
「笠松競馬・復興3年目」となった2024年。エースの渡辺竜也騎手が200勝超えで年間最多勝記録を更新し、3年連続リーディングを獲得。「笠松の快速娘」として競馬場存続を支えたラブミーチャンは8月末に永眠。ウマ娘シンデレラグレイ賞の開催では8000人以上が来場し、聖地巡礼の若者の姿も目立った。転入馬のアオラキとハルオーブはアイドルホースとして人気沸騰。ファンを動員し盛り上げてくれた。
8月には筒井勇介騎手と高木健騎手がレース復帰を果たし、長江慶悟騎手はヤングジョッキーズシリーズ(YJS)でファイナルラウンド進出。ルーキー明星晴大騎手も日々成長。笠松競馬の馬券販売額(23年度)は450億円超えで過去最高となり、24年度も右肩上がり。放馬対策として懸案事業である円城寺厩舎の競馬場隣接地への移転は、26年度末完了を目指す。笠松所属馬の重賞Vはエイシンヌウシペツ(サマーカップ)など3頭。競馬場の運営面で目立ったトラブルはなく順風満帆。オグリキャップなど名馬が育った「地方競馬の聖地」復活へと歩み始めたこの1年。「オグリの里2024十大ニュース」として振り返った。

①渡辺竜也騎手年間200勝超え、NAR「最優秀勝率騎手賞」確実
「全国レベルのジョッキーへ」 笠松の絶対エースとして勝利を量産する渡辺竜也騎手(24)。自身初の笠松年間200勝を突破し、最多勝利記録を232勝まで更新。地方競馬通算1000勝の大台にも到達した。NARグランプリ2023ベストフェアプレイ賞の受賞に続き、最優秀勝率騎手賞のNARタイトル獲得も確実にした。6年ぶりに参戦したJRA(京都)では初勝利を飾り、モンスター級の活躍を見せている。
重賞勝利は自厩舎のエイシンヌウシペツ(サマーカップ)とキャッシュブリッツ(オータムカップ)のほか、他場からの騎乗依頼を受けたニジイロハーピー(兵庫クイーンセレクション)、プチプラージュ(金沢シンデレラカップ)、ストリーム(笠松グランプリ)で年間5勝(自己最多)とブレーク。全国リーディングは240勝で6位。全国レベルのジョッキーへと着実に成長した姿を見せた。
師匠の笹野博司調教師は190勝まで到達し、自身の笠松歴代最多勝記録(173勝)を更新。9年連続の笠松リーディングトレーナーも獲得した。11月には地方競馬通算1500勝を達成。全国リーディングは2位に躍進した。

②笠松存続支えた名牝ラブミーチャン永眠(8月31日)
「ありがとう、安らかに」 笠松競馬の「快速娘」「看板娘」として全国で疾走。多くのファンに愛され、笠松存続をけん引してくれた名牝ラブミーチャンが天国へと旅立った。馬主のDr.コパこと小林祥晃さんが自身のX(旧ツイッター)で「ラブミーチャン 8月31日朝、谷岡牧場で息を引き取りました。17歳でした。たくさんの思い出をありがとう」と伝え、愛馬の冥福を祈った。
厳しい経営状にあった笠松競馬の「希望の星」となって、力強く駆け抜けた「栗毛のシンデレラ」。2009年、全日本2歳優駿(川崎)を制覇し、2歳馬初のNARグランプリ年度代表馬に輝いた。12年に2度目の年度代表馬。ダートグレード競走で5勝を挙げ、スーパースプリントシリーズでは3連覇を飾った。生まれ故郷の北海道・谷岡牧場にお墓が完成した。笠松競馬場内では献花・記帳台が設置され、ファンたちが追悼した。コパさんは場内に記念像を建てたい意向。

③ウマ娘シンデレラグレイ賞盛況、8000人来場(4月29日)
「オグリキャップデビューの地へようこそ」 ウマ娘コラボイベントに「推し馬」のトレーナーさんたちが笠松競馬場に集結。聖地巡礼で熱狂した。芦毛馬だらけの「ウマ娘シンデレラグレイ賞」に続いて、オグリキャップ役声優の高柳知葉さんらがトークショーで「聖地降臨」を果たした。早朝から大勢の若者らが開門待ち。10~20代の若いエネルギーがあふれ、ライブ会場となった笠松競馬場。迫力満点の人馬の熱戦とともに、ファン一人一人が追い求めた、それぞれの「ドリーム」も熱く駆け抜けた。
レースは名古屋の細川智騎手騎乗のサルジュターグが鋭い切れ味で差し切った。「いいレースを見たよ」とゴールを目指して疾走する競走馬たちの頑張りをたたえ、温かい拍手が送られ、熱気がみなぎった。


④アオラキ、ハルオーブにファン熱視線
「ラチ沿いびっしり、盛り上った」 東海公営のご当地アイドルホースとして人気を集めた名古屋のアオラキ(今津勝之厩舎)と笠松のハルオーブ(後藤佑耶厩舎)。春から真夏にかけて、けがなどなく無事完走。応援する熱狂的ファンたちの大きな声援を背中に浴びながら駆け抜け、成長する姿を見せた。外ラチ沿いには応援する女性グループや若者らがびっしり。ファン動員に大きく貢献した。
2頭ともJRA未勝利の4歳牡馬。アオラキはゴールドシップ産駒の白毛馬。大畑雅章騎手の力強い手綱に応えて笠松でロングスパートを決めて2勝。ハルオーブはJRA時代に2着7回の「善戦マン」として人気急上昇。笠松で初戦3着、5着4回。応援団から「はるお、頑張れー」と大きな声援が飛んだ。2度直接対決。初戦がハルオーブ3着、アオラキ5着。2戦目がハルオーブ5着、アオラキ1着で1勝1敗。アオラキは一時浦和に移籍したが名古屋に復帰した。ハルオーブは岩手に移籍し2勝を挙げた。


⑤筒井勇介騎手と高木健騎手が復活星
「勝てて良かった、ホッとしました」 笠松競馬に頼もしい男たちが帰ってきた。生え抜きの筒井勇介さん(41)、高木健さん(60)の「1000勝超えジョッキー」。8月のレースから晴れて現役復帰を果たした。2人は、一連の不祥事で騎手免許を取り消されて引退扱いになっていたが、処分取り消しを求めた裁判で勝訴。空白の3年を経て免許再取得。応援してきたファンに健在ぶりを見せた。
筒井騎手は復帰7戦目でうれしい1着ゴールを飾った。荒波を乗り越えて、3年半ぶり勝利の味は格別で「リーディング復帰を目標に頑張ります」と意欲。高木騎手は復帰初戦のメイン「打上花火特別」でウインエイムハイに騎乗しドドーンと一発。豪快な差し切りVを決めて「健さん健在」ぶりをアピールした。

⑥長江慶悟騎手、YJSファイナル進出
「中京の芝でも大きな経験」 ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)で長江慶悟騎手(25、後藤佑耶厩舎)が笠松勢では渡辺竜也騎手以来6年ぶりにファイナルラウンドへ進出した。名古屋初騎乗となったトライアルラウンドでは、10番人気馬でインからスルスルと抜け出す好騎乗で1着ゴール。笠松では2着があり、西日本地区地方総合2位でファイナリストの座を射止めた。
園田で第1戦3着、第2戦7着とまずまずだったが、中京では騎乗馬に恵まれず13着、14着で総合14位に終わった。笠松での騎乗も多い名古屋のルーキー・望月洵輝騎手(18、井上哲厩舎)は中京で第1戦2着、シリーズ最終の第2戦は15番人気で豪快に差し切ってJRA初勝利をゲット。総合2位で「表彰台」に輝いた。

⑦馬券販売過去最高、年間451億円超え
「昭和超え、V字回復だ」 笠松競馬の馬券販売は好調で、1980年度(昭和55年度)の売上金レコードを43年ぶりに更新した。3年前には不祥事の影響でレース自粛が続く逆風に苦しんだが、約9割を占めるインターネット販売にも支えられてV字回復を果たした。
1年間の馬券発売額は451億円1502万円で、過去最高額を更新した。これまでは1980年度の445億2317万円が最高で、昭和の時代の記録を上回った。1日の平均販売額も4億6994万円で過去最高額を更新した。オマタセシマシタなどアイドルホースの出走やウマ娘のコラボイベントで若者らの来場も増え、昭和レトロ感あふれる場内の魅力もアピール。信頼回復と再生を誓って再出発した競馬組合、厩舎関係者たちの努力で記録更新につなげた。


⑧放馬対策、円城寺厩舎の移転は26年度末完了
「モデル厩舎を手始めに580頭分の馬房」 笠松競馬懸案の放馬対策で、長年棚上げされてきた厩舎移転事業は、モデル厩舎(伊藤強一厩舎)が新設されて実質スタート。左右に計16馬房あり、厩務員ら現場スタッフの要望を取り入れながら建設を進める。円城寺厩舎からの移転で、当初は厩舎を1カ所に集約する計画だったが、近隣住民の意見を踏まえ、競馬場に隣接させる形で東西にそれぞれ新たな厩舎を建てる。土地の東側にある民家と厩舎が近くなることを避けるため、用意した土地を「東駐車場」として整備することに変更した。
競馬場西側の第2駐車場に「西厩舎」として計約130頭分の馬房を備えた7棟を新築する。薬師寺厩舎は南側に拡張し「東厩舎」とし、計約450頭分の馬房を備えた30棟を新たに造る。東と西の新厩舎で計約580頭分の馬房が配備される。

⑨オグリキャップ記念、1400メートル戦となり5月開催
「長距離戦から一転」 笠松競馬の看板レースであるオグリキャップ記念(SPⅠ)は、これまで有馬記念と同じ2500メートルで4月末に実施されてきたが、全国的なレース体系の見直しに伴い変更。1400メートル戦に距離短縮され、5月23日に行われた。レースでは広瀬航騎手騎乗の2番人気タイガーインディ(兵庫)が差し切りVを飾った。12月に移行した笠松グランプリ(SPⅠ)では渡辺騎手騎乗の3歳牡馬ストリーム(北海道・田中淳司厩舎)が豪快に差し切って制覇した。
笠松での交流重賞は21戦。名古屋勢が13勝で圧倒、兵庫勢4勝、笠松勢は2勝のみ。大井、北海道が1勝ずつ。相変わらず笠松勢が地元重賞を勝てない日々が続いている。笠松所属馬の重賞Vはエイシンヌウシペツ(サマーカップ)、キャッシュブリッツ(オータムカップ)、ブリスタイム(ネクストスター笠松=地元所属馬限定)の3頭。ラブミーチャン記念は細川智史騎手が騎乗した名古屋のエバーシンス(角田輝也厩舎)が差し切りVを決めた。

⑩明星晴大騎手デビュー、初勝利(4月18日)
「母らの応援を背に新星キラリ」 17歳の明星晴大騎手が笠松でデビューした。身長168センチで愛媛県出身。父が競輪選手で「同じ公営競技への憧れもあって」とジョッキーの道に進んだ。
初勝利の瞬間はデビュー19戦目で訪れた。3番人気のスングリダンダンに騎乗し、好位から差し切り勝ち。愛媛から応援に駆け付けたお母さんに初勝利のゴールシーンをプレゼント。スタンドから祝福の拍手が湧き起こった。42勝を挙げて笠松リーディング8位。YJSでは結果を残せず、悔しい思いをした。

【次点】田口貫太騎手、YJS笠松ラウンドで連勝
「貫太君、笠松で強い」 JRA2年目の田口貫太騎手(栗東)がYJS笠松ラウンド2連勝。「貫太、頑張れよー」などとファンの声援が飛んだ。金沢では完敗続きだったが、笠松の貯金でファイナルラウンドへ進出した。中京では3着もあったが、総合7位。夏にはフランスで武者修行に励み、成長著しい。笠松では7勝で勝率50%と相性が良い。関東オークス(川崎)ではアンデスビエントで圧勝し、地方重賞初勝利。母への誕生日プレゼントにもなった。JRAでは今年40勝。
【番外】
キャッシュブリッツ、東海優駿2着
笠松でレディスジョッキーズシリーズ開催、木之前葵騎手総合V
【達成された節目の記録】(地方競馬通算)
☆筒井勇介騎手1300勝
☆渡辺竜也騎手1000勝
☆東川慎騎手 200勝
☆長江慶悟騎手100勝
☆岡部誠騎手 5000勝
☆川嶋弘吉調教師2500勝
☆伊藤強一調教師2200勝
☆藤田正治調教師1600勝
☆笹野博司調教師1500勝
☆加藤幸保調教師1300勝
☆後藤正義調教師1000勝
☆田口輝彦調教師900勝
☆後藤佑耶調教師500勝
☆栗本陽一調教師400勝

■「オグリの里3熱狂編」30、31日に笠松競馬場内で出版記念会
「オグリの里3熱狂編」の出版記念会を12月30、31日に笠松競馬場内で開く。100冊を先行発売。「1聖地編」「2新風編」に続く「3熱狂編」では人馬の激闘と場内の熱狂ぶりに迫った。巻頭で「ウマ娘シンデレラグレイ賞のドキドキ感」、続いて「観客大荒れ、八百長騒ぎとなった昭和の事件」を特集。ページ数、カラー写真を大幅に増やした。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、238ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、小栗孝一商店、酒の浪漫亭、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店などでも順次販売される。問い合わせは岐阜新聞情報センター出版室、電話058(264)1620=月~金(祝日除く)9~17時。