客引き行為が後を絶たない繁華街「玉宮地区」=3日午後、岐阜市長住町

 岐阜県内随一の飲食街である岐阜市の玉宮地区を中心に、JR岐阜駅北の繁華街を対象にした「岐阜市客引き行為等の禁止等に関する条例」が10月1日に全面施行されてから1カ月。無料通信アプリLINEで読者とつながる「岐阜新聞あなた発!トクダネ取材班」に「玉宮の客引き、減ってないのでは?」と、条例の実効性を疑問視する声が寄せられた。市は「目に見えては減っていない」と認め、「パトロールを強化するなど効果的な対策を検討する」としている。

 市によると、この1カ月間で違反した延べ21人に指導、勧告をした。通行人につきまとう悪質な客引き行為が減り、客引きの仕事をやめた人もいることから、担当者は「一定の効果は出ている」と評価する一方で、「客引きがいる」「何も変わっていない」といった意見が1日1件程度、寄せられており、頭を悩ませている。

 市や住民によると、1日平均で20人程度が客引きをしている。指導員が来ると姿を消したり、客引きを中断したりし、指導員が移動すると再開する"いたちごっこ"が続いているという。指導員は3人一組しかおらず、指導や勧告には違反の現認を原則としているからだという。

 客引き側も、不特定多数の人にチラシを配るだけなら罰則の対象外となるため、10月からチラシを片手に路上に立つ新たな作戦を実践しているとみられる。条例の周知に取り組む岐阜駅北地区自治会連絡会の横枕秀夫会長(68)は、客引き行為と思い、その場で注意したところ、「チラシを配っているだけです、と言われた」と話す。おそろいのジャンパーや前掛けをせずに、一般の人と見分けがつかない格好をする客引きも増えたという。

 客引きを利用していない玉宮地区の飲食店の男性経営者(38)は、店側が客引きを使う理由について、「キャッチ(客引き)の会社との付き合いが以前からあったり、イメージが悪くなっても客を連れてきてくれるならいいと考えたりするからだ」と語る。

◆あしらっても100mつきまとわれ 記者が歩いた

 岐阜市の繁華街「玉宮地区」で客引き、客待ち行為などを禁止する条例が全面施行されて1カ月が過ぎても「まだ客引きが減っていない」との声を受け、現地を歩いた。新型コロナウイルス対策に伴う飲食店の営業時間短縮要請が解除されてにぎわう街の影で、客引き行為が後を絶たない実情が見えた。

 午後6時ごろ到着すると、オレンジ色のジャンパーや前掛けを着けた若者がチラシやスマートフォンを見せながら通行人に声を掛ける姿が目に入った。名鉄岐阜駅前のスクランブル交差点から玉宮地区の中心部に至るまで、通行人の後をついて行く客引きが20人ほどいた。

 同地区で複数の飲食店を経営する男性(60)に聞くと、客引きの数はコロナ第5波の緊急事態宣言前と比べると、むしろ増えているそうだ。コロナ禍で落ちた売り上げを取り戻そうと、店も客引きも必死なのだろうとの見方を示しつつ、男性は「コバンザメみたいにお客さんが店を決めるまでついて回るんだよ。しつこいし、道をふさぐようにしてるから通行の邪魔だね」といぶかしんだ。出張で岐阜をよく訪れるという東京のデザイナーの男性(60)は「東京よりも多いんじゃないかな。客引きをするということは、はやっていない店の証拠だからついて行かない」と話した。

 同7時ごろ、仕事帰りのサラリーマンが増えると、客引きもいっそう精力的に活動していた。後輩を連れて飲みに来た同市の男性会社員(47)は「前に比べるとしつこさは和らいだように感じるけど、何人も声を掛けられると正直うっとうしい」と困り顔。建設業の男性(66)=同市畷町=は「あの人たちも仕事だから仕方ないけど、好きじゃないね」と諦めた様子だった。

 店がほとんど閉まる同11時ごろまで、パトロール指導員が客引き行為を注意する場面には遭遇しなかった。軒先に「客引き禁止」のステッカーを貼っているバー(同市玉宮町)の男性店主(61)は「せっかく条例をつくったのなら、もっときつく取り締まってもらわないと」と不満を漏らした。

 取材中にも客引きに声を掛けられた。「軽く飲むならここどうですか?」と、チラシを見せながら声を掛けてきたのは、20歳くらいに見える金髪の男性。あしらいながら歩いていると100メートルほど、つきまとわれた。条例のことを尋ねると、「ルールを守ってやってるんで大丈夫です」と自信たっぷりに返答してきた。

 別の客引きの男性に話を聞いた。大学生という男性は2年以上、ほぼ毎日アルバイトとして働いている。「緊急事態宣言の間は店もほとんどやっていないし、無収入だった。生活費を稼ぐためにやるしかない」と話した。

 客引きに声を掛けられると、正直怖いと感じることがあった。コロナ禍で疲弊した飲食店街が真の意味でにぎわいを取り戻すにはどうすればいいか、もう一度考える必要がありそうだ。

 【岐阜市客引き行為等の禁止等に関する条例】 名鉄岐阜駅前からJR岐阜駅北の玉宮地区などの飲食店街を対象に、通行人の中から特定の人に対し、「飲み屋どうですか」などと声を掛ける客引きや勧誘(スカウト)、客引き・勧誘目的で路上などで客を待つ行為を禁じている。巡回する指導員が違反者に指導、勧告、命令を順に出し、従わなければ5万円の過料を科して氏名を公表する。4月28日に岐阜駅北地区を禁止区域に指定し、10月1日から全面施行した。

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