笠松競馬場内に掲示されている所属騎手一覧表。下段が期間限定騎手

 「笠松競馬を盛り上げたい」。所属ジョッキーが9人(1人欠場)に半減し、フルゲート(12頭)に満たない異常事態が続く笠松に「期間限定騎乗」で全国から頼もしい助っ人たちが来てくれた。北は北海道から南は高知まで。10代の若手から50代のベテランまで。笠松・名古屋の東海勢と、応援に駆け付けた有志たちが熱いレースを繰り広げている。

 昨年11月から参戦している馬渕繁治騎手(55)、黒沢愛斗騎手(34)の北海道勢2人に加え、新春シリーズから新たに6人が加わり、計8人に増えた。騎手や調教師の馬券購入などで揺れた笠松競馬への参戦には、本人の勇気と決断、各地方競馬主催者や厩舎関係者の理解があってのことだ。短期間であり、有力馬への騎乗は多くないだろうが、新天地で刺激を受けて思い切った騎乗を見せてほしい。

 新たな6人は、冬季休業中の岩手から高橋悠里騎手(34)=後藤正義厩舎=と岩本怜騎手(20)=笹野博司厩舎=、同じく金沢から青柳正義騎手(36)=後藤佑耶厩舎=と服部大地騎手(40)=栗本陽一厩舎=、大井からは田中洸多騎手(19)=笹野博司厩舎=、高知からは妹尾将充騎手(21)=川嶋弘吉厩舎=。

期間限定騎乗でムーンライトベガに騎乗。新年初勝利を飾った青柳正義騎手(笠松競馬提供)

■金沢リーディングの青柳騎手いきなり2勝

 新春シリーズ初日(11日)は助っ人たちの活躍が目立ち、歓迎セレモニーも行われた。青柳正義騎手がいきなり2勝、若手の田中洸多騎手も1勝を挙げて好スタートを切った。

 青柳騎手は昨年、金沢で108勝を挙げて騎手リーディングに返り咲いた。2016年にはヤマミダンスでラブミーチャン記念を制覇しており、トップジョッキーとしておなじみの顔。初日はともに所属厩舎の馬で好位から差し切り勝ち。レース後、馬場状態について「普段の笠松とはちょっと違う感じで、内が重いですね」と分析。白銀争覇では、昨年2着の金沢・ファストフラッシュに騎乗予定だったが「勝ちたかったのに、回避しちゃったんで残念です」と。「別の馬には乗るんで頑張ります」と話していたが、所属厩舎のタイセイグリードで白銀争覇3着に食い込んだ。

 思い出の騎乗馬は「(14年に)東海ダービーを勝ったケージーキンカメ」。当時は東海・北陸交流で、名古屋のノゾミダイヤに6馬身差をつける圧勝劇で金沢所属馬として初制覇。青柳騎手を一回り成長させてくれた。目標にしている騎手は「やっぱり金沢の先輩の吉原寛人騎手ですね。追い抜くとは言えませんが、何とか後ろに付いていきたいです」と意欲。2、4日目にも勝利を挙げ、地方通算1052勝とした。期間限定では「金沢の騎手が各地で頑張っているんで負けないように、笠松を盛り上げられたらいいな」とうれしい一言。場内からは「金沢のリーディングが来てるんだ。やっぱり、うまいな」という声も聞かれた。

金沢から笠松での期間限定騎乗に挑んでいる青柳正義騎手(左)と服部大地騎手

■服部騎手、笠松競馬場は12年前に再デビューした地

 金沢の服部大地騎手は、2000年に山形・上山競馬場でデビューしたが、03年に上山廃止に伴い、騎手免許を返上し引退。その後は金沢で厩務員を務めていたが、09年12月に騎手免許に合格。10年1月、期間限定騎乗先の笠松競馬場で騎手として再デビューを果たした。競馬場廃止で一時は騎手の仕事を断念した苦労人で、今回、再び笠松で2月25日まで騎乗することになった。思い出の騎乗馬は「(上山で)初勝利を飾ったジーエムマイルズです」。「(冬季は)牧場の方で乗ったりするんですが、今回は環境を変えて笠松競馬場を希望しました。一生懸命乗ります」と意欲を示した。

 初日から専門紙予想「無印」の馬で好騎乗。4番人気で3着、6番人気で2着と奮闘し、ファンも驚く3連単125万円馬券に絡んだ。馬場傾向は「重めの感じで、金沢みたい。力がある馬なら来るでしょう。期間中、また馬券に絡めるように頑張っていきたい」と。穴党には要チェックの騎手になりそうだ。

テーオーラトゥールに騎乗し、笠松で初勝利を飾った田中洸多騎手(笠松競馬提供)

■大井の田中騎手、笠松での勝利量産に燃える

 歓迎セレモニー直前のレース、お世話になっている笹野厩舎の所属馬で勝利を飾った大井の田中洸多騎手。レベルが高い南関東で2年前にデビューした。1年目、岩手でも5カ月間の期間限定騎乗。思い出の馬は「(盛岡で)初勝利を飾ったダテノトライアンフ」。南関東では騎乗機会に恵まれず、これまで1勝どまりで、笠松で勝利量産に燃えている。目標とする騎手は「(大井の先輩)笹川翼騎手で、笠松では兄弟子の渡辺竜也騎手です。先輩騎手に指導してもらって少しでも騎乗を改善し、結果を残したいです」と闘志満々。

 初日の初勝利では、4コーナーで先頭を奪うと向山牧騎手の追撃を振り切った。「勝てて良かった。きょうは1頭でも結果を出せてうれしいです」。最後は2馬身半突き放しての勝利に「『内は回るな』と言われていたんで、外を回りました。結構離すことができて楽でしたね。(笠松では勝負どころの)3コーナーで動かないとね、坂の上から」と満面の笑みで久々の勝利を喜んでいた。

 笠松での騎乗は4月10日までの3カ月間。減量騎手の身でもあり、「今の目標は30勝です。笠松でどのくらい勝てるか分からないですが、まずは現在の減量3キロ減を2キロ減にしたいです」。南関東ファンがネットでも応援してくれており、「もっと頑張らないと駄目ですね。深沢杏花騎手や名古屋の細川智史騎手とは同期ですし」と前を向いていた。

高知から妹尾将充騎手(左)、大井からは田中洸多騎手が参戦

■「イイネ」妹尾騎手、高知からうれしい挑戦

 セレモニーでは雨の中、最初に登場した高知の妹尾将充騎手と田中騎手。ツーショットでのスマイル全開の決めポーズに、思わず「イイネイイネイイネ」と笠松にもいる馬名を連呼してしまった。妹尾騎手は、19年4月デビューで、田中騎手の1年先輩。「(教養センターでは)僕は特に優しかったです。後輩には怒ったことないんで」と。笠松の東川慎騎手のほか、昨秋の笠松グランプリを高知・ダノングッドで勝った多田羅誠也騎手とも同期だ。思い出の馬は「デビュー初勝利を飾ったタイキパラドックス。厩務員さんも同い年の新人で4勝した馬です」。目標とする騎手は高知の先輩である永森大智騎手。

 笠松では昨秋のヤングジョッキーズシリーズで2着、5着と騎乗経験があった。期間限定騎乗初日は「先行したんですが、前回と比べて馬場が全然違いました。高知みたいに内を空けて乗ったんですが、笠松は乗りやすいですね。馬も少ないですし」。騎乗は3月末まで。昨年、高知では23勝。今回の挑戦は「今の自分では頭打ちなんで、何かきっかけをつかめたらと笠松へ来ました。他のジョッキーたちとレースをするのは勉強になるかなと。たくさん勝てるよう、がむしゃらに頑張りたい」と闘志をみなぎらせていた。

 冬季休業でもなく、笠松に比べれば、かなり暖かい高知競馬場。馬券の売り上げは超V字回復で勢いがあるのに、あえて笠松での騎乗にチャレンジしてくれた。「高知からも来てくれるのか」と意外だったし、その心意気がうれしい。2日目9Rでは追い上げて2着。近年、高知の人馬は笠松での重賞レース遠征で活躍する傾向にあり、妹尾騎手の騎乗ぶりにも今後注目していきたい。

岩手から参戦した岩本怜騎手(左)と高橋悠里騎手

■岩手の高橋騎手、モズでオグリキャップ記念6着

 岩手の高橋悠里騎手は、7年前のオグリキャップ記念でも騎乗。これまで重賞13勝で、地方通算884勝。昨年は124勝を挙げて岩手リーディング5位と活躍した。「たまたまじゃないように、今年も岩手に戻ったら、また頑張りたい」。思い出の馬は「モズという馬がすごく個性的だった。攻め馬は嫌がって全然走らないんだけど」と話していたが、北上川大賞典とかきつばた賞(盛岡)で騎乗し重賞2勝。高知のリワードレブロンが勝って波乱になった15年のオグリキャップ記念にも参戦し、6着だった。笠松は「すごく乗りやすいです。水沢競馬場より小回りで、ちょっとトリッキーなところがあるかな」。

 目標とする騎手は「園田からJRAに移籍した岩田康誠騎手や、引退した木村健騎手ですね」。まだ騎乗数は少ないが、3日目には7番人気、8番人気の馬で2着に食い込んで卓越した騎乗技術を発揮。馬券作戦でファンの注目を浴びそうだ。

■岩本怜騎手、ヤングジョッキーズ総合Vで実力十分

 岩手の岩本怜騎手は、18年4月デビューで地方通算286勝。「2019ヤングジョッキーズシリーズ」で総合優勝に輝いた。船橋市出身で、ファイナルラウンドでは中山競馬場のJRA初騎乗で初Vを飾った。クリノオスマンに騎乗し、直線で力強く抜け出し、デビュー2年目での快挙となった。年間87勝を挙げ、地方競馬全国協会から「NARグランプリ2019優秀新人騎手賞」も受賞。思い出の騎乗馬は「初めて重賞を勝ったサインズストーム」で、盛岡・早池峰スーパースプリントを制覇した。

 笠松では初日6Rで初騎乗。ワイルドジャーニーで先手を奪って粘り込みを図ったが、惜しくも2着だった。「勝ち切ることができなかったので、あす以降のレースで頑張りたい。ファンの皆さんに名前を覚えてもらい、同じ地方競馬として盛り上げていきたいです」と意欲を示した。2月11日までの短期騎乗だが、勝負強さを発揮か。6年連続笠松リーディングの笹野厩舎所属でもあり、今後チャンスは増えそうだ。

■黒沢騎手9勝、笠松コースとの相性抜群

 先行騎乗していた北海道勢では、馬渕繁治騎手が1勝2着5回で、2月8日までの騎乗。黒沢愛斗騎手は1月28日までだが、新春シリーズでも4勝を挙げる活躍。これまで9勝2着12回と好騎乗を見せており、笠松コースが合っている感じ。冬場は期間限定騎手が増えるが、通年では乗り役不足になる笠松競馬。相性が良い黒沢騎手は、通年騎乗も考えてほしい一人である。
 
 期間限定騎手の応援について競馬組合では「笠松の騎手が不足しており、レースや調教で大きな役割を担っていただいています。特に調教では厩務員の騎乗も多かったが、やはり騎手の方だと助かります。他の地方競馬からの協力はとてもありがたいです」と心強いサポートに感謝している。

 騎手不足解消のため、地方競馬教養センターへは、新春シリーズ開催前に渡辺騎手と深沢騎手、組合職員と調教師らで訪問。渡辺騎手らはゲートスタートや騎乗の仕方なども披露。まだ所属先が決まっていない騎手候補生もいるようで「ぜひ笠松に来てください」と受け入れをアピールしたそうだ。

新春シリーズ初日に勝利を挙げた田中洸多騎手(左)、長江慶悟騎手(中央)、深沢杏花騎手(笠松競馬提供)

■深沢騎手1着、長江騎手3着で3連単125万馬券

 新春シリーズ初日、笠松勢の一番星は長江慶悟騎手。深沢杏花騎手は大みそかから年をまたいで3日連続での勝利を飾った。
 
 まず通算3勝目を飾った長江騎手。「良かったです。きょう勝った馬は前回も勝てそうでしたがゲートで出遅れました。今回は初めから大外を回れたんでチャンスがあるかなあと。最後は際どかったですが、ハナ差でぎりぎり勝てました」と笑顔を見せた。

 深沢騎手は初日3R、7番人気の馬で新年初勝利を飾って3連単125万円の大穴馬券を演出した。9頭立てで、無印の馬3頭での決着。「たまたまですよ。3着に入ってくれた慶悟君もあってのことで」と。3コーナーから早めのスパートで積極的なレース運び。4コーナーで先頭を奪うと「お願い、来ないでと乗ってた。後ろを振り返る余裕もなかったです。タイムを見たら、(1400メートル)1分35秒台で時計がかかって遅かったです」と展開も味方したようだ。8番人気の馬で3着に踏ん張った長江騎手も「すごくはまりましたね。この2人で印がないのは分かってたんで。でも深沢さんの馬が来るとは思わなかったです」と苦笑い。深沢騎手と同期の大井の田中騎手も7Rで勝利。「(一昨年デビューした)3人とも新年初日から勝って良かったです」と馬具を手入れしながら、晴れやかだった。

■名古屋の岡部騎手「みんなが競い合って、いい競馬を」

 笠松でも昨年リーディングの名古屋の岡部誠騎手。初日1Rでいきなりの勝利。

 名古屋勢は再開後の笠松開催でいっぱい騎乗してくれ、助けてくれた。年明けからは期間限定の騎手が増えたため、名古屋の騎手が笠松で乗る機会はやや減っているが、岡部騎手は「全国からジョッキーが来てくれるんでね。みんなが競い合って、それで新しくいい競馬を見せられれば、お客さんも喜んでくれると思う」と期間限定騎手の参戦にエールを送っていた。

 来場したファンも新たな挑戦を歓迎。「勝ち負けよりも、全ての人馬がけがをしないで無事にゴールできて、楽しんでもらえればいい。応援してます」、「田中騎手には、笠松でいっぱい修業して大井に戻って活躍してほしい。笠松で再デビューした服部騎手は懐かしいし、穴馬券に絡んでいたからまた頑張ってほしい」、「いろいろな色の勝負服を見て楽しめるのがいいです」といった声があった。

 雨の中、歓迎セレモニーを見守ったファンの数は少なかったが、ネットの画面越しでは大勢の全国のファンが注目して、声援を送ってくれている。馬券の売り上げも初日から5億円超えが続いて好調だ。昨冬は新春シリーズ明けに騎手らの所得税申告漏れなどが発覚。不祥事による開催自粛で、期間限定騎乗で来ていた岩手と金沢の騎手もレースに騎乗できないという大失態があったが、今年は何とかゴールを目指してもらえている。

 定期的に不祥事が発生する「火薬庫」のような競馬場で、いつ暴発するか分からないが、昨年あれだけの苦難を経験したのだから、まあ当分は大丈夫だろう。今年1年間、より魅力あふれるレースが平穏に開催されることを祈りたい。