補償は受けられなかった。女子生徒の母親は「何でもいいから保険に入っていれば良いというわけではない。家庭内で補償内容についてしっかり相談すべき」と警鐘を鳴らす。

 女子生徒側は自費で弁護士を雇い、男子生徒側との間で損害賠償の交渉を続けているという。母親は「保険の補償について事前にしっかりと把握しておくことで、事故を起こした側はもちろん、被害に遭った方も救われることがあることを知ってほしい」と話す。