消化器内科医 加藤則廣氏

 最近は健診や医療機関での上部消化管内視鏡検査によって、逆流性食道炎と診断される方が多くなっています。逆流性食道炎とは胃酸が食道内に逆流する疾患です。典型的な症状は胸焼けや心窩(しんか)部不快感、胸のつかえなどですが、食道外の非定型的な症状もみられます。また、逆流性食道炎は睡眠障害との関連性もみられます。今回は逆流性食道炎の非定型的な症状と睡眠障害について取り上げます。

 非定型的症状は主に耳鼻科系と呼吸器系の症状です。胃酸が下部食道だけでなく上部食道から咽喉頭領域、さらに気道にまで影響することによって発生するとされています。症状は慢性的な喉の不快感や痛み、慢性的なせきなどがあります。通常の耳鼻科的な診察によって器質的な病変を認めないときは咽喉頭異常感症と診断されますが、多くは逆流性食道炎の治療薬である制酸剤で軽快します。また頻度は少ないですが慢性中耳炎や歯の障害などの成因にもなります。

 逆流性食道炎はぜんそくを重症化させることが知られています。一方では、ぜんそくが逆流性食道炎の成因にもなります。ぜんそくでは横隔膜の働きが悪くなり、横隔膜が有する胃酸の食道の逆流を防止する機能を障害します。またぜんそくの治療薬であるβ(ベータ)刺激薬は、食道下部括約筋の圧力を下げて胃酸が食道内に逆流しやすくなります。このように逆流性食道炎とぜんそくは相互に関連性がみられます。また逆流性食道炎は肺線維症との関連性も推察されています。

 逆流性食道炎は睡眠障害とも関係しています。夜間の睡眠中に食道内に胃酸が逆流すると、不快感で覚醒反応の比率が高くなり睡眠障害を引き起こします。一方、逆流症状を改善させると睡眠障害の発生が少なくなるとの研究報告もあり、逆流性食道炎の十分な治療が睡眠障害も改善します。なお、胃酸の食道への逆流の程度が強くなると狭心症や心筋梗塞と間違えるような強い胸部痛を発生します。検査では心臓は正常であるために非心臓性胸痛と診断されています。制酸剤の投与で症状は改善します。

 睡眠薬はこれまではベンゾジアゼピン系薬剤が多く使われてきましたが、下部食道内圧を下げる作用もあり胃酸の食道内への逆流を来しやすくするため、逆流性食道炎を悪化させる要因の一つでした。また高齢者では薬剤の代謝が遅く、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は翌日まで薬剤の影響が残って認知機能の低下や転倒などや骨折、倦怠(けんたい)感などが懸念されています。最近はメラトニン受容体作動薬のラメルテオンや、オレキシン受容体拮抗(きっこう)薬のスボレキサントやレンボレキサントなどの新しい睡眠薬が用いられるようになりました。逆流性食道炎との関連性はないこともあり推奨される薬剤です。

 逆流性食道炎は上記のように食道以外にもさまざまな症状がみられますので、気になる症状があれば、かかりつけ医や消化器内科医にご相談ください。逆流性食道炎の治療薬はプロトンポンプ阻害剤と、より制酸作用が有用なボノプラザンが用いられるようになっています。

◆逆流性食道炎の症状(モントリオール分類2006)

①定型的症状(食道症候群)

  胸焼け、呑酸(どんさん)

②非定型的症状(食道外症候群)

 1)非心臓性胸痛

 2)食道外症状

  a.逆流性食道炎と関連が確立

   喉頭炎

   せき

   ぜんそく

   歯の酸蝕(しょく)症

  b.逆流性食道炎と関連が推察

   喉頭炎

   副鼻腔炎

   特発性肺線維症

   再発性中耳炎