消化器内科医 加藤則廣氏

 慢性肝炎の成因にはB型やC型肝炎ウイルス、アルコール、薬剤、自己免疫性疾患などの他に、これまで「脂肪肝」とされてきた「非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)」があります。近年、脂肪肝の中に、ウイルス性肝炎などと同様に肝硬変や肝がんを来すものがあることが明らかになってきました。

 肝臓はエネルギー源として脂肪を蓄積しますが、過剰に蓄積するとNAFLDと診断され、国内では現在2千万人以上いるとされます。NAFLDの中には肝臓の線維化が進行して肝硬変や肝がんに至る非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が含まれています=図上=。

 NASHが肝硬変に進展する機序の一つは、糖尿病の病態と関連性が深いと考えられています。NASHでは糖尿病と同様にインスリンの効果が低下するインスリン抵抗性がみられ、血中に増加したインスリンが肝臓に蓄積された脂肪に作用して発生する脂肪毒性が肝細胞を害します。NASHは5~10年の経過で肝硬変に進展して肝がんの発生母地になります。糖尿病患者の主な死因は脳血管障害や心疾患が多いとされてきましたが、最近では肝硬変や肝がんなどもほぼ同程度であることが明らかになっています。

 NAFLDと診断されたら、肝臓の線維化の程度を早く診断することが重要です。診断には肝臓の一部を採取する肝生検が必要です。最近は肝臓の線維化を測定できる腹部超音波検査やMRI(磁気共鳴画像装置)が開発されていますが、導入はまだ一部の医療機関のみです。一方、健康診断などの血液検査の肝機能検査値を用いた「FIB-4インデックス」でも肝臓の線維化を予測できます=図下=。1・3未満では線維化の可能性は低いですが、2・67以上では高度の線維化が危惧されるので、早めに専門の医療機関で精密検査や治療が必要です。なお、スマホやパソコンで「FIB-4インデックス」を検索して数式に数値を入力すると、計算をしてくれます。

 現在はNASHに対し保険適応のある治療薬はまだなく、治験薬が開発段階です。肝臓の線維化が軽度であれば、主として適切な食生活や運動および体重管理などの生活習慣の改善で、健康な肝臓に回復することも可能です。なお、メタボリック症候群も内臓脂肪の蓄積により高血糖や高脂血症を来して心臓や脳の血管障害などの生活習慣病に至りますが、NASHはメタボリック症候群の肝臓における表現型ともいわれます。

 またNASH患者では男性では大腸がん、女性では乳がんの合併がみられることも報告されていて注意が必要です。「脂肪肝」と言われたら放置せずに早めに医療機関を受診してください。

(長良医療センター消化器内科部長)