眼底造影写真。上方の白くなっている箇所が新生血管

眼科医 金田正博氏

 前回は糖尿病に伴うさまざまな合併症についてお話ししました。今回はその中でも最も重要な糖尿病網膜症について少し詳しく説明します。

 糖尿病は高血糖が慢性的に続く病気で、身体中の細かな血管が障害される病気です。眼底には物を見る神経細胞が詰まっている網膜という組織があります。その網膜の血管が障害されて起きるのが網膜症です。網膜の毛細血管壁に問題が生じ、最初は小さな点状の出血や毛細血管がこぶ状に膨らむ毛細血管瘤(りゅう)が見られるようになります。進行すると大きな出血が生じたり白斑が出てきたりします。さらに病気が進むと網膜の毛細血管が広範囲に閉塞(へいそく)してきます。そうなりますと血液不足になった組織から「血管内皮増殖因子(VEGFと呼びます)」という物質が出現してきます。このVEGFという物質がいろいろな問題を引き起こします。

 最も問題になるのはVEGFが増えることによって、網膜に新生血管と呼ばれる異常血管が生じることです。新生血管はとてももろい血管で、眼内に大出血を起こしたり、さらに新生血管が増えると網膜の上に膜状に広がって(増殖膜と呼びます)、これが縮むことによって網膜がはがされて網膜剝離を来したりします。そうなると失明の危険が出てきます。また、この新生血管が隅角と呼ばれる眼内の水(房水)の排出路に生じると、眼圧が急激に上昇する血管新生緑内障を生じます。これは最も管理が難しい緑内障で、やはり失明の原因になります。VEGFは網膜の一番大事な部分(黄斑と呼びます)に腫れが起きる黄斑浮腫の原因にもなります。

 では糖尿病網膜症の治療にはどういったものがあるのでしょうか。軽症の場合は慎重に経過観察を続けます。進行してきたら新生血管の発生を防ぐために網膜にレーザー治療を行います。黄斑浮腫も視力低下の原因になりますので、浮腫が生じてきたらVEGFを眼内から一時的に減少させる抗VEGF剤を直接眼内に注射し、黄斑浮腫を軽減させるようにします。抗VEGF剤は新生血管も一時的に縮小させる効果もあります。さらに悪化して眼内に大出血や網膜剝離が生じたりした場合は、硝子体手術という手術を行います。

 以前に比べ治療法の進歩により失明する方は減ってきましたが、それでも助けられない方も残念ながらいます。そうならないためには糖尿病と診断された時点でたとえ自覚症状がなくても眼科を受診していただき、その後も指示に従って定期的な検査を続け、適切なタイミングで必要な治療を受けることが大切です。