寝る前に必ずやること、部屋をきれいにして寝ること。起きたら必ずやること、執筆部屋兼寝室である和室の布団を畳んであげること。この二つのルールに毎朝毎晩、自分を許せる感じ、整っていく感じがする。人によっては窮屈に思えるかもしれないこのルールだが、実はとても気に入っている。
でもどうだろう、このルールが人から決められたものだとしたら、ひどく辛(つら)いものになるかもしれない。どんな環境で、どんなルールをこなすか。それだけで、自分の人生は豊かにも貧しくもなる気がする。
幼少期、共働きの両親が帰ってくるまで、私たち姉妹は祖父母に預けられていた。家にいてもポマードで髪を整え、毎日の日記を欠かさなかった祖父と、きれいに家を整頓して、買い物は最小限に、なんでも自分で作っていた祖母。そんな二人からの毎日のおやつはなんと「乾パンと氷砂糖」。おそらく災害時の備蓄用に持っていたそれを、定期的に食べて入れ替えることで、賞味期限を守っていたのかもしれない。世にあった駄菓子屋や贅沢(ぜいたく)なケーキからしたらずいぶん質素なそのお菓子を、私はかなり気に入っていた。祖父母の規律正しいキャラクターと「乾パンと氷砂糖」という組み合わせはまさにぴったりで、その環境と組み合わせがとても好ましいものに見えたのだ。
でももし、これが小学校や幼稚園でのおやつだったら、あるいは共働きでいつも忙(せわ)しない両親からのおやつだったらどうだっただろう。おそらくどこか惨(みじ)めで、不満の募るおやつだったに違いない。環境と、その環境を与えてくれる人のキャラクター、そしてそのルール。この三つが好ましいものとして組み合わさるとき、人は豊かさを感じるのだろう。
そして三つ子の魂百までではないが今の私のおやつは油食塩不使用のナッツ、そしてちょっとのチョコレートだ。コンビニでスイーツを買い食いすることはごくたまにあるけれど、かなり変則的なこと。部屋を片付けること、布団を畳むこと、おやつはナッツとチョコレート。この窮屈で豊かなルールで、私は私を許しては認めている。
何で生活を縛るか、何で生活を許すか。この二つはおそらくコインの裏表で、そこに満足感を得られるか得られないかで、生活はまた変わるのだろう。あなたが自分を豊かに許すために、あなたが縛ったあなただけのマイルール。そんな窮屈で自由なものの話をしたい。
岐阜市出身の歌人野口あや子さんによる、エッセー「身にあまるものたちへ」の連載。短歌の領域にとどまらず、音楽と融合した朗読ライブ、身体表現を試みた写真歌集の出版など多角的な活動に取り組む野口さんが、独自の感性で身辺をとらえて言葉を紡ぐ。写真家三品鐘さんの写真で、その作品世界を広げる。
のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。