2020年のYJS笠松ラウンドで悔しい思いをした東川慎騎手(左)と深沢杏花騎手。今年は2年ぶりの挑戦となる

 地方、中央競馬の若手騎手たちが腕を競う「2022ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)」が今年もゲートオープン。笠松競馬から東川慎騎手(21)と深沢杏花騎手(20)が2年ぶり、長江慶悟騎手(22)は初めて参戦。「トライアルラウンドを突破し、ファイナルラウンドへ」と闘志を燃やしている。

 昨年、笠松競馬は一連の不祥事の影響で開催が8カ月間自粛され、東川騎手ら3人は他地区での騎乗もできなかった。不祥事は先輩たちが起こしたものだったが、その余波を受けた若手騎手への救済措置はなく、出場機会を失って悔しい思いをしてきた。

■笠松で短期騎乗の及川烈、関本玲花、田中洸多騎手が盛岡で熱戦

 トライアルラウンドでは地方、中央の若手騎手が東日本、西日本地区に分かれて、それぞれ4~6レースに騎乗。ポイント数(上位得点4レース分の合計点)で競い、地区ごとに地方、中央それぞれ上位4人の騎手が「予選突破」。計16人がファイナルラウンドに進出できる。

 東日本地区の第1戦が5日に盛岡でスタート。笠松への期間限定騎乗で武者修行中の及川烈騎手(18)=浦和=や、同じく笠松で短期騎乗した関本玲花騎手(22)=岩手=と田中洸多騎手(18)=大井=も参戦。それぞれ2戦ずつ、地方、中央の騎手たちと熱い戦いを繰り広げた。第1戦は永野猛蔵騎手(JRA)が制した。

YJS初勝利を飾り、スマイル全開の及川烈騎手=NAR(地方競馬全国協会)提供

■及川騎手「オレンジの烈風」差し切りV、地方騎手トップに

 第1戦で6着だった及川烈騎手は、第2戦で鮮やかな勝利を飾った。6番人気のラブリボーン(牝4歳)に騎乗し、中団6番手から追走。4コーナーで大外を回ると、最後の直線で力強く抜け出し、豪快な差し切りを決めた。及川騎手は2戦合計で38ポイントを挙げ、東日本地区・地方騎手のトップに立った。

 及川騎手「先生(工藤裕孝調教師)から『ひと脚は強いが、バテてしまうところがある』と聞き、うまく脚を使えればいいなと。前半は馬群が細くなってからいい所を取り、コーナーで息を入れてあげたら、直線でいい脚を使ってくれたので『マジか』と思いました。今回は『うれしい』以上の言葉が見つかりません。これでファイナルラウンドがちょっとだけ見えました」(岩手競馬)。

 笠松では6月から期間限定騎乗(~8月26日)。今年4月デビューし、南関東では1勝、3着1回だったが、笠松では騎乗機会が増えて1勝、2着6回、3着6回と馬券圏内に絡むレースがぐっと増えた。軽量を生かした逃げるレースは少なく、ほとんどが追い込みの競馬で波乱も呼んでいる。

岩手ラウンドに参戦し、ラブリボーンで豪快に差し切りVを決めた及川  騎手。逃げた関本玲花騎手が2着=NAR提供

 笠松での初勝利も最後方から豪快に差し切り。名前のように「レースでは猛烈に追い込みたいですね」と意欲を示していたが、盛岡2戦目は7枠、オレンジの勝負服で躍動。その名の通り「オレンジの烈風」といえる力強くて切れ味もあるレースでファンを魅了した。

 大きな1勝をつかみ取り、残すはトライアル最終戦となる地元・浦和(10月19日)での2戦。笠松で培った経験も生かして、ファイナル進出をゲットしたい。

■関本騎手は逃げて2着、ポイントは地方騎手2位

 一昨年、笠松で4勝(名古屋でも2勝)を挙げる活躍を見せた関本玲花騎手。YJS出場資格は「減量・見習騎手」(免許取得5年未満で100勝以下)が対象。関本騎手は地方通算83勝で、YJSは今回でラストになる可能性もある。盛岡第1戦は7着だったが、第2戦では芦毛馬・ファッベラに騎乗。逃げて踏ん張り、及川騎手のラブリボーンから2馬身半差の2着。ポイントは地方騎手で2位。出場3回目で初めてとなるファイナル進出を目指す。
 
 笠松で13勝を挙げた田中洸多騎手。コロナ禍の影響もあって3開催延長。厩舎の先輩だった渡辺竜也騎手から「重心移動による馬の動かし方」などを学び、コース慣れもあって徐々に好騎乗を見せた。
 
 盛岡での第1戦は11番人気で4着と好騎乗だったが、第2戦は2番人気で8着に終わり、ポイントは地方騎手5位。大井で2戦、川崎で1戦を残しており、南関東で巻き返したい。

■11月の笠松ラウンドでファイナリスト決定

 西日本地区は7月18日・高知で開幕。佐賀(8月4日)、金沢(8月16日)、園田(9月8日)、名古屋(10月27日)と続く。トライアル最終戦は11月2日に笠松競馬場で行われ、西日本地区のファイナリスト8人が決定する。

 ファイナルラウンドは12月16日に名古屋競馬場で、17日には中京競馬場で行われる。過去5回のシリーズでは地方騎手5人が優勝。2019年には岩手の岩本怜騎手が制覇した。

 笠松勢3人は、もちろん地元の笠松ラウンドで騎乗。このほか長江騎手が高知、東川騎手が佐賀、園田、深沢騎手は金沢で騎乗する。

18日、高知競馬場でYJSに初参戦する長江慶悟騎手

■初出場の長江騎手、18日・高知で先陣

 笠松勢最初のチャレンジャーは長江慶悟騎手。「 昨年自粛があったんで、初めてです。まず18日に高知で乗りますが、さすがにヤングジョッキーズは結果を求めますよ」と意欲。いい成績を残してファイナルに進出できれば、JRAの競馬場(中京)でも騎乗でき、全国デビューのチャンスでもある。初出場だし、力も入るだろうが、リラックスして挑んでほしい。

 プロ野球・ロッテの佐々木朗希投手に「よく似ている」と言われる長江騎手。球界の若きエースが完全試合を達成した年でもあり、高知での紹介では「笠松競馬所属の佐々木朗希です」でどうかと関係者の声も。それには長江騎手も「マジでそれでいいんですか」と笑顔。確かに髪も長くなって、前よりも似てきており、本気なら全国に顔をアピールできるチャンスにもなりそうだ。

 一昨年10月のデビュー以来、落馬事故で2度の大けがを負ったが、リハビリに励んでレースに復帰。開催自粛もあって騎乗数は少なく、逆風続きではあったが、今年は13勝、2着17回とまずまずの成績。思い切り良く、力強い騎乗を見せるようになった。リーディング2位の後藤佑耶厩舎所属で、今春にはオグリキャップの孫娘・レディアイコの攻め馬も務めた。

 レースぶりは、3コーナーから馬を動かして追い上げ、好勝負に持ち込むケースが増えており、安定感もアップしてきた。厩舎関係者にも徐々に信頼されるようになり、今後は有力馬にもっと騎乗できるのでは。7月1日の笠松10Rでは、直線で前の馬と接触しバランスを崩して落馬したが、けがなどはなかった。ヒヤリとしたが、元気いっぱい攻め馬にも励んでいる。「1開催、1勝はしたいですね。そうすれば1年で20勝以上はできるんで」と。ファンの応援を力にして、体力強化とともに騎乗技術を磨いていきたい。

2年ぶり、YJSに参戦する深沢杏花騎手。8月16日に金沢で騎乗する

■深沢騎手、全国のファンに成長した姿を

 成長著しい深沢杏花騎手。2年前に初出場したYJSでは佐賀、笠松で計4戦して5着が最高だった。騎乗馬に恵まれず、笠松ではともに10着に終わった。「後方を回ってきただけで、何もなかったです。また来年頑張ります」と前を向いた。それでも、地元の新人女性ジョッキーには厳しいことが続いた。先輩騎手らの不祥事では「報告を怠った」として、東川騎手とともに戒告処分を受け、昨年のYJSには参戦を許されなかった。今年は既に21勝。成長した姿を、ネットのライブ中継でも見守る全国の競馬ファンの前でアピールしたい。

 深沢騎手は金沢、笠松ラウンドで計4戦騎乗する。笠松では地元勢3人のほか、佐々木世麗騎手(兵庫)、岡遼太郎騎手(高知)、金山昇馬騎手(佐賀)が参戦。JRA勢(栗東)は永島まなみ騎手、小沢大仁騎手、角田大和騎手、鷲頭虎太騎手が出場する。女性ジョッキーは深沢、佐々木、永島騎手の3人がそろい、華麗な手綱さばきで火花を散らす。

 笠松では地の利を生かしたい深沢騎手。「ウマ娘シンデレラグレイ賞」を勝ったヤマニンカホンのような逃げ馬なら、結果はついてくる。馬群のさばき方も向上しており、あとは騎乗馬に恵まれれば上位進出が期待できる。

2年前、あと一歩でファイナル進出を逃した東川慎騎手。8月4日に佐賀で騎乗する

■東川騎手、ラストチャンスで夢のファイナリストへ闘志

 東川慎騎手は2度目の挑戦となる。今年23勝で通算87勝を挙げており、YJS挑戦は今年でラストになりそうだ。デビュー1年目(2019年)は、落馬事故による大けがで参戦できなかった。笠松ラウンドでは私服姿で、他の若手騎手たちのレースを見守るしかなく、地元で大きな悔しさを味わった。ラストチャンスの年で夢のファイナリストへ闘志を燃やしている

 初参戦となった2年前。11位で笠松ラウンドを迎えた東川騎手は1戦目3着、2戦目2着で上位騎手を猛追したが、惜しくも5位。ファイナル進出には、あと1ポイント届かなかった。「まあまた来年頑張りたいですね。(ファイナルで)JRAのコースで乗りたい」と意欲を見せていたが、昨年は出場できず。今年こそはファイナルに進出し、ユニークな表情やパフォーマンスでもファンにアピールしたい。
 
 東川騎手は7月16日放映のグリーンチャンネル「アタック地方競馬」に出演する(ユーチューブ配信もあり)。YJS西日本地方騎手の代表として、笠松競馬場内でインタビュー収録が行われ、レースへの意欲を語った。笠松では伏兵馬で勝って、高配当に絡むことも多い東川騎手。YJSでも大外からの得意の差し切りで、勝利を飾りたい。
 

寺島良厩舎のブラビオで初勝利を飾った今村聖奈騎手。CBC賞では重賞初騎乗初Vを飾り、YJSにも出場する=競馬ブック提供

■今村聖奈騎手(寺島良厩舎)が重賞初騎乗初V、高知からYJS参戦

 JRAの寺島良厩舎(栗東)所属の今村聖奈騎手(18)は7週連続V達成に続いて、小倉で行われたCBC賞では、テイエムスパーダに騎乗し、重賞初騎乗初Vの快挙。寺島厩舎に「大物ルーキー」が加入し、注目度が高まっている。前開催までに19勝を挙げており、女性では初めてとなる新人賞の有力候補。YJSにも参戦し高知、金沢、園田で騎乗する。笠松の3人とも各場で対戦し、金沢では深沢騎手とも腕を競う。

 寺島良調教師(41)=岐阜県北方町出身=と地元・笠松競馬はゆかりが深く、5年前の競馬場秋まつりでのチャリティーオークションに「キングズガード重賞V」記念キャップ を提供。県馬主会副会長の吉田勝利さんの持ち馬で、重賞馬のミスマンマミーアは寺島厩舎所属だった。昨年引退し繁殖入りしたが、今村騎手はトレセン研修の調教でミスマンマミーアにも騎乗。厩舎でもアイドル的存在の馬で、ファンだったそうだ。YJSでは笠松ラウンドでの騎乗はないが、JRA交流戦での笠松参戦を期待したい。                                 
 
 今年で6年目を迎えたYJS。ファイナルラウンドには、笠松勢では渡辺竜也騎手が2年連続で出場した(8位、9位)。名古屋勢では一昨年、細川智史騎手が総合3位になった。今年、西日本地区の地方騎手は19人が参戦予定で、ポイント上位4人がファイナリストになる。笠松の3人は思い切ったレースで騎乗馬を動かして「夢ステージ」へと駆け上がりたい。

■国枝栄調教師がJRA1000勝達成「ダービーを勝ちたい」

 GⅠで9勝を飾ったアーモンドアイを管理した国枝栄調教師(67)=岐阜県北方町出身=は7月2日の函館10R、管理するクライミングリリーで勝利を挙げ、JRA通算1000勝を達成した。史上15人目、現役調教師では最多の勝利数。福島競馬場内でレースを見届け、祝福を受けた。昨年末「やっぱり馬じゃないけど『無事』というのが一番ですよね」と話していたが、場内で花束贈呈があり、「丈夫な体に産んでくれた両親と、数々の失敗をしているのに我慢してくれた馬主さん、生産者、厩舎スタッフ、ファンの方々、家族など皆さまのおかげです」と感謝。

 今後の目標は「引退まで3年ちょっとなんで、フジさん(藤沢和雄元調教師)の通算勝利(1570勝)は難しいけど、ダービーを2勝すればフジさん(レイデオロで1勝)を追い抜けるかな」と笑み。思い出のレースはアーモンドアイでの18年・ジャパンカップでの最速V。残りの時間で、悲願である日本ダービー制覇を成し遂げてもらいたい。

オグリキャップの命日には、ファンらが馬碑などに多くの花束を供え、名馬の活躍をしのんだ=2016年7月

■オグリキャップ十三回忌、献花に「すごい馬だったんだなあ」

 オグリキャップは2010年、天国に旅立ったが、その波乱に満ちたストーリー性で「100年に1頭のスターホース」とも言われ、輝きを増し続けている。そんな名馬が育った笠松競馬場は、新たに聖地巡礼のウマ娘ファンの注目も集めるようにもなった。4月末の「ウマ娘シンデレラグレイ賞」当日のファンの熱狂ぶりは、すさまじかった。

 7月3日はオグリキャップの命日(十三回忌)だった。現役引退後、種牡馬生活を送り、約20年間を過ごした優駿スタリオンステーション(北海道新冠町)。メモリアルパークにはオグリキャップの等身大ブロンズ像や馬碑があり、訪れたファンらが花束を供えて、笠松から中央へと力強く駆け抜けた「魂の走り」をしのんだ。

 最後の産駒であるミンナノアイドルが繁殖馬生活を送っている佐藤牧場では「毎年たくさんのお花が供えられていて、いつもすごい馬だったんだなあと実感します。そんなオグリキャップの末っ子ミンナノアイドルはきょうも元気です」とツイッター上でコメントを寄せた。新たなオグリの孫を育てて、その血を受け継いでいくことに情熱を注ぎ続けている。

■長男のオグリワン、30歳5カ月で永眠

 一方、オグリキャップ最初の産駒である長男オグリワン(母ヤマタケダンサー)は5日、老衰のため永眠した。30歳だった。引退馬預託施設のスエトシ牧場(長野県佐久市)がツイッターで発表した。

 牧場に来て22年。JRA時代には、ききょうステークスで勝利を挙げ、皐月賞(16着)や日本ダービー(17着)にも出走した。地方に移籍し、名古屋所属で3勝、高知所属で2勝。笠松(1997年・ガーネット特別)でも走り7着だった。引退後はファン有志で結成された「オグリワンの会」がサポート。スエトシ牧場でのんびりと余生を過ごしていた。

 2月に30歳の誕生日を迎え、牧場では「餌もよく食べてるし、変わりなく元気ですよ。牧場は標高が約1000メートルと高くて、馬が長生きしています。あと1、2年は大丈夫でしょう」と話し、幸せな暮らしを続けていた。30歳での大往生で長寿を全うした。

優駿記念館内に並ぶオグリキャップ関連グッズや、お別れ会の芳名帳 

■優駿記念館が営業再開「オグリ、ありがとう」

 新型コロナの影響で閉館となっていた北海道の優駿記念館(メモリアルパーク内)は7月1日から営業を再開した(~11月6日、入場無料)。 

 館内では、オグリキャップが制覇した有馬記念や毎日王冠などの優勝レイや馬服、記念写真のほか、全国のファンから寄せられたメッセージなどを展示。オグリキャップお別れ会の芳名帳も並べられ、「オグリ、ありがとう。JRA最大の功労馬です」などと活躍をしのんでいる。            
 
 軽食メニューがそろうカフェもあり、現役時代のレース映像を見ながら食事をしたり、ぬいぐるみなどオグリキャップのオリジナルグッズを買い込んだことがある。一帯は約8キロにわたって牧場が連なる「サラブレッド銀座」で、優駿記念館は人気スポット。バスツアーの競馬ファンや観光客が多く訪れていた。

 笠松競馬場内のオグリキャップ像は、優駿メモリアルパークのブロンズ像より19年も前(1992年)に設置された。今月3日には新たな「絵馬掛け」が、オグリ像の後ろに常設された。笠松出身で有馬記念を2度も勝った日本一の出世馬。オグリキャップ像は、存続を後押しして復興につなげてきたパワースポットでもある。笠松競馬場としては、これからも「オグリキャップの聖地」として、多くの世代のファンに楽しんでもらえるよう新たな魅力を創出していきたい。