地方全国交流重賞のくろゆり賞を制覇したイイネイイネイイネ。地元勢6年ぶりⅤ、好騎乗の筒井勇介騎手が歓喜のガッツポーズ

 「イイネイイネイイネだ」。真夏の白昼、ドドーンと痛快な一撃。残り100メートルを切って4、5頭が横に並ぶ激戦を、地元馬がスルスルと馬群を割って制覇した。

 馬場改修が終わった笠松競馬場で2カ月ぶりのレース(夏季特別シリーズ)。兵庫、高知から1頭ずつ、名古屋3頭、笠松5頭が参戦した第54回くろゆり賞(SPⅠ、1600メートル、1着賞金600万円)は14日の炎天下、壮絶なバトルを繰り広げた。

 8番人気イイネイイネイイネ(牡6歳、田口輝彦厩舎)に騎乗した筒井勇介騎手が左手を上げて歓喜のガッツポーズ。「人馬ともに笠松勢」での地方全国交流重賞Ⅴは何と6年ぶり。5年前の騎手・調教師の馬券不正購入で、所属する人馬が激減。苦難の道を歩んできたが、公正競馬の確保、信頼回復に努めてきた。ホーム笠松での価値ある1勝で、詰め掛けた大勢の地元ファンを喜ばせた。

5頭が競り合い、大接戦となり、馬群をこじ開けて勝ったイイネイイネイイネ(6)

 ■こじ開けるように馬群を割ってグイッと一伸び

 紅一点のエイシンコソンテ(牝4歳、笹野博司厩舎)が逃げて、名古屋から兵庫に移籍した昨年覇者セイルオンセイラー(セン馬6歳、田中一巧厩舎)が吉原寛人騎手の手綱でぴったり2番手。イイネイイネイイネは5番手で3~4コーナーを回った。

 最後の直線は横一線の間で挟まれそうになったが、イイネイイネイイネは勝負根性を発揮。こじ開けるように馬群を割ってグイッと一伸び。最後は鮮やかな末脚で突き抜けてゴールイン。ガッツポーズに続いて「よく走ってくれた」と左手でポーンと一発、愛馬に感謝の思いを伝えた筒井騎手。「イイネイイネイイネが来たー」。各予想紙が無印だった伏兵馬Vにファンも驚きの声を上げた。

 2着セイルオンセイラーにクビ差先着。さらに半馬身差3着にはインから馬渕繁治騎手騎乗のグスタール(牡5歳、森山英雄厩舎)が食い込んだ。勝ちタイムは1分42秒2。くろゆり賞の笠松勢Vは6年前のストーミーワンダー以来。しのぎを削ったゴール前、6着まで0秒2差と大接戦。全国交流では珍しく地元馬参戦が多く、馬券を握りしめたファンが熱い声援を送った。イイネイイネイイネは重賞2勝目となった。

 3番人気の高知・サンライズグリット=井上瑛太騎手=は4着、名古屋のメルトはラスト3F最速で突っ込んだが5着。渡辺竜也騎手騎乗の4番人気キャッシュブリッツは3番手から伸びを欠き9着に終わった。単勝45.1倍の8番人気→1番人気→7番人気の決着。馬連1830円に対して馬単は11410円の万馬券。3連単は10万円超えと波乱を呼んだ。

くろゆり賞Vのイイネイイネイイネを囲んで喜びがはじけた関係者

 イイネイイネイイネは3年前の東海ダービー2着馬で渡辺騎手が騎乗した。ゴール前では猛然と追い込み、タニノタビトにアタマ差で敗れたが末脚がいい馬。東海重賞では2着5回3着3回と勝ち切れないレースが多かったが、全国重賞で眠っていた潜在能力を、蓄積されていたエネルギーを爆発させた。

 ■拍手と歓声「地元馬が勝ってすごいうれしかった」

 待っていたこの瞬間。笠松勢はここ2、3年の重賞で、名古屋や兵庫勢に優勝をさらわれ続け、ファンを嘆かせてきた。笠松での地方全国交流重賞は年間5レース。くろゆり賞のほか、オグリキャップ記念、笠松グランプリ、ラブミーチャン記念と昨年創設のブルーリボンマイルがある。南関東、北海道勢も加わり、やられっ放しだったが、地元厩舎の人馬一体での全国重賞制覇に、ウイナーズサークルでは地元ファンから「おめでとう」と拍手と歓声が沸き起こった。

 自厩舎コンビでの会心の勝利を飾った筒井騎手は「重賞になると地元馬が不利になる状況が続いていたので、地元馬が勝ってすごくうれしかった。この暑い中、状態を維持するのが大変で、世話をしている厩務員さんがすごい頑張ってくれたので、本当に感謝したい」と歓喜に浸った。

 道中のペースについては「位置取りが後ろになっちゃったが、馬の手応えが3~4コーナーで良かったので、もしかしたらと思いながら追った。(前で競り合う2頭の間を突き抜け)ここしかないという気持ちで、後は馬が頑張ってくれた。笠松を代表する馬に成長してくれたらうれしい」と期待を込め、ファンの声援に応えていた。アイドルグループ「SKE48」の太田彩夏さんがプレゼンターを務め、筒井騎手に花束を手渡した。

表彰式でプレゼンターの太田彩夏さんから花束を手渡された筒井勇介騎手

 ■「厩務員さんの腕ですね。勝負根性と底力があり、展開も向いた」

 イイネイイネイイネは一時、中央に移籍して3勝クラスで6戦。7着が最高だったが、笠松では筒井騎手とのコンビで堅実な走りを見せてきた。レース再開後も勝利を量産し、よく乗れている筒井騎手に最終レース後、喜びの声を聞いた。

 ―筒井さん、おめでとうございます。全国重賞Vで、今のお気持ちは。
 「久しぶりに勝ったんでね、やっぱりうれしいですよ」

 ―大きいレースですものね。展開的にはどうでしたか。
 「思い描いた展開とはちょっと違いましたが、じっとしていて何とかチャンスを窺う感じでした。最後、馬が狭い所に突っ込んでいってくれて、頑張って根性を出してくれました」

 ―いつの間にかゴールに来ていましたね。
「あとは厩務員さんの腕ですね。やっぱりこの夏ね、状態を維持するのは大変なんで、(輸送の暑さで7着に終わった)名古屋からよく持ち直させてくれたんで、厩務員さんの頑張りのおかげです」

 ―イイネイイネイイネは、復帰された筒井さんのお手馬となり、5勝目ですね。
 「そうですね。吉田勝利オーナーも乗せてくれるんでありがたいですね。良かったです、結果が出て。これまで重賞は1勝(金沢・MRO金賞)だけでしたが」

 ―単勝45倍でしたが、セイルオンセイラーをマークしての競馬でしたか。
 「その後ろにいればいいかなあと。1列目でも良かったですが、手応えはそこまで抜群ではなかった。コーナーは動きが悪いが、直線に入ったらいつも動いてくれるんで。ちょうどいい所が空いて、馬が最後頑張ってくれた。内々を通れたのも良かった」

「勝負根性を発揮してくれた馬に感謝」。ゼッケンを手に満面の笑みの筒井勇介騎手(左)と田口輝彦調教師

 ―笠松の馬はなかなか重賞を勝てなかった中で、ファンの期待も大きかったですね。東海ダービー2着馬ですし、底力がありますね。
 「良かったです。声援は聞こえました。勝って当然ではないですが、まあ実力馬ですね。底力がありますし、いろいろと展開も向きましたね。(勝ち切ろうと)強気で乗っていたら、多分駄目でしたが。ああやっていい感じでやっぱり流れが向いたのが良かったですね。そして馬が頑張ってくれて最後狭い所を突っ込んでくれました」

 イイネイイネイイネの勝負根性を何度もたたえた筒井騎手。「シルバーコレクター」を返上するゴールドの輝きを浴びて、最終日後には関係者で祝杯を上げたことだろう。

 ■田口調教師「えらい馬やよ。笠松の馬が勝ってうれしい」

 管理する田口輝彦調教師は「前走の名古屋(名港盃7着)のようなことはなく、掲示板はあると思っていた。手応えが良く、笠松ならもうちょっといい走りができると。吉原騎手のセイルオンセイラーが強く2、3番手でいいかと。その相手もあまり走れていなかった」。デビュー以来コンスタントに走っており「えらい馬やよこれ。笠松の馬が全国重賞を勝って良かったし、うれしかったわ」と晴れやかだった。

 一息入れて秋競馬へと向かう。ネット上のファンからは「父タイムパラドックスの競馬っぷりとかぶり、混戦に強い、しぶとい脚質がそっくり」とも。アンミツ、アンカツ兄弟が京都で重賞勝ちがある馬で、笠松とも縁が深い血統である。イイネイイネイイネは全国重賞を制覇したことで能力の高さを証明できた。各地の地方重賞やダートグレード競走での活躍も今後期待できる走りを見せてくれた。

岐阜金賞を8馬身差で制覇した友森翔太郎騎手騎乗のサンヨウスフィーダ

 ■岐阜金賞は名古屋のサンヨウスフィーダ8馬身差圧勝

 東海地区交流の第49回岐阜金賞(SPⅠ、1900メートル、1着賞金1000万円)は3歳馬東海3冠ロード最後の1冠。友森翔太郎騎手が騎乗した名古屋の7番人気伏兵のサンヨウスフィーダ(牝3歳、原口次夫厩舎)が好位から最後の直線で突き抜け、2着エバーシンス(牝3歳、角田輝也厩舎)に8馬身差をつけて圧勝した。サンヨウスフィーダは重賞初勝利。3着には高木健騎手騎乗、笠松のマルヨハルキ(牡3歳、柴田高志厩舎)が食い込んだ。

岐阜金賞Vのサンヨウスフィーダと喜びを分かち合う関係者

 友森騎手は重賞18勝目となったが、このうち笠松で12勝とコースを得意としている。「馬が非常に落ち着いてい全能力発揮してくれたおかげです。折り合い重視でレースを運んで手応え十分。3~4コーナーを回って勝てるなという思いで乗っていた。まだまだ伸びしろのある馬」とさらなる成長に手応えを感じていた。

笠松所属デビュー戦でパドックを周回するアオラキ

 ■アオラキ笠松所属デビュー戦6着、ラチ沿いにはファンびっしり

 再開2日目、重賞開催日の谷間に注目を浴びたのは笠松で転入初戦を迎えた白毛アイドルホースのアオラキ(牡5歳、笹野博司厩舎)。8R、装鞍所から馬道を通ってパドックに姿を見せると、ラチ沿いではカメラやスマホを手にした若者らの熱視線を浴びた。

 笠松競馬場では転入前の名古屋時代、A級などで2勝を飾っている相性の良いコース。東海公営、全国レベルの活躍馬不在の笠松競馬場では今や、最もお客さんを呼び込めるスターホースとして盛り上げ。若者らのにぎわいを創出し、馬券販売にも貢献してくれそうだ。ファンは魅力を感じる「推し馬」を追い掛けて競馬場に足を運んでくれる。

ラチ沿いではアオラキファンが熱い視線を送った
次のレースではラチ沿いのファンの姿は激減。アオラキ人気を実感させられた

 アオラキには全国勝率トップを今年も快走している渡辺竜也騎手が騎乗。1400メートル戦で、好位3番手につける積極策で3~4コーナーへ。過去2勝は向正面からのロングスパートで押し切った。この日はそれが不発で伸びを欠いた。ゴールでは6着と不完全燃焼に終わったが、まずは無事に走り終えてくれて、ファンは一安心。

 昨春にはハルオーブとともにファンの人気を集め、笠松で直接対決も実現した。ハルオーブは笠松転入から岩手に移籍し、3勝を飾ってJRA復帰を果たした。アオラキも中央復帰条件の3勝クリアを目指している。

3番手から6着に終わったが、健闘した白毛の人気馬アオラキ

 ■渡辺騎手「頑張ってくれたし、お客さん多くて良かった」

 調教もまずまずだった。馬体重はプラス17キロと重めだが、猛暑の中でも食欲は旺盛ということだ。2番人気に推されたが、軽快な末脚は不発。逃げたホーリーホック(牝5歳、田口輝彦厩舎)があっさりと勝った。

 アオラキにとっては新しい厩舎での環境に早く慣れ、改修された馬場でのフットワークを強化することが第一。勝ったレースでは父ゴールドシップ譲りの豪脚を発揮しており、展開次第では一発ありそうなタイプ。

 レースを終えた渡辺騎手は「(3番手の好位につけて)後ろからでは厳しいから、いいポジションにつけました。手応えは悪くなかったが、向正面でまくられた時に仕掛けても反応できなかった。でもまあまあ頑張ってくれましたし、お客さんも多くて良かったです」と振り返り、エースジョッキーとしてある程度、手応えも感じた様子。

アオラキに騎乗し、パドックから返し馬に向かう渡辺竜也騎手

 3勝目を挙げれば中央に戻るかもしれないが「馬主さんもそれをお望みなんで、精いっぱい騎乗したい」と次の一戦での巻き返しに意欲を見せていた。3番手につけた展開に、渡辺騎手の勝ちパターンかと思わせてくれ、この暑さの中で見せ場もつくってくれた。まずは順調に使えることが第一で、次走は一歩前進した走りが期待できそうだ。

 ■来場者、馬券販売ともに前年比増

 場内ではサマーイベントもにぎやかに開かれ、親子連れでの入場も多かった。最新刊「オグリの里4挑戦編」の即売会では「ウマ娘シンデレラグレイ推しキャラ」の人気投票も行った。アニメ化もあって、お子さんの投票も多くあった。

 来場者は3日目に3618人、4日間では1万1864人で前年比56%増。馬券販売は初日に8億7900万円、4日間で25億8100万円。前年比18%増と好調だった。次回開催は8月26日から4日間。28日に撫子争覇(SPⅢ)が行われる。昭和の時代のキャッチフレーズ「走るドラマ笠松競馬」再び、熱いレースでファンを沸かせてほしい。


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 ☆最新刊「オグリの里4挑戦編」も好評発売中

 「1聖地編」「2新風編」「3熱狂編」に続く第4弾「挑戦編」では、笠松の人馬の全国、中央、海外への挑戦を追った。巻頭で「シンデレラグレイ賞でウマ娘ファン感激」、続いて「地方馬の中央初Vは、笠松の馬だった」を特集。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、196ページ、1500円(税込み)。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー(ネットショップ)、酒の浪漫亭(同)、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも。