岐阜大学皮膚科医 松山かなこ氏

 今日から仕事や学校が始まるという方も多いのではないでしょうか。本コーナーも今年の1回目です。今年もどうかよろしくお願いいたします。さて、どんな話題をお伝えしようかと悩んでいたら、外来に通っておられる患者のOさんが「私の病気を書いてください」と言ってくれました。今回はまれな疾患ですが、血管肉腫というがんを取り上げます。

 血管肉腫は、高齢者の頭に生じやすい見た目が赤紫色のしみのようながんで、原因は分かっていませんが、けががきっかけになることもあります。そのために治りにくい頭のけがとして治療され、診断が遅れることもあります。最初は青あざのような見た目ですが、紫色の面が拡大してきて、その中に血豆のようなしこりがいくつかできて出血したりします。日本人の黒い髪色だと紫の斑に気が付きにくく、理美容院で指摘されて受診する人もいます。

 このがんは、切除しても容易に頭や顔に再発したり、比較的早くから肺やリンパ節に転移しやすいがんなので、初期から抗がん剤治療と、放射線治療を組み合わせた集学的な治療を行います。

 Oさんは70代の女性ですが、どこにがんがあるかを確認するためにすべての頭髪をそって、病変を確認することから治療は始まります。初めの2カ月は入院して毎日放射線治療をして、毎週抗がん剤も使用します。その後は毎月1回の抗がん剤を継続します。副作用で血が少なくなってしまい、検査や注射に頻回に通院しなくてはいけないこともあります。

 手や足のしびれや、むくみなどの副作用もありますし、頭髪も完全に抜けてしまいます。つらい事や不安も多いでしょうが、いつも笑顔で、明るくて、お元気で、ご夫婦で冗談を言い合いながら通院してくれます。「夫婦で漫才をやっているみたいです」と、診察室はいつもにぎやかです。

 5年ほど無再発、転移なしの非常に調子の良い経過でしたが、昨年の秋ごろに新しく右の目のすぐそばに再発してしまいました。違う種類の抗がん剤に変更しましたが思うように効果が出ません。家族とも相談して、放射線治療を再び行うことになりました。鉛のコンタクトで目の保護をしながら治療を開始したところ効果が現れ、がんは縮小して消えてきました。放射線の影響で顔の皮膚が一時的にただれ、日常生活もつらかったと思いますが、それでもいつも素敵(すてき)な笑顔で前向きに立ち向かっておられます。私も全力で治療に当たりたいと思っています。

 がんは早期に発見し、早期に治療を行うことが大切です。もし頭に治りにくいけがの跡があれば、皮膚科専門医に相談することをお勧めします。

(岐阜大学医学部付属病院皮膚科臨床講師)