1周目スタンド前を、2番手で疾走するレディアイコ(7)。「ウマ娘」ファンの若者らも熱い視線を送った

 コロナ禍(クラスター発生)で1開催取りやめになった笠松競馬。再開初日には騎手1人の騎乗変更があり、ヒヤリとしたが疾病(胃腸炎)のためだった。

 新たなコロナ感染者はなく、まずは一安心。1月以降、コロナに感染していない騎手4人は、抗原検査を毎日受けるなど感染防止対策に努めている。装鞍所がある業務エリアでは騎手バスの分乗のほか、騎手控室も笠松(1階)と名古屋(2階)に分けて利用。マスク着用、手指消毒などを徹底し、4日間のレースを無事終えることができた。

■名手・岡部誠騎手とのコンビで先頭を奪った

 現役競走馬ではただ一頭、オグリキャップ孫娘のレディアイコ(牝4歳、後藤佑耶厩舎)は17日の4R(C―26組、1400メートル)に出走した。気温は20度近くまで上昇し、木曽川河畔のダートコースにも春の足音がひたひたと。レディアイコはパドック周回から注目を浴び、「ウマ娘」ファンの若者らが熱い視線を送り、外ラチ沿いにカメラを構えるファンの姿も多かった。
 
 岩手から笠松に移籍し2戦目。昨年笠松リーディングの岡部誠騎手が騎乗すると、首を上下に揺らして、うるさい面を見せていたが気合乗りはまずまず。馬体重はマイナス6キロの395キロ。管理する後藤佑耶調教師は「積極的な競馬はできているが、粘りがもうひとつ。初戦で仕上がっていたし、どこまで変わるか」と、名手とのコンビでの変わり身を期待していた。

 単勝3番人気。ゲートインでは、実況アナもオグリキャップの孫であることをアピール。スタートダッシュから2番手をキープ。先団4頭の競り合いから、向正面ではいったん先頭を奪った。3~4コーナーでは一瞬「これはいけるかも」と初勝利の夢もちらついたが、4コーナーを回って後続に詰め寄られ、最後の直線では伸びを欠いた。

岡部誠騎手を背に、4着でゴールしたレディアイコ

■見せ場たっぷりの4着、初勝利へ一歩前進

 大原浩司騎手騎乗のアップリュウジンが差し脚鋭く1着。インで踏ん張っていたレディアイコは4着に終わったが、見せ場たっぷりで「ウマ娘」ファンも興奮。「トップで走っていて、最後まで頑張ってましたね」「馬体重を戻して、このまま笠松で頑張れば初勝利が見えてくるね」。馬券圏内には惜しくも届かなかったが、ファンの温かい声援は心強い。
 
 騎乗した岡部騎手は4年前、岩手の名馬エンパイアペガサス(昨年末引退)に騎乗したオグリキャップ記念で、大差勝ちを収めている。そのエンパイアペガサスとレディアイコはともに佐藤牧場(北海道新冠町)育ちであり、人馬の絆も感じられた。今後もこのコンビでの騎乗が続けば、展開次第では1着ゴールのシーンも期待できそうだ。

 JRA、岩手時代から通算10戦目。1400メートル1分35秒6。前走からタイムを1秒6縮め、先行有利な笠松でのレース運びなど、徐々にコース慣れしてきた印象。積極策で「掲示板」は確保し、前走の6着からは一歩前進したといえる。ゴール前で応援していたファンは「頑張って前の方にいただけに、すごく悔しいです」と残念そうでもあった。

 攻め馬で連日レディアイコに騎乗している長江慶悟騎手は「僕がレースで乗ることはないですが、笠松にいるうちに1勝はできるでしょう」と手綱の感触に手ごたえを感じており、前めでのレース運びが実を結ぶかも。最後の直線では失速気味になっているが、JRA時代の新潟・芝コースでは、藤田菜七子騎手とのコンビで、上がり最速のタイムをマークしたこともある(1着馬から0.8秒差の9着)。

 小柄な牝馬で非力な印象はあるが、前走で騎乗した青柳正義騎手も「もう少し暖かくなってきて、馬体が良くなってくれば。成長待ちですね」と期待。笠松の環境に慣れてくれば、気性面でも成長し、祖父が育った聖地で覚醒した走りを見せてくれるかも。将来的にはオグリキャップの血統をつなぐ母馬になるため、繁殖入りすることが期待されており、長くても8月までとみられる笠松での日々を「けがなく無事に」過ごしてもらいたい。

名古屋のナムラマホーホが、外からウインユニファイドを差し切り、マーチカップを制覇した。笠松勢ではウインハピネスが3着

■マーチカップ(オグリキャップ記念トライアル)、名古屋のナムラマホーホV

 オグリキャップ記念トライアルの「マーチカップ」(SPⅢ、1900メートル)は17日行われ、名古屋のナムラマホーホ(牡5歳、藤ケ崎一人厩舎)が1番人気に応えて、岡部誠騎手の騎乗で鮮やかな差し切りVを決めた。

 笠松勢は重賞ウイナー3頭が出走した。ウインハピネス(大原浩司騎手)が3コーナーから差し脚を伸ばしたが3着。笠松では16戦して7勝、2着6回、3着3回と全て馬券圏内で堅実な走りを見せている。2月のウインター争覇を制覇したスタンサンセイ(藤原幹生騎手)は4着。東海ゴールドカップ、ウインター争覇2着のベニスビーチ(渡辺竜也騎手)は5着に終わった。

ナムラマホーホでマーチカップを制し、喜びの岡部騎手ら関係者

 勝ったナムラマホーホは初めての笠松コース。4コーナーを回って、前を行くウインユニファイド(丸野勝虎騎手)に並びかけてマッチレース。激しいたたき合いの末、最後はナムラマホーホが外からグイッと一伸び。東海菊花賞、名古屋記念に続いて重賞5勝目を飾った。

 岡部騎手は「自分でレースを動かし、ポジションを取って、最後までしっかりと伸びてくれた」と手応え十分。「早めに先頭に立つと気を抜いて遊んじゃうんでね。(2着の)ウインユニファイドも力のある馬だし、前に目標があって良かったです」。今後に向けては「強いメンバーの方が競馬がしやすいので、オグリキャップ記念へ行きましょう。先生(藤ケ崎一人調教師)もそんな感じでしたんで」と地方全国交流のオグリキャップ記念(4月28日)に狙いを定めるようだ。

■子葉賞(新緑賞トライアル)はドミニク圧勝

  新緑賞トライアルの3歳オープン「子葉賞」(1400メートル)は、向山牧騎手が騎乗したドミニク(牝3歳、後藤正義厩舎)が圧勝した。前走の立春特別を勝ったシャローナ(丸野勝虎騎手)が逃げ、ドミニクは中団に待機。向正面からスーッと動いて、3コーナーでは先頭を奪うと、食い下がるシャローナを突き放してゴールイン。

 昨秋の名古屋・ゴールドウィング賞を制しており、笠松では格の違いを見せつける強い競馬で4馬身差の圧勝。前走の立春特別を勝ったシャローナが2着。JRA交流「端月賞」を制したフレンドショコラ(渡辺竜也騎手)は4着だった。

昨年の笠松・2歳最優秀馬ドミニク。向山牧騎手の騎乗で、子葉賞を圧勝した 

 笠松のスターホースであり、後藤正義調教師も「ここを目標にしっかりと乗り込んできた。好仕上がりで、地元馬相手なら、どんな競馬になっても大丈夫だろう。(集中力を高めるため)チークピーシーズを試してみます」と自信満々。向山騎手との息もピッタリ。想定通りの走りで強い競馬を見せてくれた。

 同厩舎の快速牝馬・シルバは出走を回避。昨年の秋風ジュニアではドミニクを下し、続くジュニアクラウンではイイネイイネイイネに6馬身差をつけて無傷の3連勝。800メートルでのデビュー戦でコース新をたたき出した逸材。攻め馬を行い、復帰間近と期待していたが、順調さを欠いて4カ月間も出走がない。ドミニクとともに笠松のエース候補であり、早く元気な姿を見せてほしい。

■2歳最優秀馬にドミニク、騎手・調教師は表彰なし

 令和3年の県地方競馬組合表彰は、不祥事が直撃した形となり、寂しい結果となった。優秀な成績を収めた競馬関係者や競走馬を表彰するものだが、調教師、騎手は「該当なし」。厩務員は早野謙司さん(後藤正義厩舎)と岡村敬志さん(柴田高志厩舎)の2人が表彰を受け、笠松競馬を支えてきた長年の功績がたたえられた。

 競走馬では「2歳最優秀馬」に後藤正義厩舎のドミニクが選出された。笠松生え抜き馬で、昨年11月の名古屋重賞・ゴールドウィング賞を豪快に差し切り勝ち。向山牧騎手の騎乗で、重賞初Vを飾り、再開後の笠松競馬待望のスターホース候補に躍り出た。3歳、4歳以上の表彰は該当なしだった。

 ドミニクは年末のライデンリーダー記念4着、2月の名古屋・梅桜賞2着と勝利には届かなかったが、安定した力を発揮。名古屋勢では、3歳牝馬アップテンペスト(井手上慎一厩舎)が梅桜賞、スプリングカップを連勝。騎乗した加藤聡一騎手自身も、待望の名古屋重賞初Vに続いて2勝目。笠松勢にとっては「新たな壁」になりそうだが、4月に名古屋競馬場が弥富に移転すると、距離変更が注目ポイントにもなる。1400、1600メートル戦はなくなり、1500、1700メートル戦が主流になる。東海ダービーはこれまでの1900メートルから2000メートル戦になり、距離延長が微妙に影響しそうだ。差し脚鋭いドミニクにとっては望むところでもあり、豪脚を発揮するシーンが見られるかも。

ウインター争覇を勝ったスタンサンセイ。藤原幹生騎手と喜びの関係者 

■ウインター争覇は笹野厩舎のスタンサンセイV

 1カ月間お休みだった笠松競馬は、所属馬が再び減少傾向で455頭ほどになった。それでも1~2月は東海地区の重賞戦線で、笠松勢の活躍が目立った。コロナ禍でのドタバタで遅くなってしまったが、地元2重賞を振り返った。

 2月の「ウインター争覇」(1800メートル、SPⅢ)はスタンサンセイ(セン馬6歳、笹野博司厩舎)が2番手からロングスパートを決めて重賞初Vを飾った。東海ゴールドカップ1、2着馬のマッチレースも予想されたが、もっと強い馬がいたのだ。

 藤原幹生騎手が3コーナーで早めにゴーサインを出し、力強い走り。追ってきたベニスビーチ(牝4歳、田口輝彦厩舎)、ウインハピネス(牡7歳、森山英雄厩舎)の人気馬2頭を完封し押し切った。
 
 藤原騎手は「バテないのが強みで、いいスタートから好位置につけて、仕掛けどころで素直に反応してくれました」。有力馬2頭は後ろにいたが「この馬のロングスパートを生かして早めにと。最後まで粘ってくれて良かったです。1800メートルでも思い切って攻めたレースができた。単騎でいたんで、景色がゆったりと見えました」と勝利の味をかみしめていた。マーチカップは4着だったが、巻き返しを期待したい。

ゴールドジュニアをバウチェイサーで制覇。笠松重賞初Vを飾った笹田知宏騎手 

■ゴールドジュニアは兵庫・バウチェイサーV、笹田騎手が笠松初重賞V

 3歳重賞「ゴールドジュニア」(1600メートル、SPⅢ)は1番人気の兵庫・バウチェイサー(牡3歳、新子雅司厩舎)=笹田知宏騎手=が大差で圧勝した。2着にエイシンヌウシペツ(笹野博司厩舎)、3着にシャローナ(田口輝彦厩舎)の笠松勢が入った。

 ゴールドジュニアはかつてはオグリキャップやラブミーチャンが勝って、中央挑戦の壮行レースにもなった出世レース。笹田騎手は「この馬が笠松の競馬場で勝ったこと、個人的にも笠松で重賞勝ったのは初めてなんで、すごくうれしいです」。笠松の出世レースを制覇したこの馬の将来性について「園田のグレードレースで入着しているように潜在能力はあるので、精神的に成長して強い相手といい勝負ができたら」と期待。3月10日の兵庫ユースカップでも6馬身差で圧勝し、重賞2連勝とした。

■イイネイイネイイネも、距離延長の東海ダービーが楽しみ

 昨年12月のジュニアキングで差し切りVを決めたイイネイイネイイネ(牡3歳、田口輝彦厩舎)は、名古屋・新春ペガサスカップで3着。2月のスプリングカップでは、いい脚で追撃したが、逃げ切ったアップテンペストに1馬身届かずの2着。勝ち切れないレースが続いたが、地力は着実にアップ。距離が延びていいタイプで、2000メートルに距離延長される弥富での東海ダービーが楽しみになる。

 オリンピックなら「銅メダル」「銀メダル」でもメダリストとして、もてはやされるが、競馬のようなプロスポーツでは1着のみが勝者で、2、3着では敗者の扱い。それでもイイネイイネイイネの成長力は相当なもので、東海ダービーなど重賞レースでビッグランを見せて、実況アナに「イイネイイネイイネ」を連発してもらえるといい。

堤防道路沿いの桜並木が満開になっていた笠松競馬の正門前=2020年4月

■深沢、松本、長江騎手ら豪快に大まくり

 弥生シリーズでは、若手騎手らの差し切り勝ちもよく目立った。深沢杏花騎手は初日6R、自厩舎のオーミルシアに騎乗し7番手から直線突き抜けて今年6勝目。松本剛志騎手も初日8R、コスモマイディアで8番手からすごい脚で追い上げて、鮮やかな勝利。笠松ではなかなか見られない「鬼脚」での大まくりは痛快だった。
  
 最終日は6鞍に騎乗した長江騎手。2Rのセルクルクルミは昨年末、けがから復帰後に勝利を飾った馬だった。後方2番手から豪快に追い上げると、深沢騎手との競り合いを制して今年3勝目を飾った。本人も「けがをしたのは、自分が未熟だったから」と懸命に騎乗技術を磨いており、レースでも着実に成長した姿を見せている。

■難解のC級サバイバル、3連単は3万2130円

 3日目最終レース「C級サバイバル」は近走不振馬ばかりを集めた難解レースだった。ネット上で紙面データを無料公開している「競馬エース」の本命馬スキャルドメール(向山牧騎手)が7番人気でハナ差勝ち。「◎△▲」の印で決着して3連単3万2130円。「地元の強みか、さすがは競馬専門紙」と感心していたら、岐阜新聞の予想は「◎▲○」でこちらも的中。出走表と印、買い目だけの地味な予想ですが、たまには大当たりも。メインのマーチカップは堅い決着だったが「◎○▲」の大本線でピタリ。C級サバイバルは準メインの10R(A2・弥生特別)を上回る馬券販売額。「コロナ休み」後で売り上げの落ち込みが懸念されたが、4日間の1日平均では4億円超となり、まずまずだった。 

■次回スプリングシリーズは25日(金)と28~31日

 「競馬は『ああだ、こうだ』と予想している時間が一番楽しい」なんて言う人もいるが、東海ダービーや東海ゴールドカップで「名古屋の馬には(笠松の馬には)負けたくない」と競い合ってきたのが笠松と名古屋の人馬たち。

 名古屋競馬は4月から弥富に移転するが、地理的に「金シャチけいば」のイメージは薄らぐだろうが、「推理とロマンの名古屋競馬」のキャッチコピーは懐かしい響きがあり、残してもらいたい。

 競走馬とファンとの距離がすごく近い「走るドラマ笠松競馬」も、より迫力ある熱戦を期待。本年度最後となるスプリングシリーズは変則開催。初日が25日(金)で、土日を挟んで28~31日の計5日間。一昨年はコロナ対策で無観客、昨年は不祥事で開催自粛だった笠松競馬。堤防道路の桜並木も見ごろを迎えそうで、今年は3年ぶりに花見と競馬が楽しめそうだ。華やかになる「オグリキャップの聖地」に足を運んでいただきたい。