ヤングジョッキーズシリーズ名古屋ラウンド第1戦で勝利を飾り、ゼッケンを手に笑顔の長江慶悟騎手

 「後方を走っていた伏兵馬が、内からスルスルと先頭を奪って勝っちゃった」。ファンや取材陣をアッと驚かせた「イン差しグサリ」の好騎乗。笠松の長江慶悟騎手(24)=後藤佑耶厩舎=が10番人気馬で鋭く伸びてV一直線。2戦目も名古屋のルーキー・望月洵輝騎手(18)=井上哲厩舎=が7番人気馬で豪快に馬群を割って差し切った。

 地方競馬とJRAの若手騎手が腕を競うヤングジョッキーズシリーズ(YJS)トライアルラウンド名古屋が18日、ナイター開催の名古屋競馬場で行われ、若さ爆発のエネルギッシュな騎乗で大波乱。3連単10万超えを連発した。

YJS出場騎手紹介セレモニーに向かうジョッキーたち

 東海勢は笠松から長江騎手とルーキーの明星晴大騎手(17)=後藤佑耶厩舎=。地元・名古屋からも成長著しい望月騎手と大畑慧悟騎手(19)=倉知学厩舎=が参戦した。

 ■YJS、ほろ苦い経験も多かった

 長江騎手にとってYJSは、ほろ苦い経験が多かった。ルーキー時には先輩騎手らが起こした不祥事の余波で、笠松の若手3人がYJSに参戦できず。一昨年は地元で勝利を挙げ、最終戦7着以内ならファイナル圏内だったが、しんがり負け。惜しくも進出を逃し、補欠扱いとなった。

紹介セレモニーであいさつする長江騎手(右)と明星晴大騎手

 3度目の挑戦となった今回。出場騎手13人の紹介式では「ファイナル進出を目指して精いっぱい頑張ります」と決意を述べ、全員が力強いガッツポーズで戦闘モードにスイッチを入れた。

 第1戦の8R、長江騎手の騎乗馬はハイグッドエース(牡5歳、井上哲厩舎)。専門紙やスポーツ紙はほぼ無印で苦戦が予想された。一方の明星騎手の騎乗馬には◎の印が並んでいた。

YJS第1戦、ハイグッドエースに騎乗しインから豪快に差し切ってゴールする長江騎手

 ■いつも「大外ブン回し」この日は「イン差し」

 レースは、西塚洸二騎手=栗東=が逃げて、望月騎手、合林海斗騎手(佐賀)が2、3番手で追う展開。長江騎手は10番手を進み、末脚に懸ける作戦。ハイグッドエースはJRA未勝利馬だが、名古屋で1勝、笠松で2勝。陣営は「引き続き好調さをキープ。どんな競馬もできる」と長江騎手の手綱に託した。

 コース状態は前回が高速馬場で、内を空ける競馬が目立ち、好位差しが決まる傾向にあった。笠松では3コーナーからの「大外ブン回し」で波乱を演出する長江騎手だが、この日は各馬が砂の深い内ラチ沿いを避けて外めを回るなか、ポッカリと空いたインを突いてロスなく立ち回る「慶悟マジック」を鮮やかに決めた。

 残り600メートルを切って徐々に進出を開始し、3~4コーナーでは抜群の手応え。最後の直線ラスト200で一気に突き抜け、2着の松本大輝騎手=栗東=に1馬身半差でゴールイン。ラスト3ハロン、ただ1頭38秒台で豪快な末脚を発揮させた。明星騎手は4番人気だったが、中団後ろから伸びず11着に終わった。10→5→8番人気での決着で3連単18万円超と高配当になった。

名古屋初勝利の長江騎手。1着の枠場に入り、にっこり 

 ■勝利の味をかみしめ満面の笑み

 長江騎手にとって名古屋での騎乗は2戦目でうれしい初勝利。昨年のYJSでは2番人気で9着だったが、鮮やかにリベンジを果たした。

 勝利のおいしい味をかみしめながら満面の笑みで、検量室前の枠馬に入った長江騎手。みんなから「おめでとう」と祝福を受け、出迎えた井上哲調教師も「言った通りやったな」と豪快な差し脚に満足そうだった。

 勝ったハイグッドエースとの口取り写真の撮影では、ファンに向かっても2度、3度とポーズを決めて歓喜に浸った。

「内を突いて手応えあった」とレースを振り返る長江騎手

 ■「ラストチャンスかも、ファイナル進出狙う」

 「勝てて良かったです。騎乗は1個だったんで。後ろから行く馬でイメージ通りにすごく頑張ってくれた。ペースが速くなり、内を突いても大丈夫かなあと。最後の直線は手応えがありました」と最高のパフォーマンスを発揮してくれたハイグッドエースに感謝した。

8R、ハイグッドエースに騎乗しパドックを周回する長江騎手

 名古屋の馬だが、ここ3走は渡辺竜也騎手と明星騎手が手綱を取っており、情報収集していた長江騎手。位置取りなどは「ゲートが開いてから、馬の手応えと馬場を見て決めようと思った。後方だった向正面では、内を突いた方がいいなと。前から離されないように追い出して、これはいける」と手応え十分だったという。

 「これまでYJSでは悔しい結果が多かったし、名古屋で勝ててすごくうれしいです。来週(23日)は高知でも騎乗します」。1着で一気に30ポイントを獲得し、夢が広がった。競馬場の不祥事や2度の大けがで戦線離脱も多かったが、YJS参戦は3回目を迎えた。通算85勝で減量騎手卒業も近づき「今回がラストチャンスかも。結果を残してファイナル進出を狙っていきたい」と意気込んだ。

色紙にサイン、家族やファンの声援に応えてYJS勝利を飾った

 ■家族らも応援「泣きました、うれしかった」

 長江騎手はプロ野球・ロッテの佐々木朗希投手のそっくりさんとして知られ、テレビ出演したこともある。この日は「1鞍入魂」の勝利で、ヒーローインタビューや色紙へのサインなどファンサービスにも努め、汗だくだった。

 ゴール前のスタンドでは家族や親戚の人たちも応援に訪れて声援を送った。勝利が決まると「慶ちゃん、おめでとう」と祝福の嵐。お母さんは「泣きました。内から来ていたから勝てると。ただただ、うれしかったです」と感激。東京から応援に駆け付けた女性も「慶ちゃんのレースを見たのは初めてでラッキーです。目に焼き付けて一生忘れません」と大喜びだった。

YJS第2戦、インフォーマントに騎乗し1着でゴールする望月洵輝騎手。明星騎手は6着

 ■第2戦、望月洵輝騎手が馬群を突き抜け制覇

 第2戦を勝った地元の望月洵輝騎手。インフォーマント(牡6歳、地辺幸一厩舎)に騎乗し、長江騎手と同じく前半は10番手からの競馬。最後の直線では馬群を突き抜け、加藤翔馬騎手の2着馬に2馬身半差。3着は合林海斗騎手(佐賀)。7→10→11番人気の決着で3連単46万円超と、第1戦以上の大荒れになった。

YJS優勝ジョッキーの長江騎手(右)と望月騎手

 ■「次の高知に生かしていきたい」

 9R後の表彰式では、勝利を飾った2人がファンの前へにこやかに登場。お立ち台での勝利騎手インタビューで、改めてレースを振り返ってくれた。

 長江騎手は「先行激化でペースが速くなったら、この馬にもチャンスが巡ってくると。早めに先頭に立ちましたが、馬に余力があったんで頑張ってくれと。1着(30ポイント)を取れたんで、ファイナル進出を目指して次の高知での騎乗に生かしていきたい。全力で頑張ります」と意欲。ファンから大きな声援が沸き起こった。

 さらに「自信はなかったですが、好発進できた。あとはこの調子を続けられるよう気を引き締めて頑張ります。高知でもポイントを稼いで、相手が付いてこれないぐらい引き離せれば」と闘志を燃やした。

YJS第2戦、ゼッケンを手に勝利の喜びに浸る望月騎手(左)

 ■望月騎手、ゴールの瞬間「やったあ」

 望月騎手は「緊張していましたが、岡部騎手や村上騎手に馬の癖や特徴を聞いていた。『しっかり脚を使ってくれるから』とアドバイスを受け、落ち着いて乗れました」と笑顔があふれた。ゴールの瞬間は「『やったあ』という感じでした。金沢でも結果を残してポイントを加算できるよう気を引き締めて頑張りたい」と意欲を示した。

8R、マイネルナラティヴに騎乗し、パドックを周回する明星騎手

 ■明星騎手「次の笠松で頑張ります」

 笠松の明星騎手は1戦目4番人気だったが、中団から伸びを欠いて11着。2戦目は後方から追い上げたが6着どまり。2戦を終えて「全然駄目でした。見せ場がなかったです。1戦目は前に行けなかったし、外を回された。YJSではペースが速くなるので、この経験を生かして次の笠松で頑張ります」と前を向いた。この日は渡辺竜也騎手もJRA交流戦に参戦。11Rでは井上哲厩舎のリリーバローズで差し切り勝ち。2年連続のYJSファイナリストとして、10代騎手らの騎乗ぶりも温かく見守っていた。

YJS出場騎手紹介セレモニーで闘志を燃やす13人

 ■望月騎手が総合トップ、長江騎手は4位

 YJS西日本の地方騎手ランキングは、1戦目4着だった望月騎手(42ポイント)が総合トップに立ち、兵庫の長尾翼玖騎手が同ポイントで着順差2位。兵庫の高橋愛叶騎手が3位(36ポイント)。長江騎手は1戦のみの騎乗だが好位4位につけた(30ポイント)。金沢の加藤翔馬騎手が5位(26ポイント)。

 残りは4ラウンド(高知、佐賀、笠松、金沢)。総合成績上位の8人(地方、JRA各4人)が12月の園田、中京競馬場でのファイナルラウンドに進出できる。笠松ラウンドは10月9日。JRAから田口貫太騎手、古川奈穂騎手らも参戦する。笠松の松本一心騎手は負傷療養中のため、高知、笠松とも「騎乗なし」となった。

佐々木朗希投手そっくりの長江騎手。ファイナルラウンド進出へ「ストライク」を決めるか

 ■ファイナル進出へ「ストライク」決めたい

 昨年のYJS出場騎手のポスターでは「センター」を務めた長江騎手。残念ながらファイナルに進めなかったが、今シーズンは1年遅れでのブレークを予感させる初戦1着ゴール。名古屋から高知へは中4日での「登板」に燃えており、ファイナル進出へ豪速球で「ストライク」を決めたい。

 残り4戦。例年、50ポイント超えがファイナリストへの目安となり、30ポイントをゲットした長江騎手は高知、笠松で2戦ずつ残しており有力。この日の1勝は大きなアドバンテージにもなった。堅実な騎乗で上位進出を目指したい。

 10月12日の「笠松けいば秋まつり」では「長江騎手&明星騎手」のコンビでオンステージ。2人とも中学時代は野球部員で、楽しいトークや競馬以外の「実演?」でも盛り上げてくれそうだ。(「栗毛のシンデレラ」ラブミーチャン安らかに」の連載は休みました)


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

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