宮下瞳騎手の騎乗で返し馬に向かうオマタセシマシタ。2勝目を飾った

 笠松競馬のアイドルホースが堂々の逃げ切りで2勝目をゲット! 日本一の女性ジョッキーである宮下瞳騎手が騎乗したオマタセシマシタ(牝3歳、笹野博司厩舎)が10月23日、笠松競馬7Rで圧倒的なパフォーマンスを披露。26日で41歳になったオーナーの斉藤慎二さん(お笑いトリオ・ジャングルポケット)へのビッグなバースデープレゼントにもなった。

 オマタセシマシタは門別、金沢から笠松に移籍後9戦目を迎えた。笠松デビュー戦では渡辺竜也騎手の騎乗で、差し切って初勝利。その後は7連敗だが、10月からは古馬戦のC級編入となったことでメンバーは弱化。前走では宮下騎手が騎乗し「2キロ減」の有利さも生かして大逃げ、3着に踏ん張った。

後続を引き離して逃げ切ったオマタセシマシタと宮下騎手

 ■「ため逃げ」で突き放す強い勝ち方

 宮下騎手騎乗で迎えた2戦目(C級22組、1400メートル)。オマタセシマシタは後続を引き付けて快調な逃げ。3~4コーナーでは、塚本征吾騎手騎乗のシンデレラサリサ(牝4歳)に並びかけられたが、先頭は譲らず。上がりタイムはメンバー最速の39秒3。2着馬に1馬身半差で押し切った。ゴール前では温かい拍手が湧き、多くのオマタセちゃんファンが9カ月ぶりの勝利をたたえた。

 オマタセシマシタは午前中には1番人気だったが、最終的には6.8倍の3番人気で、おいしい馬券にもなった。専門紙の印も▲や△でやや低い評価だったが、これに反発する形で快走した。タイムは1分31秒6で、前走から2秒以上短縮した。

 ここで注目されるのがオマタセシマシタの脚質だ。門別、金沢でのレースぶりや笠松での初勝利では、好位からの「差し」タイプとみられていたが、前走では宮下騎手の初騎乗で「ハナ切り」の新境地を開いた。笠松コースは前開催から時計を要しており、差しも決まる力がいる馬場状態。今回もハナには立ったが、前走のようにバテ込まないよう、ためて逃げる作戦がズバリとはまった。他馬に競られると、ひるんだりする怖がりな面があり、やはり先頭でスイスイと走るのがベストのようだ。

1周目、先頭に立ってレースを引っ張るオマタセシマシタ

 ■「行ったー」「勝ったよ」斉藤オーナー大興奮

 斉藤オーナーは来場できなかったが、ネットでのライブ観戦をユーチューブ配信。「行ったー、すごい」「宮下さん、勝ったよ」と大興奮。電話出演の笹野調教師は「宮下騎手にお任せし、ちょっとためる感じで乗ってもらいました。時計も優秀で、こういう競馬ができて素晴らしいです」と成長ぶりを喜んだ。

 宮下騎手は「オマタセちゃんが頑張ってくれました。ゆっくりしたペースで逃げて、2番の馬には絶対に抜かれないように気合を入れました。突き放してくれて良かったです」と楽な手応えでゴールを飾った。

2勝目を飾ったオマタセシマシタと宮下騎手(右から2人目)ら喜びの関係者

 斉藤オーナーは宮下騎手の好騎乗、渡辺騎手の調教からのリレー、馬具や環境面での笹野先生の尽力に感謝。「お客さんを呼べて、お世話になった笠松競馬場ではもう少し走ってもらいたい」との思いもあるようだが、「目標である船橋につながる走りができた」とのことで、やはり船橋移籍が濃厚だ。

 ■地元・船橋競馬への移籍条件をクリア

 C級レースで1着賞金は40万円。これまでの77万円を含め獲得賞金は117万円となり、船橋移籍条件である「100万円」超えを達成。「愛馬を地元・船橋で走らせることが夢」という斉藤オーナー。オマタセシマシタは船橋移籍の権利を得ることができた。      

 休養効果でパワーアップ。笠松初戦で騎乗して初勝利に導き、調教でもずっと精力的に乗ってきた渡辺騎手。「牧場から帰ってきて元気になったんで、勝てて良かったです。条件も格付け(C級)になっていいですからね」。船橋への移籍条件を満たしたことについて、南関東へは「もう行くんじゃないですかねえ」とのことだ。

今年5月にはオマタセシマシタの斉藤慎二オーナーも来場し、ファンと交流。笠松競馬を盛り上げた

 ■新しい形で笠松競馬を盛り上げてくれた

 現在の上り調子で宮下騎手が笠松競馬で乗り続ければ、連勝街道の可能性もあるが、こればかりは斉藤オーナーが決めること。レベルが高い南関東に移籍すれば、どんな活躍を見せてくれるのか。地方競馬の一頭として長く所属していれば、交流戦や再転入を含めて、またいつか相性の良い笠松で走るチャンスが巡ってくる可能性もある。

 オマタセシマシタは、かつて連敗記録で人気を集めた高知競馬のハルウララ的なアイドルホースでもある。C級馬でそんなに強くはないが、全国的に多くのファンが応援しているのが特徴。大半がネット馬券の時代となり、人気オーナーとともにユーチューブ動画などで注目を集める新しい形でのスターホース。笠松での2勝は内容が素晴らしく、馬券もよく売れた。

 2月には「オグリの里・聖地編出版記念」の協賛レースにも出走してくれたし、大勢のファンを呼び込み、笠松競馬を盛り上げてくれたことに感謝したい。もちろんオマタセちゃんに注目してきた地元ファンの一人としては「笠松卒業」はまだ早いし「船橋移籍は安定した走りをマスターしてからでも遅くはない」との思いは強い。笹野厩舎には1日でも長く在厩して、おいしいものをいっぱい食べて、もっとムキムキになって強くなってほしいが…。

ラホーヤストームに騎乗し、笠松最多勝記録の165勝目を達成した渡辺竜也騎手

 ■渡辺竜也騎手、笠松最多勝更新の「165勝」

 昨年、164勝を挙げて初めての笠松リーディングを獲得した渡辺竜也騎手。川原正一騎手の笠松年間最多勝記録「163勝」超えを達成した。その勢いは加速し、今年も順調に勝利を量産。10月23日には自らの記録を更新する「165勝」を達成。1日5勝の固め打ち。開催4日間で13勝を挙げて175勝まで記録を伸ばした。

 新記録まで「あと3勝」でシリーズ初日を迎えたが1R、3Rを連勝。5Rでは中央からの転入馬ラホーヤストーム(牝3歳、笹野博司厩舎)で5馬身差の圧勝。あっさりと最多勝記録を更新した。

 昨年はけがの影響で1月末の復帰だったが、最多勝を達成。今年は200勝超えも狙えると見ていたが、まだ2カ月を残してこの数字。開催80日で175勝と1日2勝以上とハイペース。年内は残り16日間。この勢いなら35勝ほど積み上げて210勝前後か。名古屋でも今年8勝を挙げており、計183勝で全国リーディングは5位。昨年の10位から大きく飛躍した。

「165勝」の新記録達成で、騎手仲間から祝福を受ける渡辺騎手(笠松競馬提供)

 ■さらなる高みを目指して挑戦

 新記録達成のレースでは「強かったです。個人的にはあまり意識していないです」とのことで、プレッシャーなど感じずに、マイペースで自己記録を塗り替えた。序盤のレースで連勝すると、その日は固め打ちのパターンできっちりと5勝を挙げ、大台となる「200勝に向けて頑張ります」と意欲。さらなる高みを目指して渡辺騎手の挑戦は続く。

 今後は重賞戦線での活躍が期待される渡辺騎手。1着賞金1000万円の「ネクストスター笠松」を勝ったワラシベチョウジャでは、ゴールドウィング賞(名古屋)やライデンリーダー記念への参戦が注目される。笠松勢はネクストスターで笠松所属馬限定の重賞は勝ったが、他地区との交流重賞では1年半も勝てない日々が続いている。

 名古屋、園田勢にやられっ放しでファンは「情けないことだ」と笠松の若大将に期待する声は多い。これについて渡辺騎手は「はい、頑張ります。そんなに期待を背負える人間じゃないですが」とさらり。笠松の歴代リーディングでレジェンドのアンカツさんや川原さんは全国でビッグレースを多く勝ってきた。その2人を超えて、笠松の最多勝記録を更新し続ける渡辺騎手には、どうしても期待したくなる。「数を勝つだけでなく、重賞勝ちなど中身も問われている」と伝えたが、現場では大器ワラシベチョウジャのように、ファンがワクワクできる強い馬づくりが求められている。

ファン待望の「親子ワンツー」を決めた松本剛志騎手(左)と松本一心騎手(笠松競馬提供)

 ■松本親子が待望の「ワンツー」決めた

 26日8Rでは松本剛志騎手(44)、松本一心騎手(18)の親子が待望のワンツーフィニッシュを決めた。父・剛志騎手騎乗の4番人気メイショウコソデ(牝3歳、伊藤強一厩舎)が鮮やかに1着。一心騎手騎乗のヨーコマイラヴ(牝4歳、川嶋弘吉厩舎)が2着でゴールを駆け抜けた。

 最後の直線では2頭のマッチレースになった。逃げた父・剛志騎手の背中を追って一心騎手が一瞬前に出たが、親子で激しいたたき合い。ゴール手前で父が差し返してクビ差で接戦を制した。

笑顔で枠場に入る松本剛志騎手(左)と悔しそうな松本一心騎手(笠松競馬提供)

 ■パパ満面の笑み、息子は悔しそう

 一心騎手は4月にデビュー。これまで親子で1着、3着はあったが、ワンツーは初めて。ゴール後は1~2コーナーをゆっくりと駆け抜け、装鞍所エリアに戻ってくると相次いで1着、2着の枠場に入った。剛志騎手は「まだ息子には負けられない」といった様子で満面の笑み。親子でも勝負に徹して、最終レース後には「いつものレースをしただけ」とクールな表情だった。

 一方の一心騎手は、1番人気で「勝てたのに」という感じで非常に悔しがっていた。父は最終レースも3番人気馬で勝負強さを発揮。クビ差でこの日2勝目を飾った。再び1番人気に推された一心騎手は大きく離されての3着。父の背中の大きさを痛感させられる一日となった。

スタンドには松本親子を応援するファンの横断幕も掲げられ、2人は「ワンツー」で期待に応えた

 ■一騎打ちでのたたき合いに感動

 ゴール前のスタンドには松本親子を応援する横断幕も掲示されており、2人の励みにもなっている。待望の親子ワンツーを観戦できたファンは「ついにこの日が来た。まさかあんな一騎打ちになるとは。お父さんの気合の声がすごかったし、ゴールの瞬間は感動し、涙も出ました」と喜びを語った。「ゴール前でのたたき合いはすごく良かったですし、2人ともきょうのゴールシーンは忘れないでしょう。次は一心君にお父さんの背中を追い越してもらい、一人前になってほしいです」と2人の活躍に熱いエールを送っていた。2度目の親子ワンツーは一心騎手が成長した姿を見せて先着するのか、注目していきたい。


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。