笠松競馬場へ帰ってきた若大将に新たな栄冠。2年連続でリーディングに輝いた渡辺竜也騎手(23)が、NARグランプリ2023「ベストフェアプレイ賞」受賞が決まった。昨年11月、レース中の落馬事故で大けがを負って療養を続けてきたが、1月後半戦のウインター争覇シリーズから戦列復帰。初日にいきなり2勝を挙げ、74日ぶりにファンの前で元気な姿を見せてくれた。
ベストフェアプレイ賞は、地方競馬で年間100勝以上を挙げ、一度も制裁を受けていないジョッキーのうち好成績の者が選出される。渡辺騎手は昨年191勝(笠松183勝、名古屋8勝)で全国リーディング8位。レース中、フェアで模範的な騎乗を続け、勝利数も多かったことが評価された。
川原正一騎手が笠松時代に2度(1998、2000年)受賞しており、渡辺騎手は笠松では史上2人目の快挙。一連の不祥事後、レースの公正確保に努め「クリーン度100%」で浄化を進めている笠松競馬にとっても、うれしいトップジョッキーの受賞となった。渡辺騎手のNARグランプリ受賞は2018年の「優秀新人騎手賞」以来2度目。
■「いつも丁寧な騎乗を心掛けています」
渡辺騎手に喜びの声やレース復帰などについて聞いた。(2日目の最終レース後)
―ベストフェアプレイ賞おめでとう。全国でただ一人の貴重な賞で、今のお気持ちは。
「うれしいですね。モチベーションにつながる賞を頂いたんで。いつも丁寧な騎乗を心掛けているので、それが良かったのかなあと思います」
(ベストフェアプレイ賞は21、22年に名古屋の岡部誠騎手が受賞しており、東海勢は3年連続となった)
―笠松勢では川原騎手以来で2人目の受賞になりますね。笠松の年間最多勝記録も、以前は川原騎手でしたね(一昨年、渡辺騎手が更新した)。
「笠松の大先輩ですね。特に意識していないですが、遠征に行った時や笠松に来てもらった時にお会いしたことがあります」
■「戻ってきたなあという感じ」
―けがの具合はどうですか(顎などを骨折)。年末から調教に乗って、レース復帰日に2勝、きょうも最後勝ちましたね。
「悪くないですよ。レースで痛みとかけがの影響はなくて、戻ってきたなあという感じです。来週、佐々木竹見カップがあるんで、それにも合わせて復帰しました。そっちも頑張りたいなあと」
―療養中、不便だったことは。
「飯を食えなかったことです。それがしんどかったですね。肉が好きで、(手術後の第一声は)『矢場とん食いたい』と言っていたようですが、あんまり記憶にないですね」
―渡辺騎手がいない間、レースは荒れたりしていましたが、ファンへの思いは。
「その方が面白いんじゃないですか。ファンの皆さんには期待してもらっているので、また笠松競馬を盛り上げていければなあと。それに応えられるか分からないですが、自分なりに頑張っていくんで、応援してもらえるとうれしいです」
(エース復帰でレース全体が落ち着いた感じになり、ファンも予想しやすくなったのでは。渡辺騎手から流して買っておけば、3着以内は確保してくれそうで)
■「僕のやりたい競馬をやるだけ」
―今年の目標はどうですか。
「復帰したばっかりで、あんまり考えていないんで。ゆっくり乗っていくなかで、見えた目標を追い掛けて頑張っていきたいと」
―一昨年も1月は、けがでほとんど乗っていなかった。
「勝利数とかはそんなに気にしてないんで、その開催ごとに追っ掛けていくだけで、頑張りたい」
―NARグランプリ表彰は2度目ですね。騎乗数にもよるが(勝利回数など)、ベストフェアプレイ賞は1度取ったことで、狙いやすい賞では。
「まあ狙って取ったわけではないです。その賞は耳にしたことがあるんで、受賞はうれしいです。今後もやることは変わらないし、またもらえればいいです」
(NARグランプリ表彰では、最優秀勝率騎手も目指せそうなタイトルだ)
―まだ若いですが、笠松のエースとして引っ張っていってもらいたい。
「応援してもらえればと思います。そんな大役は務まらないですけど、僕のやりたい競馬をやるだけです」
―勝ちたいレースは。
「特にないです。平場でも重賞でも、乗せてもらえるレースは全部勝ちたい」
―渡辺騎手がいない間に、(5連勝していた)ワラシベチョウジャが負けちゃいましたね。
「調整だったり、いろいろあるんじゃないですか。今は牧場に上がっていますよ」
(ワラシベチョウジャはネクストスター笠松を勝った期待馬。放牧から戻ってきたら、渡辺騎手の手綱で復活させてほしい)
■渡辺騎手復活、姫路で重賞V(兵庫クイーンセレクション)
降雪の影響で笠松競馬は3日目が取りやめになった。翌日には重賞のウインター争覇が行われたが、渡辺騎手は姫路での3歳牝馬重賞「兵庫クイーンセレクション」(1400メートル)に参戦した。
唯一の遠征馬で名古屋のニジイロハーピー(今津勝之厩舎)に騎乗し、向正面からスパート。早めに先頭に立つと、1番人気プリムロゼの追撃をかわし、そのまま押し切って2馬身差で制覇。渡辺騎手は6年連続の重賞Vで通算9勝目。ストーミーワンダーで姫山菊花賞を制するなど相性の良い兵庫競馬では3勝目となった。
ニジイロハーピーは名古屋・ゴールドウィング賞3着、ライデンリーダー記念2着と重賞で好走、単勝2番人気に支持された。それにしても、復帰して騎乗3日目に重賞Vを決めるとは、さすが渡辺騎手。ファンに復活を強く印象づけた。
兵庫クイーンセレクションで渡辺騎手は3年前、同じく名古屋のニジイロ(川西毅厩舎)で勝っており(姫路初騎乗で重賞V)、このレース2勝目。ゴールインではガッツポーズも決めて、愛馬に感謝を伝えるなど歓喜の一瞬を表現。実況も「ここ姫路に再び虹の懸け橋」と好騎乗をたたえた。姫路競馬場は、渡辺騎手所属の笹野博司厩舎が、開業2カ月で重賞勝利を飾った相性の良いコース。姫路チャレンジカップで「鉄の女」トウホクビジンが、川原正一騎手の手綱で豪脚Vを飾っていた。
■「ニジイロ」つながり、強い気持ちで好結果
勝利騎手インタビューで渡辺騎手は「3度目の騎乗でしたが、大きいレースに乗せてもらい勝てたんでうれしいです。すごく手応えが良く、向正面で先頭に立ってしまいましたが、馬がよく辛抱してくれた。3歳で成長が楽しみ」。復帰後即重賞Vについては「けがで2カ月休んでいて乗せていただき、強い気持ちで向かった。(この馬の)初重賞勝利になって自分にとっても自信になった。(僕も)復活しました」とアピールした。
ニジイロつながりのニジイロハーピーという馬名について「意識せずにはいられらかったし、結果を出せて良かったです。笠松競馬のお客さんも見てくれていると思うんで、応えることができたのでは」と喜びをかみしめた。顔面のけがからレースに復帰したばかりで、いつものはじけるような笑顔ではなかったが、日々レース勘を取り戻し、エンジン全開へ。「一鞍入魂」で最高のパフォーマンスを発揮する渡辺騎手。「完全復活」も近そうだ。
■ウインター争覇、友森騎手がセイルオンセイラーで制覇
好メンバーがそろった笠松・ウインター争覇(SPⅢ、1800メートル)は、8頭立てで7番人気の名古屋・セイルオンセイラー(セン馬5歳、塚田隆男厩舎)が友森翔太郎騎手の騎乗で鮮やかに逃げ切った。2着コンビーノ、3着アルバーシャで名古屋勢が上位を独占した。友森騎手はこのレース、メモリージルバ以来5年ぶり2勝目となった。
笠松勢は5連勝中だったエンジョイリッキー(牡4歳、田口輝彦厩舎)の4着が最高だった。森山英雄厩舎の2頭は東海ゴールドCではワンツーだったが、激戦疲れもあったのだろう。1番人気・ナリタブレードは最後方から伸びず6着、ストームドッグも差し脚を発揮できず、7着に終わった。
笠松所属馬は東海ゴールドCでストームドッグが勝ち、地元重賞の連敗記録を「25」でストップさせたが、年明け重賞は撃沈。名古屋の騎手が掲示板の1~5着を占めた。
友森騎手は重賞12勝目だが、笠松ではメモリージルバで5勝を挙げるなど通算7勝目。先行策を生かしてコース相性は抜群だ。「楽なペースで逃げられて、チャンスがあると思った。直線でやや脚が上がったが、最後は勝負根性でしのいでくれた」と振り返った。最後に「これからも笠松競馬、そして名古屋競馬を応援よろしくお願いします」とファンに呼び掛け。サインなどにも応じて和やかに交流した。
■佐々木竹見カップ、渡辺騎手2度目の挑戦
佐々木竹見カップ(1月30日・川崎)は、渡辺騎手にとって2度目の挑戦になる。地方から森泰斗、岡部誠、吉村智洋騎手ら計12人、JRAからは横山武史、松山弘平騎手が参戦する。東海勢では岡部騎手がこれまで準優勝4度。渡辺騎手は昨年12着、3着で総合7位だった。今年は復帰即重賞Vの勢いで上位を目指したい。
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