夏競馬真っ盛りの笠松競馬。コースの内馬場には水田が広がり、のどかな風景も楽しめる

 梅雨明けとともに、一気に夏競馬真っ盛りとなった笠松競馬。35度超えの猛暑が続き、炎天下の木曽川河畔ではアルプスシリーズの熱い戦いが繰り広げられた。1400メートル戦なら90秒ほどの「走るドラマ」。笠松、名古屋の騎手たちが全力でフェアプレー。初日には名古屋の宮下瞳騎手が中盤までに7鞍も騎乗し、3Rで華麗な逃げ切りV。笠松では通算66勝目を挙げ、若手騎手らに模範を示すとともに、ライブ観戦のファンたちを喜ばせた。

 平日の笠松の入場者は700人前後。競走馬が疾走するコースの内馬場では、田植えを終えた水田が広がり、笠松競馬場ならではの「夏の風物詩」だ。生ビールやご当地グルメの串物などを手に、ライブ観戦を楽しむファンの姿もちらほら。競走馬との距離が近くて、迫力あるレースとのどかな風景を眺めるのも開放感があっていいものだ。

 「夏は牝馬が強い」「馬券も牝馬を狙え」という。競走馬は暑さに弱いが、アルプスシリーズ初日は12レースのうち牝馬が10勝。負担重量2キロ減も生かして牡馬を圧倒した。

豪快な追い込みでクイーンカップを制覇した笠松のドミニク(向山牧騎手)=中央=。2着は兵庫のベラジオサキ(鴨宮祥行騎手)=笠松競馬提供

■向山騎手騎乗、最後方から大まくりの豪脚

 6月29日に行われた笠松3歳牝馬重賞「46回クイーンカップ」(SPⅢ、1600メートル)は、向山牧騎手騎乗の笠松生え抜き馬ドミニク(後藤正義厩舎)が豪快な差し切りVを決めた。

 ドミニクは昨年11月の名古屋・ゴールドウィング賞で重賞初Vを飾った。「笠松最優秀2歳馬」に選出され、次世代スターホースとして期待していたが、その後は子葉賞での1勝のみだった。東海3冠レースの駿蹄賞が3着、東海ダービーは4着で末脚不発。両レース2着だったイイネイイネイイネに笠松スターホースの座を奪われそうだったが、重賞2勝目で貫禄を示した。

■兵庫勢に円熟の一撃、笠松勢の意地見せた

 笠松重賞に強く、Vをさらうことが多い兵庫勢。クイーンカップには3頭が参戦。6月2日に「ぎふ清流カップ」を制覇したクリノメガミノエース(牝3歳、石橋満厩舎)は、笠松狙い打ち。前走に続いて吉原寬人騎手(金沢)が騎乗。単勝1.5倍の断トツ人気で、今回も逃げて3コーナーまでは笠松重賞連勝へと突き進んでいた。

クイーンカップ優勝馬のドミニクと向山騎手(右)ら喜びの関係者=笠松競馬提供

 ドミニクは2番人気。先頭から大きく引き離された最後方だったが、向山騎手は悠然と1~2コーナーを回ると、向正面から馬の闘争心にスイッチが入り、追撃を開始。3コーナーから次元の違う走りで一気に8頭をごぼう抜き。逃げたクリノメガミノエースを並ぶ間もなくかわし、4コーナーを回って先頭に立った。最後はやや脚色が鈍り、兵庫・鴨宮祥行騎手のベラジオサキに詰め寄られたが、クビ差しのいでゴールイン。地元生え抜き馬の意地を見せた。笠松、名古屋勢を見下ろして賞金稼ぎにくる兵庫勢に、向山騎手が円熟の一撃を食らわせた。クリノメガミノエースは距離延長が課題で失速気味となったが、3着はキープした。

■イイネイイネイイネと2枚看板で、笠松競馬をけん引

 向山騎手は「名古屋では精いっぱいのレースが続いたんで、勝てて良かったです」。展開的には「後ろからになっちゃいました。(ハミが)かかったら行こうと思っていて、ちょうど向正面からに」とロングスパートを開始。仕掛けどころとしては「ちょっと早かったけど、最後は伸びてくれました」。

 笠松を得意とする鴨宮騎手が迫ってきたが、ドミニクはもう一伸び。「距離は長過ぎると最後の脚が使えなくなり、1600メートルがベストでしょう。これからもドミニクと頑張ります」と会心の勝利を喜んだ。3歳スターホースとして、イイネイイネイイネと2枚看板で、笠松競馬をけん引していきたい。

 後藤正義調教師は「東海ダービーを使って中2週でしたが、しっかりと負荷をかけたし、満足できる仕上げができた。難敵ぞろいだが、走りのいい地元で巻き返しを」と期待し、最高の結果になった。 岐阜金賞(8月25日)は1900メートルに延びるが、2冠馬タニノタビトを含めた3強の戦いで、最後の1冠制覇を目指したい。

レース終了後、栄養分や水分を補給する長江慶悟騎手(左)と及川烈騎手

■「競馬場内、何でこんなに暑いんだろう」

 毎年7~8月には「競馬場内って、何でこんなに暑いんだろう」といつも思う。笠松はパドックが内馬場にあって、移動距離は少ないが、他場ではパドックから返し馬へと、熱心なファンは一緒に駆けて行くので体力を消耗する。広い中京競馬場などは歩き回ってかなりの運動量だし、馬券が外れれば、より熱くもなる。

 かつては、最終レースが終わった笠松の装鞍所エリアで40度超えの日もあった。今年はシリーズ初日(6月28日)午後6時を過ぎたのに、エリアの温度計は33度。騎手の仕事は厳しい体重制限との闘いであり、1レースごとに検量があり、夏場の体調管理はより大変だ。1日のレースを無事に終えた若手の長江慶悟騎手や及川烈騎手らは、先輩の馬具の手入れにも励んだ後は、栄養分や水分を補給。翌日の攻め馬やレースに備えて調整ルーム入り。午前1時台からの攻め馬に備えた。

 飛山濃水シリーズで14勝を挙げた渡辺竜也騎手。「熱中症対策をしっかりして、笠松競馬場に遊びに来てください」と自らのツイッターでファンに呼び掛け。今年の「夏男」はV量産モードに突入。アルプスシリーズも初日から3勝。笠松、名古屋でフル稼働だ。

自厩舎のヒルノエルニドに騎乗し、笠松での初勝利を飾った及川騎手=笠松競馬提供

■18歳の及川烈騎手、自厩舎の馬で笠松初Ⅴ

 6月から笠松での期間限定騎乗に励んでいる及川烈騎手(18)=後藤正義厩舎所属=。2開催目初日に笠松での初勝利を飾った。7R、お世話になっている自厩舎のヒルノエルニド(牝4歳、後藤正義厩舎)で3番手から差し切り勝ち。2着サンマルジョオーに2馬身半差をつけた。今年4月に浦和でデビューし、通算2勝目となった。

 最終レース後には「うれしかったです」とホッとした表情。ゴールの瞬間は「ああ勝ったなあと。自厩舎の馬で勝てたことが、すごくうれしいです。先生からの指示は2番手からの競馬で、4コーナーから伸びてくれました」。この日は計9レースに騎乗し「すごくいい経験になりました。9鞍は自己新です」と充実した1日になった。

■伸び伸びと騎乗技術を学んで

 勝った後、装鞍所に戻ってきて「おめでとう」の声もあったが、「コーナーワークとか引っ掛かり気味で、きれいな競馬じゃなかった」と、1コーナーで外に振られていたようで反省点も。8月26日までの騎乗で「浦和より、こっちの方が暑いです」と日焼け顔は、もっと黒くなることだろう。笠松では乗るチャンスも増えて、伸び伸びと騎乗技術を学べる環境にあり、先輩からのアドバイスをよく聞いて腕を磨いていきたい。 

電源系統のトラブルで、レース中継などが放映できなくなった清流ビジョン

■清流ビジョンは特殊ケーブル不良でダウンしたまま

 笠松競馬場内に設置され、迫力あるレース映像が楽しめる大型の「清流ビジョン」は電源系統のトラブルで放映できない状態が続いている。小型モニターが設置してある西スタンド1階無料休憩所が開放され、オールドファンには喜ばしいことだが、清流ビジョンはJRA開催日の土日にも放映がなく、スタンドで見ようと来場したファンたちをがっかりさせている。タイム・着順や払い戻しの表示もなく真っ黒で、大型ビジュンのない時代に戻ったかのようだ。

 原因は特殊ケーブルの不良により、電源供給ができないことが判明。発注した部品の取り寄せに時間を要し、復旧のめどが立っていないそうだが、早急に対応してファンサービスに努めるべきだ。

■深沢騎手はヤマニンカホンで逃げ切り、サマーアタックV

 4月の芦毛馬限定「ウマ娘シンデレラグレイ賞」をヤマニンカホン(牝4歳、森山英雄厩舎)で、華麗に逃げ切った深沢杏花騎手。ファンを熱狂させ、大きな温かい拍手に包まれた人馬一体でのシンデレラストーリー。「新生・笠松競馬」を彩る貴重なワンシーンであり、その後、馬も騎手も共に成長を続けている。 
 
 アルプスシリーズ初日のメイン「サマーアタック」(B級以下特別)では連勝を狙って参戦。ヤマニンカホンは1番人気で、好ダッシュを決めてスイスイと逃げ切りV。昨秋、中央から笠松に移籍。中央では4戦して全て2桁着順のしんがり負けだった。そんな落ちこぼれが、笠松で8勝目を飾り、大変身を遂げつつある。

ウマ娘シンデレラグレイ賞を勝ったヤマニンカホンで、サマーアタックも逃げ切った深沢杏花騎手

 深沢騎手は「強かったですね。1年たって馬が成長したなと思います」と全国リーディングを争う名手・岡部誠騎手騎乗のシンゼンミラクルに4馬身差の圧勝。「最初の頃は、どうしようもなくバァーと行ってましたが、大人になったなあと。(ポンと出て)そのままスーッと行ってくれて、本物になってきた」とも。調教を行っているのは大原浩司騎手だが「レースで大原さんが他馬に騎乗する時に、(ヤマニンカホンに)乗せてもらっています」。クラスが上がっているのに連勝でき「減量騎手であることが大きいですし、どこまでやれるか分からないですが、上に行っても頑張りたい」と意欲。

■新たな「シンデレラストーリー」、重賞挑戦を

 ウマ娘シンデレラグレイ賞の頃から走りが良くなったヤマニンカホンとは好相性。「4勝もさせてもらって、馬が強くてありがたいですね」。大原騎手が騎乗した1600メートル戦でも逃げて半馬身差の2着と好走しており、1400メートルならバタバタになることもない。「きょうはメンバーが前回よりも強くなって、ちょっと緊張しました。でも直線で後ろを見たら『アッ、いないな』」と最後は手綱を持ったままで余裕のゴール。芦毛がよく似合う深沢騎手。「勝負服が白とかだからでしょう。これからも乗せてもらえるか分からないけど、頑張ります」と笑顔だった。

 ヤマニンカホンはまだ4歳だし、今後オープンを狙える馬に成長する可能性も秘めている。深沢騎手は「1開催、最低1勝が目標です。そしていつか重賞レースを勝ちたいです」と闘志。2日目には12Rの「C級サバイバル」をサイレントシズカ(牝4歳、後藤佑耶厩舎)で制し、5勝全てに騎乗。この馬とも好相性で、2日連続の勝利。ヤマニンカホンとのコンビでは、新たな「シンデレラストーリー」として、いつか重賞挑戦を果たしたい。

■日本海スプリントで名古屋の細川騎手が重賞初V

 この日、金沢で行われた日本海スプリントには「交流アイドル」のナラ(牝6歳、伊藤勝好厩舎)が参戦。主戦は深沢騎手だが、笠松開催中でもあり、ナラには乗らずにこっち(笠松)で騎乗した。「ナラさんには同期(魚住謙心騎手)に頼みました」とのことだった。

 日本海スプリントは900メートルの超短距離戦で、前身の「名古屋でら馬スプリント」時代にはラブミーチャンがV3。シリーズファイナルの「習志野きらっとスプリント」でも3連覇を果たし「地方最速女王」に輝いた。今年の日本海スプリントには笠松から3頭がチャレンジ。全国の重賞戦線を駆け抜けている「鉄の女」ナラだが、最後はよく追い込んで5着と健闘した。

 勝ったのは、名古屋の細川智史騎手が騎乗したナムラムツゴロー(牡7歳、坂口義幸厩舎)で、4番手から強烈な差し脚を発揮。重賞初Vを飾った細川騎手は笠松での騎乗も多く、今年5勝。深沢騎手と同期で、お先に重賞ゲットとなった。

笠松競馬円城寺厩舎の出入り口付近。遮断機のほか、アルミ製フェンスや置き柵が設置され、放馬防止に努めている

■ハプニング!放馬対策の訓練中に、管理外の馬が放馬

 「所属していない馬が外にいて、みんなびっくりでした」。たまたま訓練中だったが、ハプニング発生で、放馬対策の実地訓練が本番モードに突入した。

 6月27日午前9時40分ごろ、笠松競馬管理外の馬(組合厩舎に隣接する馬房で管理されている馬)の放馬が発生した。この日は、競馬組合が放馬事故を想定した訓練を実施していたところ、職員が厩舎外での放馬を発見。約5分後に一般道で当該馬を確保し、周辺で事故などはなかった。

 現場は笠松・円城寺厩舎の近く。競馬場での調教が終わった午前9時30分ごろから訓練を開始。職員や厩務員らが円城寺厩舎の出入り口付近で、「馬役」の人が逃げ出し、確保する訓練を行っていた。すると、職員が厩舎西側の馬道にいた馬を発見したという。

 競馬組合では、エリア外にある元厩舎の馬房を「外厩」として、一般に貸していた。発見された馬は、厩舎と競馬場をつなぐ馬道を、競馬場方面に逃げたという。

■1キロほど先で逃げた馬を無事確保

 職員らは馬を追い掛けていき、約1キロ離れたコンビニ店「ファミリーマート」西側の一般道で確保した。「うちの馬ではなかったので」と発表も遅れたが、組合では放馬事故対策に力を入れており、ホームページで明らかにしたことは良かった。3年前の円城寺厩舎からの放馬では、JR踏切を渡って住宅街を暴走。「馬が道路を走っている」という110番通報が相次いで大騒ぎになり、テレビニュースでも放映。1開催が中止になった。今回、逃げた馬の所有者は地元の馬主さんで、別の地方競馬の所属馬だった。

 組合では「たまたま訓練をやっていたから良かったが、大ごとになるところでした」。所属馬ではないが、馬が単独で馬道や一般道を移動したのは確か。訓練中でなかったら確保が遅れ、衝突事故が発生していたかもしれない。

 2013年10月28日には、調教中に装鞍所を脱走した馬が堤防道路を逃げて車と衝突。2人が死傷した重大事故が発生している。組合では事故後、10月28日を「放馬対策の日」と定め、定期的に放馬事故防止の研修や訓練を行っている。笠松町、岐南町は、日常的に馬が道路を横断したりする「馬の町」でもある。競馬場存続のためにも、重大事故を二度と起こしてはいけないし、安全確保により一層努めていきたい。

■熱中症対策のファンサービスを

 アルプスシリーズ前半戦は乗鞍岳特別、伊吹山賞などのレースが行われ、涼を求めて山が恋しくなる季節になった。7月13日からはシリーズ後半戦(3日間)を迎え、14日には重賞「サマーカップ」(SPⅡ、1400メートル)が行われる。17日(日曜)には愛馬会の「軽トラ市」もある。ライブ観戦で来場するファンのため、清流ビジョンの早期復旧を願いたい。また、コロナ対策とともに熱中症対策のためにも、1階無料休憩所の開放はそのまま続けてほしいし、クーラーの稼働や冷水の無料提供などファンサービスにも努めてほしい。