オグリキャップの孫娘レディアイコ。岩手から笠松に移籍し、後藤佑耶厩舎に入厩した

 オグリキャップの孫娘・レディアイコ(牝4歳)が岩手競馬から笠松競馬に移籍した。1月下旬に後藤佑耶厩舎へ入厩。軽めの調教から追い切りにも励み、仕上がりは順調。如月シリーズ初日となる2月7日第5レース(C級31組)に出走を予定。「オグリキャップの聖地」笠松でデビューを果たす。

 地方、中央を通じてもオグリキャップの孫は、現役ではレディアイコただ一頭。父モーリス、母ミンナノアイドルで、母父がオグリキャップという血統。祖父が宿敵マーチトウショウらと熱戦を繰り広げた笠松競馬場で、レディアイコが覚醒した走りを見せてくれるか。「オグリの血が騒ぐのでは」と全国のファンが注目している。

 レディアイコはこれまでJRA(美浦・尾関知人厩舎)で2戦し未勝利。岩手競馬(佐藤祐司厩舎)に移籍後は6戦して3着が最高だった。一口馬主クラブ「ローレルクラブ」の再ファンド対象馬でもあり、JRA復帰を目指すとともに、オグリキャップの血統を継承する繁殖牝馬としても期待されている。再ファンド規定は競走馬地方登録から1年間で、JRAに復帰するためには、地方在籍中の8月までに3勝することが条件になる。このため冬季休業中の岩手から出走機会を求めて笠松に転入し、再出発することになった。

レディアイコを管理している後藤佑耶調教師(中央)ら。愛馬の初勝利を目指している

 

■普段はおっとり、調教後は牝馬らしくカッカ

 1月19日には厩舎入り。芦毛馬で女の子らしくかわいい感じで、どことなくオグリキャップにも似ている。後藤佑耶調教師はレディアイコについて「普段はおっとりしていて、厩舎ではそんなに手が掛からないです。馬場での調教後は牝馬なんで元気で、帰りにカッカしているところもあります。それがレースでいい方に向いてくれれば」と期待。
 
 ウマ娘漫画「シンデレラグレイ」では、オグリキャップが大食いキャラで、実際にも飼い葉を食べまくっていた。小柄なレディアイコの飼い葉食いについては「女の子なんでそんなには。でも、まあまあ食べてますね」と。今後、体重を増やしてたくましく成長していければいいが…。

 担当厩務員は柳江俊明元調教師の息子さんが務めており、馬への愛情と馬体を見る目は筋金入り。アイドルホースの担当でパドックでも注目を浴びることになるが、「繁殖に上がる予定だそうで、故障することなく無事にいってくれれば」と優しく見守っている。

 レースでは笠松のコースが合うかどうか。柳江厩務員は「この馬は、時計がかかる力のいる馬場タイプなのか、タイムが速い軽い馬場の方がいいのか。軽い馬場タイプなら、今の笠松では厳しいんで。1回使ってみてどうなのか」と見ており、笠松でのコース適性が鍵を握りそうだ。

 佑耶調教師は「相手関係や馬場適性もあるんで、笠松でどういった競馬を見せてくれるかですね。脚質的には『やってみなきゃ』ですが、笠松は今、馬場のイメージが年末から変わってきていて、(逃げ有利だったのが)追い込みも決まってますね。(レディアイコの)差しが決まれば面白いかも。まだ力量を推し量っているレベルですが、基本的に跳びの感じは悪くないです」と、一変の可能性も秘めているようだ。

 岩手では結果を出せなかったが、「こっちでいい走りをしてくれればと期待してます」。成績次第になるが、笠松でいつまで走るかについては「聞いてないですが、まずは無事に繁殖に上がってくれることですね」と、元気に送り出すことも使命としている。

■「笠松競馬を盛り上げる存在になってくれれば」

 笠松初戦は1400メートルで、C級からのスタート。「相手関係もありますし、もちろん期待していますが『絶対に勝つ』とか言えるわけでもなく、ちゃんと無事に出走できるようにやっていくだけです。恥ずかしくないレースをできるように送り出すのが厩舎の仕事なんで」

「お帰り」。一時里帰りしたオグリキャップと初代オーナーの小栗孝一さん=2005年4月、円城寺厩舎

  オグリキャップの孫ということで、全国からファンが多く来て注目されそうで、佑耶調教師も「笠松競馬を盛り上げる存在になってくれればいいですよね」と。岩手から笠松転入となったきっかけは「(馬主でもある)佐藤牧場さんとちょっとお付き合いがあって、うちでどうかと。これまで厩舎への預託はなかったんですが、(佐藤牧場生産馬の)岩手・エンパイアペガサスが笠松に来たことがあって(オグリキャップ記念を圧勝)、そこで顔見知りなったことからです」。

 2005年4月、オグリキャップは存廃に揺れた笠松競馬再興のため、北海道から笠松競馬場へ一時里帰り。父・後藤保調教師の厩舎が改修し、用意した専用厩舎に入った。そういった縁もあって、今回、レディアイコも笠松入りした。

 当時、円城寺厩舎に到着したオグリキャップ。競馬組合管理者の広江正明笠松町長は「夢のよう。ファンが笠松競馬を見直すきっかけ。オグリキャップに続く名馬誕生への勇気づけになってほしい」と歓迎。初代馬主の小栗孝一さんは「帰ってきてくれてうれしい」。元調教師の鷲見昌勇さんは「芦毛が随分白くなったが、体形はいまだにほれぼれする」と感激でいっぱいだった。オグリキャップ記念のレースが行われた競馬場では、詰め掛けたファンの前で主戦だったアンカツさんとも対面し、ちょっと入れ込んだ。

■JRA復帰へ再生なるか、笠松で3勝という条件

 孫娘のJRA復帰は3勝という厳しい条件だが、オーナーでもある佐藤牧場が笠松へ送り出した。「冬場は岩手のレースがなくて、笠松で少しでも可能性を見いだしたいし、オグリの古里でもあるということで、こっちへ来たんですよね。笠松の水が合えば、いいですね」と佑耶調教師。笠松にはワカオライデンやラブミーチャンのようにJRAから転入後、再生して活躍した馬も多く、調教師の皆さんの腕も確かだから、新天地で大きな変わり身も期待できる。

 中央では蓄膿症の影響でデビューが遅れた。昨年6月、東京・ダート3歳未勝利戦では、レース経験豊富な馬たちとの一戦で16着に終わった。馬体重380キロと小柄で体力不足が課題に。2戦目は藤田菜七子騎手が騎乗し、新潟芝で9着。メンバー最速の上がりタイムで追い込み1着馬と0秒8差。芝への適性を示した。JRA3歳未勝利戦は9月初旬に終了。陣営では「岩手で経験を積んで成長してきてほしい」と送り出した。

 岩手では、兄ミンナノヒーローで地方通算3500勝を達成した村上忍騎手が騎乗した。馬体重400キロ台に成長。脚質はまだ手探りで、2走前には逃げて3着に粘った。中央、岩手で8戦したが、重馬場が多く、良馬場は藤田騎手が騎乗した1戦のみ。現在、追い込みも決まりやすい笠松コースで差し脚を磨けば、初勝利を挙げるチャンスも十分だ。

オグリキャップ記念を制覇したエンパイアペガサスと関係者=2018年4月

■長江騎手、調教でレディアイコに騎乗「乗りやすいし、走りもいい」

 1月末、レディアイコの攻め馬を担当していたのは、若手の長江慶悟騎手。「オグリキャップの孫」だと聞くと、「あー、入りました。最初の段階では藤原さんが乗ってましたが、今は僕が乗っていますよ。思ったよりおとなしくて、攻め馬の帰り際に少しちゃかちゃかするぐらい。キャンターでも乗りやすいし、走りもいいと思います。来たばっかりですけど、レースに行って走りそうですね」と期待。翌朝には軽めの追い切りも行った。「早めに反応を見るためにサーッと行くだけ。そんなにバチバチと仕上げていくわけじゃないですが」と。「レース本番では僕が乗る可能性は少ないです」とも話していた。騎乗するのは、昨年の金沢リーディング・青柳正義騎手に決まった。笠松での期間限定騎乗では9勝を挙げている。                       

■「オグリキャップの血脈継承を」と情熱を注ぐ佐藤牧場

 レディアイコは北海道・新冠町の佐藤牧場で生まれ育った。兄にJRA3勝馬のストリートキャップと、岩手で3勝のミンナノヒーロー。牧場主でオーナーである佐藤信広さんが「オグリキャップの血脈継承を」と情熱を注いでいる。母馬のミンナノアイドルは、オグリキャップの最後の産駒で、中央で1戦しただけで繁殖入りし、15歳になった。昨年2月、コパノリッキーとの子である牝馬も出産した。

 佐藤牧場はオグリキャップ記念を圧勝するなど重賞19勝を挙げ、引退した岩手の名馬エンパイアペガサスの生産牧場。兄・ミンナノヒーローは昨年、岩手・水沢で3連勝を飾り、JRA復帰条件を満たしていたが、盛岡のレース中、故障発生のため永眠した。妹のレディアイコは、そんな兄の分までファンの夢を背負って笠松で勝利を目指すことになる。そして牧場としては、けがなどなく無事に繁殖に上がって、母馬としてオグリの血統を受け継いでいってほしいと願っている。祖父が駆け抜けた笠松の地でどんな走りを見せてくれるのか、注目していきたい。          

所属馬ルヴィアスで、地方競馬通算200勝を達成した後藤佑耶調教師(笠松競馬提供)

 

■後藤佑耶調教師「地方通算200勝」を達成、「慶悟が乗って重賞Vを」

 後藤佑耶調教師は1月28日8Rでは、所属馬ルヴィアス=青柳正義騎手=で地方競馬通算200勝を達成した。昨年は47勝を挙げて調教師リーディング2位。今年はまだ2開催だけだが、13勝でトップに立っている。「馬主さんがいい馬を預けてくださいますし、厩務員さんも騎手もみんな一生懸命にやってくれてますから」と感謝。開業から4年半、管理する現役馬は44頭ほどに増えて、昨年は笠松で勝率がトップ。「管理・出走頭数を増やせば、もっと勝てるのでは」と聞くと、「そんな単純なものじゃないですけど、無事にレースに送り出すことが基本なんで。スタッフの力はでかいと思います」と。伸び盛りの厩舎で飛躍の年になりそうだ。
 
 これまでの重賞勝利は「何とか1勝できました。昨年の白銀争覇(タイセイプレシャス=水野翔騎手)です」。最後方からの大まくりは圧巻だった。200勝での思い出のレースや馬について佑耶調教師は「やっぱり節目のレースとかですね。(預けていただいた)馬は全部ですよ」と。長江騎手に対しては「一番は、うちの馬で慶悟が乗って重賞を勝つことですね」と期待を込めた。

 不祥事が続いた笠松だが、「ちゃんとやっていれば」とまた重賞を勝つチャンスも巡ってきそうだ。父は名伯楽だった保さんで、騎手から調教師に転身後、東海ダービーで2度優勝するなど通算1741勝を挙げた。母は愛馬会代表の美千代さん、兄も現調教師で県調騎会長の正義さんという笠松を長年支えてきた競馬ファミリー。美千代さんは「親子、兄弟でライバルでもあり、お互い助け合ってやってきました。いま、競馬ができるのはうれしいこと。(不祥事で)休みが長過ぎましたが、みんなよく我慢したと思います」と現場のホースマンたちの踏ん張りをたたえていた。

自厩舎のレディアイコの攻め馬にも騎乗している長江慶悟騎手

■「今年の目標は、けがをしないこと」一回り成長した姿

 厩舎の所属騎手である長江騎手。笠松の騎手では今年第1号となる勝利を飾った。一昨年10月のデビュー以来、2度の落馬事故で大けがを経験。美千代さんは「感動したのは、復帰して勝った時。スタンドからファンの人たちの拍手が沸いて、ファンのありがたみが身に染みました。それに応えられるように努力しなさいよ」と激励。

 長江騎手も「今年は、けがをしないことが大前提です。日々気を付けてやってます。同じ事を繰り返せないんで、体力も鍛えて1年無事に終わることが最大の目標です」と前を向いた。今年は14戦して1勝、2着1回、3着3回。「掲示板」は計10回もあり「着を拾わせてもらってます」と好感触。一回り成長した姿を見せており、次開催でも「まず1勝」が目標となる。

 個人として一口馬主にもなっていたミンナノヒーローは、JRA復帰条件の3勝をクリアしたが、関係者やファンの夢はかなわなかった。この時のショックは大きかっただけに、佑耶調教師には「レディアイコを無事に走らせてください」とお願い。そして「次の開催もいっぱい勝ってリーディングを目指してください」と活躍を期待した。

■笹野調教師、1000勝の大台達成「目標は全国リーディング」

  笠松競馬で6年連続リーディングトレーナーの笹野博司調教師は、地方通算1000勝を達成した。「後藤佑耶調教師200勝」直後の9R、シークロムに期間限定騎乗の岩本怜騎手(岩手)が騎乗し、大台に到達した。

所属馬シークロムで、地方競馬通算1000勝を達成した笹野博司調教師(笠松競馬提供)

 ピザ屋の店長さんから笠松の厩務員に転職し、調教師になってまだ10年。「競馬の世界に入り、こんなに早く1000勝の大台を達成できるとは思いませんでした。少しずつ人も馬も増え、周りの方々のおかげでここまで来ることができました。開業後、トウホクビジンで兵庫の重賞(姫路チャレンジカップ、川原正一騎手)を勝ったことや、ストーミーワンダーの活躍などが思い出深いです。今後は全国リーディングを目標にして、全国で活躍できる馬をつくれたらと思います」と喜びを語った。

 観戦したレースで印象深いのはビップレイジングで制覇した東海ダービー。ゴール直前で10連勝中だったサムライドライブを差し切った。「エッ、本当に勝ったのか」と驚いた様子の笹野調教師だったが「ダービートレーナー」の座を射止めた。園田のナイター・姫山菊花賞では、ストーミーワンダーで優勝をさらった。カツゲキキトキトを倒した笠松・くろゆり賞に続いて重賞5勝目。ストーミーワンダーはレース中の骨折で永眠したが、笠松の大将として嵐のように駆け抜けて去っていった。

 一昨年は159勝で全国5位。全国リーディング奪取のためには、笠松だけではレース数は限られており、名古屋への参戦も増やして白星を量産したい。笠松の新エース・渡辺竜也騎手とともに全国のビッグレースで戦えるスターホースを育てていただきたい

■歓喜のVトリプルパンチ、角田調教師は地方通算3800勝

 不祥事やコロナ禍に揺れた笠松競馬場にも、この日はようやく勝利の女神が舞い降りて、区切りの歓喜Vのトリプルパンチとなった。10Rメインでは名古屋の角田輝也調教師がアドマイヤムテキ=岡部誠騎手=で地方通算3800勝を達成した。ちなみに勝利馬オーナーはアンカツさん夫人。角田調教師の勝利数は全国歴代1位で、重賞はサムライドライブ(9勝)などで76勝。

 8~10Rの終盤3レースで3人の調教師が立て続けに節目の勝利を達成したが、何というミラクル。今後も勝利を量産し、東海公営競馬を引っ張っていく敏腕調教師たち。全国のダートグレードや中央のレースでも通用する強い馬づくりに励んでいただいて、地方競馬ファンのハートを熱くさせてほしい。