戦列に復帰した藤原幹生騎手。モアナグレイスで差し切り、初日に2勝を飾った(笠松競馬提供)

 「お帰りなさい、待ってました」。ファンの熱い思いを背中に受けて、藤原幹生騎手(41)が7月27日、笠松競馬場に戻ってきた。6月の落馬事故で肋骨数本を骨折する大けがを負ったが、くろゆり賞シリーズ(前半)初日から9鞍に騎乗。いきなり2勝を挙げる「鮮烈復帰」。2着2回、3着も2回と馬券圏内に6回も絡んだ。厩舎、ファンからの信頼も厚い頼もしい男が元気な姿を見せてくれた。

 愛称は「ミッキー」。人気・実力を備え、笠松競馬をけん引する名手だ。わずか9人に減った笠松のレギュラーではただ一人の東海ダービージョッキー(4年前にビップレイジングで制覇)。昨年9月のレース再開後には「地方競馬通算1000勝」を達成した。5月31日、浦和での「地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ」最終戦を圧勝し、準優勝を飾った。翌日には「最近は、けがも少ないです。それだけは気を付けてます」と話していた。

 ところが6月3日、笠松での2歳新馬戦のスタートで落馬負傷のアクシデント。肋骨を折る重傷で療養生活を続け、痛みを抱えながらも攻め馬を再開。事故から50日余りで戦列復帰を果たし、力強い手綱さばきで復活ゴールを飾った。

 復帰初日の4R、自厩舎のモアナグレイス(牝5歳、後藤正義厩舎)に騎乗。前走の大差しんがり負けが響いて、10頭立ての8番人気だったが、4コーナーから迫力ある追い込みで、2着馬に6馬身差の圧勝。「さすが藤原騎手」と実況アナをうならせる騎乗ぶりを見せた。

 7Rではロリポップ(牝4歳、笹野博司厩舎)で2番手から抜け出して、この日2勝目。けがを感じさせない力強い追いっぷりで、馬の走る気を引き出して、よく動かした。昨年の笠松所属騎手リーディングがしっかりと結果を出して、応援するファンを喜ばせ、復活を印象づけた。
 

「若いんで」と肋骨のけがから早期復帰を果たした藤原騎手

■鉄人ぶり発揮、「若いんで」と早期復帰

 復帰初日のレース後、藤原騎手は「まあ、ボチボチですね。いい馬に乗っていたんで、もっと勝てると良かったです。4勝だったらね」と振り返った。けがの具合については「徐々に良くなっているところです。診断では折れた肋骨は3本でした。多少まだ痛みますが」と話していたが、出るからには全力を尽くすだけだ。

 日頃から体をよく鍛えている藤原騎手。「頑丈だから、回復も早いのでは」とみていたが、早期復帰でやはり「鉄人ぶり」を発揮してくれた。関係者によると「すごく自分の体を気遣っていて、いつも0時30分には起きてウオーミングアップを行って、攻め馬に行きます。それが9時頃に終わってからは、プロテインのサプリや牛乳を飲んで、食事は2食分をしっかり食べて栄養補給。自分の体づくりにすごく頑張っている」とのことだった。

 昨秋のレース再開後も、土日には深夜までラーメン屋でバイトもしていて、徹夜で攻め馬に向かうこともあった。今回のけがで関係者からは「ギプスを巻いて、本当に骨休めやわ。そうすぐには復帰できないだろうけど」といった声も上がっていた。本人に「意外に早く復帰されて、すごいですね」と聞いてみると、「若いんで」と笑いながら、調整ルームへと消えていった。藤原騎手のスピード復帰で、今開催の笠松競馬は、ぐっと盛り上がり、好レースが目立った。

 浦和でのジョッキーズチャンピオンシップでは、優勝した岡部誠騎手に続いて、「全国地方騎手ナンバー2」の表彰も受けた。「いい刺激を受けてきたんで、また新鮮な気持ちでやれるし、ひたすら頑張るだけです」と意欲を示していた。復帰後2日目1Rでも7番人気馬をよく動かして勝利に導いた。まだまだ力不足の若手騎手たちの模範となり、豪快に差し切る力強い騎乗でファンのハートを熱くしてほしい。
 

トーアマリアンヌ(左から2頭目)で激戦を制し、地方競馬通算300勝を達成した森島貴之騎手

■森島貴之騎手、好騎乗で地方通算300勝達成

 森島貴之騎手(33)=水野善太厩舎=は7月27日の笠松8Rで「地方競馬通算300勝」を達成した。7番人気の伏兵トーアマリアンヌ(牝4歳、伊藤強一厩舎)に騎乗。 中団から追い上げ、ゴール前で深沢杏花騎手騎乗のテーオーエリザベスをかわし、大接戦を制した。12頭立てで、人気的には「無印」の馬だったが、早めに押し上げて4コーナーを2番手で回り、直線勝負に懸けた森島騎手の好騎乗が光った。3R、10Rでは有力馬で勝ちを逃しただけに、8Rは価値ある1勝になった。

 笠松生え抜きの森島騎手。4年間の鉄工所勤めから、乗馬経験もなかったのに、地方競馬教養センターの騎手免許に合格。2010年、膝の骨折でゲートインは3カ月遅れたが、7月に笠松競馬でデビュー。10月にエーシンファステムで初勝利を飾った。三重県出身で笠松の騎手ではただ一人の30代。「一鞍一鞍、一生懸命騎乗します」と地道にコツコツと努力を続け、レースでは最後まで諦めずに頑張ってきた。
 

森島騎手(左)の300勝達成を祝う関係者(笠松競馬提供)

 経営難の地方競馬を選ぶ騎手が少なかった時代に、笠松でデビュー。今年は既に31勝を挙げており、2017年の44勝を上回る50勝以上も十分可能だ。デビューして12年になる中堅で、初めてとなる重賞タイトルを目指して、さらなる活躍を期待したい。

 厩舎の師匠である水野善太調教師(58)は7月1日の笠松12R、管理するナロー(牝6歳)で地方競馬通算400勝を達成した。2004年にキッポータローで笠松オールカマーを制覇。ナローは出走時373キロで「小さな馬なのによく頑張ってくれました。思い出に残る馬は初勝利を飾ったマルカシード。5連勝してオープンまで昇級しました」と話し、節目の勝利を喜んでいた。

■山際孝幸調教師が勇退、ツルギベンサーで重賞5勝

 山際孝幸調教師(74)は7月31日付で勇退される。笠松一筋に43年間、名トレーナーとして活躍され、地方通算1161勝。調教師デビューの1974年4月29日、ナイキグロで初出走初勝利の快挙。2009年3月12日、パワーインパクトで地方競馬通算1000勝を達成した。

笠松競馬場での55年間に別れを告げ、勇退する山際孝幸調教師(左)。森島騎手騎乗のカナデソニックで、最後のレースを勝利で飾った(笠松競馬提供)

 主な重賞勝利はカネヤマサコンで岐阜銀賞(1980年)、ワールドガロンではアラブダービー、アラブ王冠(88年)を制覇した。ツルギベンサーでは坂口重政騎手とのコンビで重賞5勝を飾る活躍馬を育てた。勝ったレースは、ジュニアキング(2000年)、オグリオー記念(01年)、アラブチャンピオン賞(04年)、アラブスプリンターカップ(03、04年)。

■管理馬のラストランで鮮やかな勝利

 笠松競馬によると、山際調教師は北海道の高校を卒業後、騎手免許に一発合格(1968年)して笠松の騎手(大倉護厩舎)になった。乗り始めて数年で全国免許も取得したが、大けがをして騎手から調教師に転身した。「初出走初勝利のナイキグロは、歩様がゴトゴトしていていつも心配だったが、すんなりと勝った」という。厩舎の後輩だった坂口重政騎手の初勝利もこのレースで、弟子2人そろっての初勝利となった。印象に残っている馬はたくさんいて「ツルギペンサーはいい馬だったね」と、アラブの馬たちを中心に名馬を育て上げた。

 笠松競馬でのアラブのレースは2005年に廃止となり、ツルギペンサーは荒尾に移籍。通算37勝を挙げ、牝馬の現役最多勝アラブとなった。荒尾で引退後は熊本の農業高校馬術部で乗馬になったという。

 騎手、調教師として笠松競馬に携わって55年。最後のレースになったのが7月15日メインの11R「雲海特別」。管理するカナデソニック(牝3歳)には森島貴之騎手が騎乗。5番人気だったが、4番手から鮮やかに差し切って勝利を飾った。レース後には森島騎手と握手。装鞍所で多くのホースマンに囲まれ、管理馬のラストランでの勝利を祝った。笠松一筋、アラブの時代から長い間、本当にお疲れさまでした。

笠松での騎乗も増えている名古屋の細川智史騎手。船橋遠征の翌日、バトルフロントで勝利を飾った 

■細川智史騎手、ナムラムツゴローで習志野きらっと8着

 金沢の900メートル超短距離戦「日本海スプリント」を勝った名古屋のナムラムツゴロー(牡7歳、坂口義幸厩舎)。騎乗した細川智史騎手はうれしい重賞初Vを飾った。深沢杏花騎手と同期で、笠松での騎乗も多く今年6勝。

 細川騎手は7月26日、スーパースプリントファイナルの「習志野きらっとスプリント」(船橋)にナムラムツゴローで挑戦した。かつて笠松のラブミーチャンが3連覇を果たし「地方最速女王」に輝いたレース。笹川翼騎手騎乗の大井・ギシギシ(牡4歳)が豪脚で差し切りV。ナムラムツゴローは9番人気で8着に終わった。

  翌日、笠松の12Rを7番人気・バトルフロント(牡4歳、藤田正治厩舎)で勝った細川騎手。習志野きらっとスプリントでは「4コーナーから伸びてきたんですけど、直線に向かってフワーッと行って、馬が鼻血を出しちゃって」と残念がった。「金沢で勝って、この馬強いんです。あの競馬ができれば(習志野きらっとでも)5、6着はあるかなあと思っていましたが、他の馬のスピードが違って、みんな出てから速かったです。次元が違いました」と脱帽。全国重賞参戦は貴重な経験になった。

 レースはナイターだったため、そのまま馬運車で名古屋に戻り、笠松の1Rから参戦。6鞍に騎乗し、12Rでは後方から差し切り勝ちを決め「馬が強かったです」と笑顔だった。名古屋の名門で、全国リーディング3位(今年)の角田輝也厩舎に所属し、名古屋では27勝を挙げており、飛躍が期待されている。

復旧した清流ビジョン。生観戦とともに迫力あるレース映像が楽しめる

■「清流ビジョン」が復旧、迫力ある映像

 笠松競馬場内に設置されている大型の「清流ビジョン」が3週間ぶりに復旧した。電源系統のトラブルで6月28日から放映できない状態が続いていたが、部品を取り寄せて修理が完了。7月19日から通常通り放映可能となった。地方競馬場外発売日やJRA開催日にも放映され、スタンドから観戦するファンらの人気を集めている。

 くろゆり賞シリーズでも詰め掛けた笠松ファンが、生観戦とともにパドック解説や迫力あるレース映像を楽しんだ。勝負どころの3~4コーナーでのスリリングな攻防をはじめ、タイム、着順、払戻金などの表示があり、競馬場らしさが戻ってきた。

 清流ビジョンは、木曽川の清流をイメージして公募で決まった愛称である。サッカー・FC岐阜戦のパブリックビューイングで活用されたこともあった。関係者は「大型ビジョン」と呼ぶだけでなく、「清流の国ぎふ」もアピールする「清流ビジョン」と呼んで定着させ、幅広く活用してもらえるといい。

ファンに開放されている西スタンド1階の無料休憩所。コロナ禍で一時閉まっていたが、再び利用できるようにになった

■暑いよ笠松競馬場、開門時間は午前10時に

 夏競馬真っ盛り。木曽川河畔にあり、近くを名鉄電車が往来するのどかな笠松競馬場。くろゆり賞シリーズでは猛暑の中、午前10時半の開門を待ちきれないファン50人以上が正門前に詰め掛けた。「ウマ娘シンデレラグレイ賞」デーほどではないが、開門前に行列ができることは、うれしいことだ。それでも熱中症が心配されるこのシーズン。並んでいるファンからは「暑いから、もう入れようよ」と開門を求める声もあったそうだ。

 競馬組合としても、コロナ対策とともに熱中症対策には力を入れており、8月2日から開門時間を30分繰り上げて、午前10時にオープンすることにした。JRA発売日はこれまで通り9時開門だ。

 笠松競馬の1R発走は通常11時だが、6月には10時55分に発走する日もあった。このため、開門すぐに出走馬がパドックに出てきたりして、ファンが購入馬券を検討する時間があまりなかったりした。清流ビジョン復旧後も、小型モニターが設置してある西スタンド1階の無料休憩所は一般に開放。利用者の多くはオールドファンで、クーラーが稼働しているが、コロナ対策もあって、出入り口ドアはオープン。夏本番を迎え、来場するファンの皆さんは、水分補給などの猛暑対策を万全にして、レースを楽しんでいただきたい。

 7月31日には、東海ダービー2着のイイネイイネイイネ(渡辺竜也騎手)が金沢・MRO金賞で重賞初Vに挑む。次回笠松は、くろゆり賞シリーズ(後半)で11、12、15日の3日間。注目される重賞・くろゆり賞(11日)のほか、イベントも多くて大盛況となるシリーズ。昨年は開催できなかっただけに、今年はぜひ足を運んで、ライブ観戦や競馬場グルメなどを堪能していただきたい。