春の日差しを浴びて飛び跳ねる養殖鮎=13日、美濃市生櫛、美濃養魚場
若鮎ながら腹いっぱいに卵を抱いた「長良乙女」

 養殖池の水面が沸き立つように盛り上がる。餌を求めて群れ泳ぐ稚鮎たち。波のように飛び跳ねる姿が、ほとばしる生命力を感じさせる。

 「うちは『泳ぐ魚』が大前提。なるべく脂を乗せていない」と美濃養魚場(岐阜県美濃市生櫛)の福井高穂(たかほ)代表取締役(60)。友釣りで天然鮎をおびき寄せる「おとり鮎」が生産の主力で、強い水流で泳がせ、日の光に当てることで、野生に近いスマートな魚体と体色の再現を目指す。

 

 和紙材料の問屋を営んでいた釣り好きの父長吉さんが、仲間と3人で1972年に創業した。長良川左岸から約400メートル。養殖に適した水温高めの井戸水が立地の決め手だった。

 福井さんが東京の機械メーカーの営業職を辞め、養魚場に入ったのは33歳の時。「戻ってきた頃は、作ればそれなりに売れた時代だった」。長良川水系の約80軒のおとり販売店のほぼ全てに供給し、食用を含め年30~40トンを生産するが、近年、出荷はピークの3分の2にとどまる。

 鮎養殖は低迷している。農林水産省の統計によると、最多の91年に1万3855トンあった養殖鮎の生産量は、2022年で3683トンまで落ち込んだ。「食生活が変わり、一番減ったのは市場出荷。生産者は減り、河川文化も継承されていない」と全国鮎養殖漁業組合連合会(事務局・大津市)の木村泰造会長は嘆く。

 おとり鮎の需要はまだあるが、友釣り客の減少やルアー釣りの普及で先が見通せない。そんな中、福井さんは他にない加工品への道を模索した。骨が柔らかな春の若鮎に卵を持たせられたら……。「川魚で一番の問題は、骨。丸ごと食べられるシシャモのような鮎が作れないか」

 16年に2000匹で試行したところ、いきなり成功する。おとり鮎で培った、卵を持つ時期を遅らせる電照の技術の応用だった。

 10年入社の静岡県出身の里見修一さん(39)は「これを世に出したい」と奮い立つ。アパートの台所でレシピを練り、2000匹以上の試食を重ねた。塩焼き、薫製など5種を商品化し、「長良乙女」の名で道の駅やサービスエリアなど約30カ所で販売。5年前に調理場も建ち、今や年6トン分を出荷する人気商品に育った。

 「鮎は天然、天然と言われるけど、自然界にないものを技術で作り出せたのは、養魚場の面白さかな」と福井さん。目的に合った魚を送り出してきた自負をのぞかせた。