正常膝関節のMRI(矢印がACL)
ACL損傷膝関節のMRI(矢印が損傷部位)

整形外科医 今泉佳宣氏

 膝のACL損傷という言葉を聞いたことがありますか? ACLとは膝関節に存在する前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)のことです。ACLは大腿骨(だいたいこつ)と脛骨(けいこつ)とをつなぐ膝関節内の靭帯で、膝関節の前方への安定性に役立っています。スポーツなどでACLを損傷すると膝の痛みや腫れが生じ、後に前方不安定性が生じることになります。前方不安定性の症状として運動時や階段昇降時の膝くずれがあります。日常生活においてはさほど支障はありませんが、多くの場合はスポーツ活動の継続が困難となります。

 スポーツ活動中のACL損傷は非接触プレーで受傷する場合と、接触プレーで受傷する場合があります。非接触プレーでの受傷はジャンプの着地などで膝関節が少し屈曲した状態で内側に入ることで起こります。このタイプの損傷はとりわけ女子バスケットボール選手に多いことが知られています。一方、接触プレーでの受傷はラグビーやアメリカンフットボールのタックルなど他の選手との接触に伴い生じることが知られています。したがって、どのような状況で膝関節をけがしたかを詳細に尋ねる問診はACL損傷を診断する第一歩です。

 問診でACL損傷を疑い、次に診察を行います。受傷後間もない時期は膝関節は腫れていませんが、時間がたつにつれて腫れてきます。これは損傷した靭帯から出血が続くことで膝関節内に血がたまること(血腫)によります。大体20ミリリットルの注射器1本から2本分くらい血がたまっていることが多いです。

 代表的な徒手検査としてラックマンテストがあります。膝関節を軽く曲げた状態で大腿骨を一方の手で固定し他方の手で脛骨を上に持ち上げようとすると、ACL損傷の場合は途中で脛骨が止まることなく持ち上がるような感じになります。これによりACL損傷に伴う膝関節の前方不安定性を知ることができます。

 問診、診察に続き画像検査を行います。ACLは単純エックス線写真に写らないため、MRI(磁気共鳴画像装置)検査を行います。MRIでACLの描出が不明瞭ないしは描出されないときは損傷を疑います。またMRIでは、他の靭帯損傷の有無や半月板損傷の有無の確認を行います。

 ACL損傷による腫れや痛みは受傷後、しだいに軽減していき、1カ月程度で通常の日常生活は可能となります。しかし前述のようにスポーツ活動で容易に膝くずれを起こすようになるため、スポーツ復帰を希望する患者さんには手術が行われます。

(朝日大学保健医療学部教授)