自厩舎のコスモグリッターで地方競馬通算1000勝を達成した渡辺竜也騎手

 「また勝っちゃったなあ」。1日6勝、7勝を挙げてもファンはそれほど驚かなくなった。

 笠松競馬の「スーパーエース」で記録ラッシュの渡辺竜也騎手。今年は自身初の年間200勝ラインを軽く突破し、JRAで初勝利を飾った後は笠松グランプリを制覇。1着ゴールの量産態勢はスピードアップ。地方競馬通算1000勝の大台にも到達。東海勢では初めての最優秀勝率騎手賞のNARタイトルも当確となった。

 高いモチベーションを持ち、目標とする記録を次々とクリアしていく渡辺騎手。まるで対戦もののゲームを楽しんでいるかのようで、その勢いはノンストップで誰も止めることができない。攻め馬から本番レースへ、日々の努力の積み重ねで今や笠松、東海公営の枠を超えて全国レベルで活躍できるジョッキーへと急成長。2000年3月生まれでまだ24歳の若さ。一体どこまで強くなるのか、末恐ろしい男がきょうも笠松競馬場を主戦場に、愛馬たちとダートコースを駆け抜けていく。

目標にしてきた年内1000勝を達成し、喜びの渡辺騎手らとコスモグリッター

 ここ3年は笠松で164勝、183勝、227勝(12月20日現在)と年間最多勝記録を毎年更新。2位で86勝の岡部誠騎手に141勝差と独走状態で3年連続リーディングも手中にした。厩舎や馬主さんからの信頼は厚く、人気馬での騎乗は多い。それでも「絶対に負けられない}と1番人気で勝つことはそれなりにプレッシャーもあるはずだが、いつもスイスイと勝ち抜け、白星を積み上げている。

 ■「いい通過点として頑張ります」

 通算1000勝達成は12月13日の笠松4R。自厩舎の芦毛馬コスモグリッター(牡2歳、笹野博司厩舎)に騎乗。スタートがうまい渡辺騎手。珍しくやや出遅れたが、中団から押し上げ、3頭競り合いの4コーナーで先頭を奪うと、最後はクビ差で1着ゴール。2017年4月の初騎乗から5234戦目での達成となった。2Rで999勝目を挙げた時点で「3Rで達成しちゃうかも」と笠松競馬場へ向かったが、次のレースは4着で、何とか1000勝のゴールシーンを撮影できた。

1000勝をあっさり達成し、笑顔の渡辺騎手

 装鞍所エリアに戻ってきて、笑顔がはじけた。それでも記録男の渡辺騎手にとっては一つの通過点に過ぎず。「長くやっていればで、特に思うことはないですよ」と淡々としていたが、1000勝到達は2000勝に向けた新たなスタートラインに立ったともいえる。レースを振り返って「馬が前回よりも仕上がっていたんで、強かったですね。力があるし」と。本人も「いい通過点として頑張ります」と次のターゲットに向かって走り続ける。

 「笠松グランプリを勝たせていただき、目標にしていた年内1000勝も達成できました。いつも応援していただき本当にありがとうございます」と自らのX(旧ツイッター)にも投稿し、ファンと喜びを共有した。

 2年前、川原正一騎手が保持していた「笠松年間最多勝記録」、今年は「全国最高勝率」を狙えそうだと渡辺騎手に伝えると、その記録更新に向かって意欲を高め、好結果につなげてきた。大きなけがなどもなく、年間フルに戦えていることも記録を伸ばした要因だ。

 ファンからも「スーパーエースです」「こんなすごいジョッキーが笠松にいることを全国の人に知ってほしい」と名手をたたえる声が相次ぎ「それに恥じないよう頑張ります」と渡辺騎手。デビュー時から成長ぶりを追い掛け、「オグリの里」への登場回数も多い渡辺騎手。一ファンとしても「どこまで記録を伸ばすのか」楽しみで仕方がない。

最優秀勝率騎手賞のNARタイトルも手中にした渡辺騎手

 ■勝率は36.2%でただ一人3割超え

 NARグランプリの最優秀勝率騎手賞は2009年に新設されたタイトルで、東海勢ではリーディング常連の岡部誠騎手らもまだ受賞していない。今年の渡辺騎手は全国で240勝、2着131回。勝率は36.2%とただ一人3割超え。全国2位が高知の宮川実騎手で29.7%だが、年内の残りレース数からも渡辺騎手の勝率トップは不動だ。

 このタイトルはこれまで佐賀、高知勢が強く、山口勲騎手が7年連続、赤岡修次騎手が6回、宮川実騎手が2回獲得。昨年は赤岡騎手が今年の渡辺騎手を上回る38.5%をたたき出した。
 
 JRAで連対率4割超えのクリストフ・ルメール騎手が勝率30%、川田将雅騎手は29.8%。やはり2着に比べ1着が多く、その傾向が渡辺騎手も顕著だ。連対率もは56%とモンスターぶりを発揮。ネットニュースなどでは「アンカツ二世」とか「笠松のルメール」とも呼ばれ始めた。

 ■長江騎手の100勝とどちらが早いか勝負

 同じ笠松の長江慶悟騎手は2度の大けがを乗り越えてYJSファイナルラウンドに進出し、地方通算100勝まで「あと1勝」に迫った。園田に参戦していた長江騎手によると「渡辺騎手の1000勝とどちらが早いか勝負しているんですよ。負けたらご飯をおごることで」と盛り上がったそうだ。長江騎手が11日に1日3勝を挙げ「あと一つ」だと告げると、「エーッ」と気合を入れ直した渡辺騎手。2日間で5勝を挙げてあっさり1000勝を達成。「次の開催で一緒にセレモニーをやりたい」という渡辺騎手だったが、目標を持つと勝負強さをメチャ発揮。長江騎手には「うなぎをおごってもらいます」と笑顔を見せていた。

ミランミランでジュニアキングを制した筒井勇介騎手(笠松競馬提供)

 一方、過去2回リーディングを獲得し、8月に戦列復帰を果たした筒井勇介騎手が「またリーディングにも復帰できるよう頑張りたい」と意欲。4カ月半(開催33日)で53勝を挙げており、通年(開催96日)なら150勝以上のペースで強敵になりそうだ。

 ファンから「来年は(最初から)筒井騎手もいるし、若手も伸びてくるので、今年のようには勝てないのでは」との声も聞かれ、渡辺騎手は「僕もそう思います。毎年200勝は目標にして頑張りたいです」と新たなチャレンジに意欲。そのペースなら5年後には「2000勝達成」か。笠松の騎手は調教から乗る馬も多い。けがなどなく、無事に毎年乗り切ってもらえれば、結果はついてくる。

 筒井騎手は2歳準重賞のジュニアキングをミランミラン(牡2歳、田口輝彦厩舎)で圧勝した。川崎の鎌倉記念で2着後、道営から笠松に転入。筒井騎手が攻め馬から手応えを感じていた期待馬で、3コーナーで先頭を奪うと、ラブミーチャン記念2着のプチプラージュらを突き放した強い内容。復帰後初の準重賞制覇でゴールではガッツポーズも出た筒井騎手。「思った以上に反応が良く、これから大きなところを狙っていきたい」と意欲。まずは30日のライデンリーダー記念に照準を合わせている。

ストリームで笠松グランプリ制覇した渡辺騎手(笠松競馬提供)

 ■ストリームで笠松グランプリ制覇

 第20回笠松グランプリ(SPⅠ、1400メートル)は1着賞金1200万円のビッグレース。渡辺騎手騎乗の3歳牡馬ストリーム(北海道・田中淳司厩舎)が豪快に差し切って制覇した。重賞は5勝目。渡辺騎手自身は重賞13勝目(今年5勝)。

 4コーナーを回って、園田のイモータルスモーク(牡7歳、田中守厩舎)と激しいたたき合いとなったが、外のストリームが渡辺騎手の手綱に応えて1着ゴール。クビ差2着にイモータルスモーク。さらに3馬身差、昨年覇者で名古屋に移籍したルーチェドーロ(牡6歳、今津博之厩舎)が3着。1番人気の高知・ヘルシャフトは吉原寛人騎手の騎乗で5着どまり。くろゆり賞を勝った4番人気の名古屋・セイルオンセイラーは4着に終わった。

笠松グランプリ優勝馬のストリームと渡辺騎手ら(笠松競馬提供)

 渡辺騎手は「お昼寝をしている時に田中淳司調教師から騎乗依頼の連絡を頂いて、少しびっくりしましたが、せっかくのチャンスなので頑張ろうと」。初コンビで「返し馬でもとても背中の良い馬だなと。乗せていただいて感謝しながらゲート裏で回っていました」。外の3番手から「良い枠順が当たり、有力馬を見ながら自分のリズムで競馬ができた」。追い出してからの反応は「直線で手前を替えてからの脚は本当に力のある馬だなと思い、感動しました」と喜びを語った。

熱気に包まれたアンカツさん(左)と太田彩夏さんのトークショー(笠松競馬提供)

 特設ステージでは、アンカツさんと岐阜県出身でSKE48の太田彩夏さんのトークショーが開かれた。楽しいおしゃべりや笠松グランプリの予想会もあり、笠松競馬応援番組の「笠馬X」を収録。詰め掛けたファンらの熱気に包まれた。アンカツさんはパドック解説や表彰式のプレゼンターも務め、古巣での全国交流レースを盛り上げていた。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

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