年の瀬、しかもなんとクリスマスイブ、初めてコロナに罹患(りかん)した。パンデミックの時期からはずいぶん気が緩んで、2025年のスケジュールに奔走していた年末。冬もようやく本格的になり始め、夜はずいぶん冷えるようになったなと身ぶるいしていたら案の定これだ。悪寒と関節痛がどんどん増してくる体を横にしたり縦にしたりしながら、どうにも具合がおかしく、とりあえず今週の習い事をキャンセル、それからクリスマスに予定していたカルチャーセンターに休講の連絡をした。

撮影・三品鐘

 とたん体は安心したかのように発熱、頭痛、悪寒、鼻水と不調全開になり始め、近くの発熱外来へ。おなじみの鼻をぐりぐりされる検査の結果、コロナ陽性ということが判明した。人と会わない在宅仕事ゆえの変な自信があって、悪くてインフルだろうという変な思い込みがあったのと、肩で息をするような今までにないしんどさで「コロナかあ」と実感ないままとりあえず帰宅し、今日から何日外に出られないんだっけ、と計算して非対面式ネットスーパーでお餅やゼリーやアイスやカップうどん、スポーツドリンクを予約する。熱は上がりに上がり、横になっても本を読む気力もなく、見慣れた友人のSNSをスクロールしながら、思いはまとまりなくあっちに行ったりこっちに行ったりする。

 人に会えなくても私を満たしているのは人だということをこういうとき痛いほど実感する。もう会わないと決めた人、もうそろそろ会いたい人、会っても会話は弾まないだろうけどずっと見届けたい人、何度でも会って喜びを分け合いたい人、会うたびやるせない気持ちにさせてくれる人、そして、もう二度と会えない人。そんな一人一人を熱に浮かされた頭の真ん中に座らせて、話しかけたり、笑いかけたり、そっと触れたりしながらまた眠りに落ちる。

 眠って眠って、ようやく本当の一人になったころには、熱は引いていた。

 言葉で届けたい。何を? この世は言葉でできていないことを。そんな矛盾した私の思い上がりの感情に気づいていた、もう二度と会えない人がいる。それが愛だなんていうつもりはない。そこまで思い上がった人間じゃない。だから今、ぐしゃぐしゃになった前髪をかき上げて、わたしの額に手を当てて欲(ほ)しいのだ。ほら、世界は言葉なんかでできていない。


 岐阜市出身の歌人野口あや子さんによる、エッセー「身にあまるものたちへ」の連載。短歌の領域にとどまらず、音楽と融合した朗読ライブ、身体表現を試みた写真歌集の出版など多角的な活動に取り組む野口さんが、独自の感性で身辺をとらえて言葉を紡ぐ。写真家三品鐘さんの写真で、その作品世界を広げる。

 のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。

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