地方競馬の女性ジョッキーたちが華麗に競演。大逃げあり、大外一気ありで強気に勝負する騎乗スタイルは頼もしく、応援するファンを魅了。場内の雰囲気を明るく盛り上げてくれるアイドル的存在でもあり、無事にレースを終えて笑顔があふれた。

第1戦で3着となり、「悔しいです」とレースを振り返った深沢杏花騎手

 2月18日の「2021レディスジョッキーズシリーズ(LJS)名古屋」。3月いっぱいでトレセンがある弥富市に移転するため、73年間の歴史を刻んでお別れとなる現名古屋競馬場(名古屋市港区)には大勢のファンが詰め掛け、熱戦を感慨深く見守った。
 
 笠松競馬からは深沢杏花騎手(20)が出場。10年ぶりに女性騎手のみのシリーズ実施となり、盛岡、高知、名古屋で各2レースずつ計6戦の総合ポイントで、クイーンの座を目指した。NAR(地方競馬全国協会)による順位予想キャンペーンもあり、ファンの応援にも力が入った(27日まで応援ありがとうキャンペーンも)。
 
 総合優勝を飾ったのは、19年にデビューした高知の浜尚美騎手(20)。地元・高知で連勝したのが大きく、名古屋では4着、5着だったが総合117ポイントで逃げ切った。2位は昨春デビューした川崎の神尾香澄騎手(20)で108ポイント。盛岡と名古屋で勝利を挙げ、追い上げたが浜騎手には届かなかった。

 シリーズには8人が挑んだが、計6戦で騎乗馬との「完走」を果たしたのは4人のみ。盛岡、高知を負傷欠場した愛知の木之前葵騎手(28)は名古屋で復帰。岩手の関本玲花騎手は負傷のため、兵庫の佐々木世麗騎手は体調不良などで名古屋を欠場。高知の別府真衣騎手は調教師転身のため不参加となった。

第2戦、タカラジマに騎乗した深沢騎手。追い上げて3着に食い込んだ

■東海勢3人が直接対決、宮下騎手は意地の総合3位

  わずか5人での戦いとなったLJS名古屋。1月末からコロナ禍で揺れていた笠松競馬から参戦した深沢騎手は、PCR検査「陰性」で無事出場できたが、レース後の夕方には、クラスター発生のため、笠松競馬の次回開催取りやめが発表された。所属騎手たちの新型コロナウイルス感染の影響もあって、プレッシャーが大きかっただろうが、元気に騎乗してゴールを目指した。

 上位進出を狙った深沢騎手は3着、3着となり、総合83ポイントで4位。地元の宮下瞳騎手(44)が2着、2着。総合86ポイントで3位に順位を上げた。シリーズのファイナル(2戦)でもあり、女性騎手ならではのバチバチ感あふれるナイスファイトが繰り広げられた。優勝争いには加われなかったが、深沢騎手が目標としている木之前騎手、宮下騎手との地元・東海勢3人の奮闘ぶりを追った。

 3人は昨年9月28日にも直接対決があり、木之前騎手が7番人気馬で勝利し、3連単19万円馬券を演出。宮下騎手が6着、深沢騎手は9着だった。木之前騎手は翌日1Rでスタート直後に落馬し、左鎖骨を骨折。復帰した1月1日、1Rでジャスミンシャワーに騎乗。今年の日本の競馬で最初に行われたレースで、V一番乗りを決めた。

■第1戦、1番人気馬の深沢騎手は悔しい3着

 LJS第1戦、深沢騎手はオルフェーヴル産駒で1番人気のテイエムクイーン(牝5歳、竹之下昭憲厩舎)に騎乗した。中央1勝クラスから名古屋に転入し、4、2、3着と勝ち切れないレースが続いており、「いい状態で臨むことができ、少頭数だし、そろそろ何とかしたいね」と陣営。専門紙2紙には◎の印が並んでおり、自在脚を生かして、まくり切る競馬が期待された。

 3番手からの競馬となり、4コーナーで2番手に上がったが、最後の直線で伸び脚を欠いた。宮下騎手のトーホウエンジェルが最後方から強襲。ゴール直前で一気に深沢騎手を追い抜いて2着に上がり、ママさんパワーの発揮となった。神尾騎手のニシノステラが逃げ切った。

 レース後、深沢騎手は「『どこからでも競馬ができるよ』と言われていたんで、ロスのない競馬で、ためて向正面から追い出し、ひとまくりしようと思っていましたが。前の馬をマイペースで楽に逃がしてしまい、追っても追い付けませんでした。仕上げてもらったのに自分もちゃんと馬を動かし切れずに、3着で悔しいです。最後まで諦めずに頑張ります」と2戦目へ闘志。木之前騎手も「そうだねー」と2人で奮起を誓い合っていた。

第2戦の最後の直線で木之前葵騎手、宮下瞳騎手の背中を追った深沢騎手。東海勢が上位を独占した

■木之前騎手は、けがから復帰し元気いっぱい

 木之前騎手は、けがから復帰してシリーズ初登場となった。初戦は2番手からの競馬で5着に終わった。「ハナに行って勝ったことがある馬でしたが、外の馬が速くて、控えて折り合い重視に。ちょっと狙っていたんですが、差されてラストになっちゃって残念でした」。2戦目に向けては「みんなで無事にけがなく帰ってこられるよう、頑張りたいです」と意欲を示した。

 男性騎手が圧倒的に多い競馬の世界。レース中は落馬事故など危険と隣り合わせで命懸けでもあるが、女性騎手たちも度胸満点の騎乗ぶり。強気に前を追ってゴールを目指す姿は勇ましく、競馬愛にあふれ、馬が好きでなければ続けられない仕事である。

■第2戦は木之前騎手、宮下騎手、深沢騎手が「ワンツースリー」

 第2戦、5番人気のタカラジマ(牡4歳、竹下直人厩舎)に騎乗した深沢騎手。5頭立てでも専門紙2紙は無印。3~4コーナーでは騎乗馬を力強く動かして追撃。後方から3番手に押し上げたが、逃げた木之前騎手のマテラシオン、続く宮下騎手のパワースカイには届かなかった。憧れでもある名古屋の先輩女性騎手2人の背中を懸命に追ったが、最後の直線では3頭がほぼ同じ脚色になってしまった。名古屋コースでの経験値の差も出たが、3着はキープできた。

レースを無事に終えて、笑顔を見せる深沢騎手

 宮下騎手は「1戦目、ラストはいい脚で伸びてくれたんで、道中で気合を入れて、もう少し付いていけば良かったです」。2戦目は木之前騎手を追って2着は守った。「早めに砂をかぶらない所に出しましたが、葵ちゃんにうまく逃げられてしまいましたね」と。名古屋、笠松勢3人が「ワンツースリー」となって、地元勢の意地を見せてくれた。

 深沢騎手は「バジガク」の愛称で知られる東関東馬事高等学院(千葉県)の出身で、木之前騎手の後輩でもある。笠松での実習中には、騎乗の仕方のほか「セクハラのようなことがあったら、相談してね」などとアドバイスも受けた。「笠松と名古屋は交流もあり、レースで一緒に騎乗できることが楽しみで、頑張ってほしいですね」とエールも送られていた。

■深沢騎手「応援を原動力に頑張ります」

 最終戦が終わった。コロナ禍のため、ファンの前での表彰式は行われなかったが、順位発表と記者会見があった。

 4位の深沢騎手。盛岡で2着はあったが、勝利に届かず、惜しくも上位には入れなかった。

4位となった深沢騎手。会見では「応援が原動力になっています」とファンに感謝した

 「去年はコロナで出場できなかったんですが、今年は出場できました。これまで他場の女性騎手と交流することがなかったんで、すごく楽しみな気持ちで臨みました」。笠松の騎手たちには「みんなに『頑張れよ』と応援していただきました」。第1戦は「自分の技術不足で、まだ馬を動かすことができなくて3着でした」。第2戦は「後方からの競馬になってしまったんですが、厩務員さんに『自信を持って乗ったら、大丈夫だよ』と言われていて、がむしゃらに乗りました」と振り返った。

 シリーズを通して楽しかったことは、「他地区の女性騎手と普段はしゃべる機会はないですが、女性にしかできない会話ができて楽しい時間でした」。悔しかったことは、「自分の詰めの甘さが多くて、勝てるところも勝てなかったレースがあったこと。次の機会があったら、もっと上達したいです」。次回のLJSへの意気込みでは「今年悔しかったこと、できなかったことを繰り返さないよう、来年は1位を取れるよう頑張りたいです」と闘志を燃やしていた。

 今年は開催初日に伏兵で差し切り勝ちを収めるなど、笠松でも勝利を多く挙げている(3開催で5勝)。ファンに対してのメッセージでは「まだまだ未熟な私を応援してくださって、自分の原動力になっています。これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします」とサポートに感謝していた。

2戦目、マテラシオンに騎乗して優勝を飾った木之前葵騎手

■木之前騎手、2戦目勝利でスマイル全開

 2戦目、木之前騎手は逃げ切りVを決め、口取りの記念撮影でもスマイル全開だった。「5人で寂しかったですが、女性だけのレースができて、下見所とかも話が盛り上がって楽しかったです」。2013年のデビューで、後輩の女性騎手たちについては「私もこんな感じだったのかなあ」と。「2戦目は馬が自分からビュンッと出て行ってくれた。実は右足のあぶみが脱げてしまったんですが、馬が勝手に動いてくれました。勝てて良かったです」と喜んでいた。

■宮下騎手「若い子に負けないように」

 3位に食い込んだ宮下騎手。「3位ですか、ありがとうございます。5人中の真ん中で微妙ですけど」と笑顔。通常の重賞レースなどでは優勝騎手だけが表彰式でたたえられるが、ジョッキーズ戦はオリンピックのメダリストのように1~3位が表彰対象となる。お約束の「賞金ボード」を掲げての記念撮影も行われ、晴れやかだった。

総合Vを飾った高知の浜尚美騎手(中央)。2位は川崎の神尾香澄騎手(左)、3位は愛知の宮下瞳騎手

 「女性だけのレースができて良かったし、楽しかったです」。若手騎手が増えて「本当に元気ですね。すごく明るくて和気あいあいだし、いい雰囲気です。昔のシリーズはピリピリしていて、怖い印象しかなかったんですが、いい感じだと思います」。2007年にジョッキーズ戦優勝を飾り、復帰後の昨年には地方競馬通算1000勝も達成。「とにかく、けがのないように無事にレースを終えたい気持ちはありました。周りが若い子ばかりなんで、負けないように『おばちゃんパワー』で頑張ろうという気持ちで挑みました」

 「(2人の息子たちには)女性だけのレースがあると言ったら、『きょうも頑張ってきて』と声を掛けてくれました。3位になったよ、賞金ももらったよと伝えたいです。きっと『ゲーム買ってくれる』と言うと思いますが、喜んでくれるでしょう」とユーモアたっぷりだった。

■いつか、笠松でもレディスジョッキーズを

 昨年は笠松競馬の不祥事の影響で、ヤングジョッキーズシリーズには出場できなかった深沢騎手。「競馬場がつぶれるかもしれない」という不安と闘いながら、連日30頭前後の攻め馬を続けた努力は素晴らしかった。競走馬がゴールを目指して駆け抜けるアスリートなら、騎手たちも強い精神力と身体能力に優れたアスリート。次回開催予定の2022レディスジョッキーズシリーズでは、もう一歩、成長した姿を見せてくれることだろう。深沢騎手が頑張っていれば、いつか笠松で開催される日が来ることだろう。

■かつて笠松で国際競走「クイーンジョッキーシリーズ」、中島広美騎手参戦

 深沢騎手が現在所属しているのは田口輝彦厩舎。昨春、不祥事の余波で厩舎がなくなり、所属先を変更した。9月の再開後、新しい厩舎では「馬力のいい馬が多くて、馬群でうまく抑えられていないんで、難しいですね」とも話していたが、逃げるだけでなく、好位から差し切る競馬も身に付けてきた。
 
 笠松競馬の女性ジョッキー第1号は中島広美騎手(当時)で、田口調教師の奥さんでもある。92年に17歳でデビューし、通算120勝を飾った。93年には笠松、大井、金沢を転戦する国際競走「クイーンジョッキーシリーズ」(日、米、英、仏など7カ国から10人参加)にも最年少で参戦。女性騎手の第一人者で通算350勝を挙げた吉岡牧子騎手(益田)らとともに、日本代表としてレースを盛り上げた。

 騎乗馬ではオグリジョージが好きだったという中島騎手は、96年に先輩の田口輝彦騎手(現調教師)と結婚した。息子の貫太君(17)はJRA競馬学校で修業中で、来春の騎手デビューを目指している。深沢騎手は、競馬ファミリーに囲まれた好環境で騎乗技術を磨いている。

卑弥呼杯に出場した中島広美騎手(左)と宮下瞳騎手(NAR提供)

■卑弥呼杯では中島騎手が初代女王、宮下騎手も参戦

 女性騎手の招待競走として、中津(大分)で行われた97年の「第1回卑弥呼杯」では、中島広美騎手が初代女王に輝いている。第1戦、中島騎手はリキエンジェルで3馬身差の勝利。デビュー3年目の宮下瞳騎手も参戦しており、セイグンパワーで3着と健闘したが、総合では7位だった。

 中島騎手は4着、7着の後、最終第4戦ではペルグランデでゴール寸前、豪快に差し切り勝ち。2位に10ポイント差で見事に優勝を飾り、「笠松の女性騎手」の存在を大きくアピールした。卑弥呼杯の第2回は9位、第3回は6位だった。宮下騎手は第3回から2位、3位と好成績を収めた。第3回は中央の女性騎手も参戦し、細江純子騎手が7位、第4回は牧原由貴子騎手が優勝した。

 第4戦を勝った中島騎手のレース映像は、笠松競馬場内・場立ちの予想屋「大黒社」さんがツイッターでも紹介している。

■笠松競馬、コロナ禍一掃し3月開催へ

 笠松競馬は、コロナ禍で梅花シリーズ(2月21~25日)の開催を取りやめた。このため、再び厩舎関係者らへの補償費が必要となり、赤字額が膨らむことになった。約1カ月間、レースはできないが、昨年は不祥事で8カ月間も自粛したことを思えば、それほど長くはなく、今はじっと我慢するしかない。

 感染者たちは回復とともに朝の攻め馬を精力的にこなしており、まずは一安心だ。コロナ感染は騎手それぞれの自己責任でもあるが、開催取りやめは、笠松競馬に関わる全てのホースマンや応援するファンに迷惑を掛けた。調整ルームや騎手控室でのコロナ感染拡大防止策を万全にして、3月14日からの再開につなげたい。