子宮腺筋症

産婦人科医 今井篤志氏

 多くの女性が月経時に体の不調を感じ、何も感じない女性は1割以下ともいわれています。日常生活に支障を来すような腹痛や腰痛を月経痛(月経困難症)といい、深刻な悩みになります。明らかな異常がない場合(機能性月経困難症という)もありますが、月経痛を主な症状とする代表的な疾患に子宮腺筋症があります。

 子宮腺筋症は、子宮内膜類似の組織が子宮筋肉内に発生する病気です。正常な子宮内膜と同じように女性ホルモンの影響を受け、子宮筋肉内で増殖し月経時に剝がれ落ちます。そのため病変部位やその周囲の子宮筋が厚くなります。画像診断を行うと、子宮はいびつに腫大し、筋層内に小さな点状の子宮内膜様組織と出血が散在しています=画像=。子宮全体に病変が発生した場合には子宮が著明に肥大します。

 激しい月経痛が起こる原因は、月経の時に剝がれ落ちてくる子宮内膜に含まれるプロスタグランジンという物質です。プロスタグランジンは子宮を収縮させて、血液(月経血)を押し出す働きがあります。子宮腺筋症では、子宮筋層内の子宮内膜が月経血になっても行き場がなく、年月を経てたまっていくことに加え、剝脱した子宮内膜と血液を排出しようとプロスタグランジンが子宮筋を激しく収縮させるので、月経痛がひどくなります。

 子宮腺筋症に見られる他の症状として月経量の増加(月経過多)があります。子宮が腫大し子宮内膜腔(くう)が引き伸ばされ表面積が大きくなるためです。そのため、剝がれ落ちる子宮内膜組織の量が増えます。女性ホルモンに依存して進展・増悪していくので、月経がある間は病巣は悪化していき、月経痛や月経過多などの症状が改善することはありません。しかし、閉経後には病変は縮小し症状も消失することがほとんどです。

 子宮腺筋症が診断され、治療が開始される年齢のピークは38~39歳です。最近、子宮腺筋症の存在と不妊の関連性が示唆されていますが、子宮腺筋症と不妊を結び付ける直接的な証拠は得られていません。しかし子宮腺筋症では、子宮肥大が生じ子宮の変形が結果として妊娠の成立を妨げることは否定できません。出産年齢が年々遅くなっており、30代後半から40代前半の妊娠希望女性が子宮腺筋症と診断される時期と重なります。

 子宮腺筋症の病因はいまだ解明されていません。出産の未経験者に比べ出産を経験した女性に多く認められます。また、子宮内の機械操作(流産処置や人工妊娠中絶など)の既往も発症リスクの上昇と関連があるといわれており、子宮内膜と筋層のバリア破綻によって子宮内膜が直接筋層内に侵入するという説などが提唱されています。

 治療方法としては鎮痛剤やホルモン剤があります。月経痛のコントロールが難しい場合や妊娠出産を希望する場合は、手術療法という選択肢もあります。月経痛が、数カ月前から何となく重くなってきた気がするという場合には、子宮腺筋症といった月経痛の原因の芽が隠れている可能性があります。生活リズムや人生設計を考えながら、最適な治療方法を考えましょう。