向山牧騎手の好騎乗で白銀争覇を制覇したニホンピロヘンソン。2着イルティモーネ、3着タイセイグリードで笠松勢が上位を独占した

 ただ1頭、異次元の走りだった。各馬が砂の深い内ラチ沿いを避けて外めを回るなか、ポッカリと空いたインコースを突いた「牧さんマジック」が鮮やかに決まった。後方2番手から一気に先頭を奪った笠松の人馬が1着でゴールを駆け抜け、スタンドから拍手が鳴り響いた。

 北陸・東海・近畿交流の「第27回白銀争覇」(1400メートル、SPⅢ)が13日、笠松競馬場で行われ、向山牧騎手騎乗のニホンピロヘンソン(セン馬6歳、川嶋弘吉厩舎)が豪脚を発揮し、差し切りVを飾った。2着イルティモーネ(田口輝彦厩舎)、3着タイセイグリード(後藤佑耶厩舎)と笠松勢が上位を独占。1、2番人気の兵庫勢を圧倒し、新年初重賞で好スタートを切った。

■内が重くて力がいる馬場、「外差し」よく決まった

 通常の笠松コースは逃げ馬有利な軽い馬場だが、年末からは内側が重くて力がいる特殊な馬場状態で「外差し」がよく決まった。逃げた馬は2、3着にも残れないレースが続出。ゲートも内枠の馬が苦戦し、外枠の馬が上位に来るケースが目立った。

 年末開催前、コースには凍結防止剤が投入されて整備。降雪によるレース取りやめ(12月27日、5R以降)もあって、馬場状態に影響したとみられる。このため「内を避けて、外を回れ」と、各騎手は内ラチ沿い数頭分を空けて回るレース運び。ファンの馬券作戦でも「8枠から」と注目を集めた。

 勝ったニホンピロヘンソンは「上がり37秒台」を連発する強烈な差し脚が武器。全国から強豪がそろった前走・笠松グランプリでは10着だったが、一息入れて、白銀争覇を目標に向山騎手がじっくりと乗り込み、好仕上がりとなった。

3コーナー、先行して競り合う兵庫勢2頭を追うニホンピロヘンソン(前から4頭目)。各馬が外めを回るなか、向山騎手はインコースを突き、スルスルと先頭へ

■あえて内ラチ沿いを選択、人気の兵庫勢2頭を撃破

 レースでは元中央オープン馬の兵庫・ノボバカラ(牡10歳)=落合玄太騎手=とヘルシャフト(牡5歳)=下原理騎手=の2頭が競り合う形で先行。「やはり人気の兵庫勢のワンツーなのか」とも思われたが、勝負どころで脚色が鈍り、力を要する馬場の落とし穴にはまってしまった。

 3番人気のニホンピロヘンソンは大外10番枠からのスタートでやや出遅れ。後方2番手からの追走となったが、末脚勝負に徹した。

 向正面からは、あえて内ラチ沿いを選択した牧さん。馬込みなど前に壁はなく、スルスルと追い上げを開始。3~4コーナーでは、外めを回った兵庫勢2頭を一気にかわし、先頭に躍り出た。最後の直線では、進路を内から外へと切り替えて後続を突き放し、イルティモーネ=岡部誠騎手=に2馬身半差の完勝。タイセイグリード=青柳正義騎手=が突っ込んで3着。各地のリーディング経験者3人による上位決着となった。

■「重い馬場が合っている」と馬の力を信じた勝利

 翌日の最終レース後、「牧さん、きのうのレースだけど、勝てる自信はあったんですか」と聞いてみた。「いや、ないです。ただ展開は決めてたんです。絶対に内から行こうと。あの馬、乗ってて分かるんだけど、(軽い馬場よりも)重い馬場の方が合っているからね。(外めに)距離を回るより、内を回った方がいいなと。それを狙っていたから」と、してやったりの様子。深くて重い馬場でも、通常なら距離ロスが少なくて「経済コース」となるインを選択したのだ。

 「さすがですね」。力を要する馬場で、ニホンピロヘンソンの力を信じ切った牧さん。「重賞ハンター」としての円熟味と勝負強さを発揮し、時計がかかる重い馬場を見事に攻略した勝利となった。
 
 表彰セレモニーでも「思った以上に走りました。どうせ前には行けないので、覚悟を決めて内に行きました。3~4コーナーを回る時、ああ勝ったなと思った」と手応え十分の勝利となった。地元ファンらから「おめでとう」と大きな拍手が送られ、笠松勢の新春Vを喜び合っていた。

ニホンピロヘンソンの白銀争覇Vを喜び合う関係者(笠松競馬提供)

■笠松の大将格へ、さらなる成長期待

 ニホンピロヘンソンはルーラーシップ産駒。中央で連勝後、GⅠ・朝日杯フューチュリティS(15着)やシンザン記念(12着)にも参戦した期待馬だった。笠松の開催自粛中は、有力馬の他地区転厩も目立ったが、ニホンピロヘンソンは移籍することなく、笠松でじっくりと調整。くろゆり賞2着はあったが、重賞は初制覇となった。白銀争覇の過去5年は1分25~27秒台での決着だったのが、この日は、やや重で1分29秒9という笠松重賞ではかなり遅いタイムで、スタミナ勝負の戦いとなった。
 
 川嶋調教師も「もう少し距離はあった方がいいが、恥ずかしくないレースはできるよ」と手応えを感じていた。「追い切りで強くやってもよくないタイプですが、今回はうまく仕上がった。今後は馬の様子を見つつですが、次開催のオープンで使えれば」と意欲。まだ6歳でもあり、笠松の大将格へとさらなる成長が期待されている。
 
 古豪ノボバカラは中央時代、ダートグレードの名古屋・かきつばた記念、さきたま杯を勝った実績馬。印象深いのはコパノリッキーが勝った17年・マイルチャンピオンシップ南部杯(GⅠ)。応援していたキングズガード(寺島良調教師=岐阜・北方町出身=の管理馬)との3連単2頭軸で、7番人気のノボバカラが2着に入り、まさかの高配当をゲットできたのだ。

 今回「ノボバカラが笠松で見られるとは」と注目していたが、10歳馬が単勝1.7倍とは過剰人気だったようだ。道中はヘルシャフト(4着)にピタリと競りかけられて息が入らず、4コーナー手前で脚をなくしてしまい、6着に終わった。スタンドでは、ノボバカラや落合騎手の横断幕を掲げて応援する熱い女性ファンの姿も見られたが、残念そうだった。

2020年の笠松グランプリを制覇したエイシンエンジョイ。笠松に転入し、活躍が期待されている

■年末年始の重賞戦線で笠松勢2勝、2着2回と明るい兆し

 昨年は不祥事による開催自粛で、所属馬が他地区へ転出して激減。一時はオープン馬も少なくガサガサになっていたが、このところ笠松に復帰、転入してきた馬たちが活躍。厩舎や競馬場にも活気が戻ってきた。
 
 まずは東海ゴールドカップを制覇したウインハピネス(牡7歳、森山英雄厩舎)。豪快な差し切りで、大原浩司騎手は10年ぶりの重賞制覇を果たした。大井から転入3戦目だったが、元笠松在籍馬。19年のオータムカップV、笠松グランプリ3着の実力馬で、素質を開花させた。

 東海ゴールドカップ2着だったのはベニスビーチ(牝4歳、田口輝彦厩舎)。盛岡・ダービーグランプリにも挑戦(10着)した期待馬で、門別、大井、金沢を経て笠松に再転入。ウインハピネスの差し脚には屈したが、金沢重賞で2勝を飾った吉原寛人騎手とのコンビで力は出し切った。

 エイシンエンジョイ(牡7歳、笹野博司厩舎)はサウスヴィグラス産駒の快速馬。兵庫時代に笠松グランプリ(20年)をはじめ白銀争覇、サマーカップを制覇し、重賞6勝の実績馬。年明けの名古屋記念では藤原幹生騎手の騎乗で、逃げ込みを図ったが、ゴール寸前で名古屋・ナムラホーマに差し切られてハナ差負け。3着馬とは7馬身差で、持ち前のスピードを発揮してくれた。脚質的にも笠松、名古屋の馬場は合いそうで、今後は東海地区の重賞戦線を引っ張っていく存在になりそうだ。

 大みそかから新春シリーズの半月間で、笠松勢はウインハピネスとニホンピロヘンソンが重賞勝ち、ベニスビーチとエイシンエンジョイが2着と好成績。年末のジュニアキングで差し切りVを決めたイイネイイネイイネ(牡3歳、田口輝彦厩舎)は、名古屋・新春ペガサスカップで3着に突っ込んで健闘。ゴール前のレース実況では「イイネイイネ」と短縮され、「イイネ」が一つ少なかったが…。堅実な差し脚を武器に、次走では勝ってフルネームで呼ばれるといい。後藤正義厩舎のドミニク、シルバとともに、東海ダービーに向けて成長が楽しみな明け3歳である。

 古馬、3歳とも戦力が整いつつある笠松勢。次走以降の重賞戦線への期待が膨らんできた。1月28日のオープンではイルティモーネ、アドマイヤムテキなどの登録があり、重賞級のハイレベルな一戦になりそうだ。

名古屋、笠松で勝利を量産する岡部誠騎手(中央)。2018年にはオグリキャップ記念をエンパイアペガサスで制覇し、アンカツさんの祝福も受けた

■笠松でもリーディングの岡部騎手「恩返しとして精いっぱい」

 笠松では現在、期間限定騎乗の騎手8人が参戦しているが、名古屋の岡部誠騎手はほぼレギュラー。昨年は地方競馬で298勝を挙げて全国リーディング3位。地方競馬全国協会の「NARグランプリ2021」の表彰では、ベストフェアプレイ賞に全国でただ一人選出された。年間100勝以上を挙げ、かつ制裁を一度も受けていない騎手から選ばれる賞で、笠松では過去に川原正一騎手が2度受賞している。岡部騎手も2度目。「公正競馬確保の徹底」に努めている笠松競馬のレースでは、各ジョッキーが岡部騎手の騎乗を見習い、よりクリーンな競馬に努めていきたい。

 岡部騎手は、昨年末引退した岩手の名馬・エンパイアペガサスに4年前のオグリキャップ記念で騎乗し、大差勝ち。騎乗した笠松でのベストレースともいえるだろう。今年はフルシーズンでの笠松参戦になりそうで、目標などを聞いた。
 
 ―笠松でもリーディングになりましたね(52勝でトップ)。

 「特に意識しなかったですが、笠松は開催自粛で特殊な年だったんでねえ。そのような状況で、まあ複雑ですが。いいものを提供したいと乗った結果が、この数字になったのかなあと思います」

 ―藤原幹生騎手らと競っていましたが、12月30日の3連勝でほぼ決まりました。(名古屋、笠松ともにリーディングは)アンカツさんもやってないことを達成しましたね。

 「いい馬に乗せてもらっているんでね。その関係者の方たちへのお恩返しとして、いい競馬をしたいと思っているだけです。(リーディングを)また取ることは難しいでしょうが、タイトルを意識しないわけではないです。(笠松で)取れたのはうれしいですし、続けられるよう精いっぱい乗りたいです」

 ―(年間298勝で)300勝の手前でしたが。

 「ちょっと足りなかったですけど、それを新しい年の宿題にして頑張ります」

 期間限定騎手が地元に戻れば、再び乗り役不足になる笠松競馬にとって、岡部騎手の存在は大きい。厩舎サイドからの信頼も厚く、騎乗数は増えるだろう。今年は船橋の森泰斗騎手、兵庫の吉村智洋騎手とともに「300勝トりオ」の一角を占めて、全国リーディングを奪取するチャンスも巡ってきそうだ。

新春シリーズ3勝と好スタートを切った深沢杏花騎手(笠松競馬提供)

■深沢騎手、成人式後の新春シリーズ3勝で好スタート

 デビュー3年目の深沢杏花騎手。大みそかから開催3日間連続で勝利を飾った。今年最初のレースを7番人気・マスカレード(伊藤勝好厩舎)で差し切り勝ち。2日目のクインズミント(森山英雄厩舎)は初騎乗だったが、5番手から勝利。「森山厩舎の馬で、人気してたので(2番人気)、勝ちたいなあと思っていました」。鋭い末脚で「勝てて良かったです。すごく安心しました」と喜んでいた。

 最終日にも自厩舎のランタン(田口輝彦厩舎)で逃げ切り、早くも3勝目。いずれも牝馬に騎乗して好スタートを切った。すごく調子がいいようで「いい馬に乗せてもらって、勝つことができてラッキーです」。体力強化とともに騎乗技術もアップしており、開催4日間で3勝できたことは「珍しいですね」と本人もびっくり。昨年は「1開催1勝」を目標にしていたが、今年は飛躍の年になりそうで、期間限定騎手も含めて若手ではトップの勝ち星だ。

 昨年12月に20歳の誕生日を迎え、成人式には、地元・兵庫で10日に出席したそうだが、笠松・新春シリーズが始まる前日だった。「成人式に行きましたが、すぐに帰ってきて調整ルームへ入って、翌日からレースでした。(成人式は)楽しかったですよ。でも同窓会には出たかったです。やっぱり一番楽しいじゃないですか」と残念そうだったが、友人らと会ってリフレッシュ。レースでは赤ダイヤモンド柄の勝負服で躍動。長江慶悟騎手とともに2022年初騎乗で初勝利を飾った。

■東川騎手は「全日本新人王争覇戦」、渡辺騎手は次開催復帰へ

 東川慎騎手は「全日本新人王争覇戦競走」(1月25日、高知で2戦)に出場。JRAから秋山稔樹騎手ら3人、地方からは9人で、笠松で期間限定騎乗中の岩本怜騎手(岩手)も参戦する。東川騎手は1月24日が22歳の誕生日でもある。このところの笠松勢のいい流れに乗って、ここは一発やってくれそうな予感も…。不祥事の余波で昨年のヤングジョッキーズシリーズに出場できなかっただけに、一暴れしてきてほしい。

 調教中のけがで昨年10月から療養していた渡辺竜也騎手は、次開催(25~28日)から戦列復帰の予定で、エース級の参戦は大きな戦力になる。27日には3歳重賞・ゴールドジュニアがあり、カントリードーロ(向山騎手)やパステルモグモグ(深沢騎手)も出走する。

 笠松競馬の将来を背負っていく若手騎手や若駒たち。ファンの熱い応援も大きな力にして、さらに成長していきたい。