YJS金沢ラウンドに参戦し、8Rでパドックを周回する深沢杏花騎手

 豪雨で視界不良、水が浮いた金沢競馬場の難コースで、地方、中央の若手ジョッキー12人が「競馬甲子園」のような熱闘をエネルギッシュに繰り広げた。

 「2022ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)」のトライアル金沢ラウンドに、笠松競馬から深沢杏花騎手(20)が参戦。騎乗馬に恵まれず、2戦ともブービー人気馬での挑戦となったが、2戦目で4着に突っ込む健闘を見せた。

 金沢ラウンドへの笠松勢参戦は3年ぶり。一昨年がコロナ禍で初戦・金沢は開催中止。昨年は笠松の不祥事で深沢騎手、東川慎騎手、長江慶悟騎手の3人とも参戦できず、悔しい思いをした。

 ■「昨年悔しい思いをした分、精いっぱい」

 金沢地方は猛暑日なのに悪天候。3R前には豪雨と強風でコースが全く見えないほどで、発走を一時見合わせ。コロナ禍の影響で、騎手紹介式は行われず、ビデオ映像で一人ずつ紹介。女性ジョッキーは3人で、深沢騎手をはじめ、浜尚美騎手(21)=高知=、今村聖奈騎手(18)=栗東=も上位進出を目指し躍動した。

第2戦、パドック前に整列したYJS参戦の若手騎手たち

 前日、深沢騎手は笠松で「2頭ともちょっと厳しいと先生(田口輝彦調教師)に言われていますが、まあ頑張ります」と話していたが、ビデオ映像では「去年はYJSに出場できず、悔しい思いをした分、精いっぱい頑張ります」と意気込み。名古屋から参戦した細川智史騎手(23)は「日本海スプリントで重賞制覇をさせていただいた金沢競馬場で結果を出したい」、浜騎手は「1鞍1鞍、全力で一生懸命乗ってファイナルに進出を」、今村騎手も「金沢で初勝利できるよう頑張ります」と闘志満々だった。

 ■1戦目は出遅れて、人気通りの11着

 1戦目の6R(C1特別、1400メートル)、深沢騎手はコハクノユメ(牡7歳)に騎乗。馬体重はメンバー中で最も重い529キロの大型馬。暑い夏場は厳しいようで、パドック周回での歩様も物足りず。11番人気でもあり、苦戦が予想された。スタートでやや出遅れ。最後方からの追走となり、4コーナーを回っても後ろには浜騎手ただ一人で、そのままゴールとなった。

雨中での厳しいレースとなったYJS第1戦。11着、12着に終わってほろ苦さを味わいながら、検量室に戻る深沢杏花騎手(右)と浜尚美騎手

 雨の中、寄り添うようにして検量室に戻ってきた深沢騎手と浜騎手。お互いほろ苦いゴールとなったが、力量差のあるメンバー構成で、どうしようもなかったようだ。1番人気・シルバークラス(牝5歳)に騎乗した今村騎手は2番手から前を追ったが、伸び切れず4着に終わった。

 勝ったのは3番人気のハクサンフラワー(牝6歳)騎乗の兵庫・長尾翼玖(たすく)騎手(20)。スタート良く、逃げ切りVを飾った。

 ■ただ一人、2戦とも2桁人気馬に騎乗

 2戦目の8R(B1特別、1500メートル)は1頭取り消して11頭立て。深沢騎手には有力馬が当たらず、10番人気馬での騎乗。ジョッキー戦では、やはりくじ運の差は大きく、深沢騎手は出場12人のうちではただ一人、2戦とも2桁人気馬(予想紙もほぼ無印)での厳しい戦いとなった。

8Rのゴール前。(左から)4着に食い込んだ深沢騎手、3着に粘った細川智史騎手、5着に追い上げた今村聖奈騎手

 騎乗馬はキングカメハメハ産駒のマイネルチェスト(牡5歳)。ここ2戦は1着、3着で「チャンスもあるのでは」とみていたが、4番枠から好スタート。中団やや後ろにつけて追走。3~4コーナーで一気に前との差を詰めて、4番手に押し上げた。先行したムーンランディング(牝4歳)騎乗の細川騎手が3着に粘り込み、深沢騎手は4着でゴールした。勝ったのは、17歳の中山蓮王(れお)騎手(佐賀)騎乗の5番人気・サウスブルーグラス。3番手から差し切りVを決めた。

 ■田口先生の助言通り追い上げ、10番人気で4着

 競馬専門紙も「混戦難解」という8R。深沢騎手は「騎乗馬のレース映像をいっぱい見て、どんな馬なのかなあというのを頭に入れて、馬の癖なども聞いて乗りました」と返し馬などで気合を注入。ラスト3Fが38秒4で、メンバー中2番目の好タイム。検量室前では取材陣から「人気の割には上位に持ってきた」という声も上がった。
  
 4着という成績については「初戦が良くない結果だったんで、4着を取れて良かったです。田口先生から『多分、差しが決まる馬。ペースが速くなるんで、無理して前に付いていかずに、中団につけて最後に一脚使う競馬がいい。3~4コーナーの内はそんなに深くないはず。3コーナーは内を通って、4コーナーから直線で外に出す競馬をしよう』とアドバイスをもらっていました。その通りに乗ったら、最後にいい感じで伸びてくれて、4着に上がってこれました」と不良馬場での激戦を振り返り、笑顔だった。 
 

第2戦では4着と健闘し、笑顔で戻る深沢騎手

 さすが師匠の田口調教師。金沢のこともよく知っている。最近、吉田勝利オーナーの馬(MRO金賞Vのイイネイイネイイネなど)が金沢を行き来するから、馬場傾向も分かっているようで、深沢騎手の好騎乗につながった。

 ■笠松ラウンドで「頑張ります」、浜尚美騎手とツーショットも

 深沢騎手にとって、残るはファイナリストが決定する笠松ラウンド(11月2日)での2戦のみ。「まだ先なんですけど、自分が所属する競馬場なんで、頑張ります」と意欲。今年の笠松ラウンドは、近走不振馬ばかりを集めた「C級サバイバル」でやる案も浮上。いつもは最終レースで行われるが、前倒しで実施。高配当も期待できる人気レースだが、前5走4着以下続きの馬ばかりで、若手騎手たちはどう乗りこなすのか。ファイナルラウンド進出を懸けた「騎手サバイバル」のレースにもなりそうだ。

 YJSは、地方教養センターで一緒に学んだ同期らとの再会の場でもある。金沢ラウンドを終えた深沢騎手は「普段は会えない先輩や後輩と会えて話ができて楽しいですね。今回、同期が3人(魚住騎手と細川騎手)でしたし」とにっこり。

金沢ラウンドで全力を尽くし、ホッと一息。スマイル全開の深沢騎手(左)と浜騎手

 2戦目7着だった浜尚美騎手は「3コーナーで狭くなって控えちゃったんで、行き脚がついた時に流していけばよかったです」と悔しそうだった。深沢騎手は1年先輩の浜騎手とすごく仲がいい感じで、貴重なツーショットでスマイル全開。笠松には3年前のYJSで参戦した浜騎手。当時、深沢騎手はまだ候補生として実習の身だったが、お互い着実に成長している。

 浜騎手は今年2月、名古屋でのレディスジョッキーズでシリーズ総合Vを決めた。「ヤングと違って、レディスは女子だけなんで、メラメラと燃える感じがあって」と対戦を楽しみにしている。今年のYJS笠松ラウンドには出場しないが、「笠松にも、めっちゃ行きたいです」と参戦に意欲。深沢騎手もYJS以上にレディスを楽しみにしており、浜騎手とは「一緒においしいご飯を食べて帰りましょう」と競馬場を後にして金沢グルメを堪能したようだ。            
 

得意の金沢コースで先行して3着に粘り込んだが、悔しそうだった細川騎手

 ■笠松準レギュラーの細川智史騎手、先行し3着に踏ん張った

 名古屋の細川智史騎手は笠松への参戦も多く、準レギュラーとして今年6勝を挙げている。ナムラムツゴローで重賞初V(日本海スプリント)を果たし、相性の良い金沢での1戦目は、12番人気馬で7着。「終始追いっ放しでした。若手騎手同士の戦いで、うれしかったです。このレースは『フェイント』なんで、次のレースに期待してください」と上昇志向。第2戦は3番人気馬で先行し、3着によく踏ん張った。
 
 「馬群に入れずに前へ前へと。ペースは速くて対応が遅れて悔しいです。もうちょっと気持ち良く逃がせれば」と残念がった。それでも「頑張ったね。また笠松に来てね」と声を掛けると、「ハイッ」と元気な声が返ってきた。細川騎手は2年前、YJSファイナルラウンドに進出し、総合3位の表彰を受けたことがある。名古屋ラウンドでは浅野皓大騎手(羽島市出身)とともに、弥富の新競馬場で1着ゴールを目指したい。

 ■金沢勢の魚住謙心騎手トップ、兼子千央騎手2位

 トライアルラウンドは前半戦が終了。地方競馬西日本地区(19人)の暫定順位(4位までファイナル進出)は、金沢勢の魚住謙心騎手がトップで兼子千央騎手が2位。佐賀勢の中山蓮王騎手、加茂飛翔騎手が3位、4位につけている。笠松勢はまだ2戦を終えた段階だが、長江慶悟騎手が10位、深沢騎手が11位、東川慎騎手は14位。最終笠松ラウンドで上位進出を目指す。東川騎手は園田ラウンド(9月8日)にも1戦だけ騎乗する。名古屋勢は細川騎手が8位、浅野騎手は18位。

 東日本地区では、笠松で期間限定騎乗を行っている及川烈騎手(浦和)が依然としてトップに立っている。地方通算89勝の関本玲花騎手(岩手)は4位で、ファイナル初進出を目指している。
         

パドックを周回するJRA・寺島良厩舎所属の今村騎手

 ■今村聖奈騎手は4着、5着で総合5位に浮上

 師匠が寺島良調教師(岐阜県北方町出身)という今村聖奈騎手は1戦目4着、2戦目5着で金沢初Vには届かなかったが、JRA西日本では総合5位に浮上した。CBC賞では重賞初騎乗初Vを飾り、女性ジョッキーの先輩である藤田菜七子騎手を上回る勢いで注目度がアップ。この日の9R・JRA交流戦「能登巌門賞」では2番人気・イーストリバーで追い上げたが3着。JRAのGⅠ騎乗条件である「通算31勝目」の達成はお預けとなった。「すごい悪天候の中で、パドックでも声を掛けて応援していただき、ありがたいです」と感謝。小倉競馬で31勝目を狙う。
 
 笠松ラウンドには女性騎手3人が出場を予定。通算117勝の佐々木世麗騎手(兵庫)、今年JRA8勝の古川奈穂騎手(栗東)が参戦し、深沢騎手との追い比べも注目される。

 

笠松競馬夏祭りのイベント。家族連れでにぎわった移動動物園

 ■名古屋の騎手10人がコロナ感染、笠松勢「助っ人」に

 8月4日以降、名古屋の騎手計10人が新型コロナウイルスに感染していたことが判明。お盆開催の笠松競馬で、名古屋の騎手らの騎乗変更が相次いだ。笠松では2月にコロナ感染のクラスター発生で、1開催が取りやめになった。8月16~19日の名古屋開催では、笠松からの「助っ人」も目立ち、渡辺竜也騎手が5勝を挙げて活躍。東海公営としての相互サポートは大切で、名古屋、笠松の2場があることは、騎手のやりくりの面でありがたいことだ。

 15日の笠松開催では夏祭りイベント「移動動物園がやってくる!」が開かれ、家族連れらでにぎわった。コロナ禍や不祥事で自粛続きだったが、「動物たちとなかよく遊ぼう」と東門近くでふれあいの広場が復活。ヤギ、ヒツジ、ウサギ、アイガモなどいっぱいで、餌を手にした子どもたちは、かわいい動物たちと楽しいひとときを過ごしていた。

地方通算300勝達成セレモニーで祝福を受け、笑顔の森島貴之騎手(中央)

 ■森島貴之騎手、300勝達成セレモニーで笑顔

 この日は森島貴之騎手の地方通算300勝達成セレモニーも開かれた。「関係者の方に良い馬に乗せていただいて、本当に感謝の気持ちです。騎手が少ないので、1年通して、けがなくフルに騎乗できるよう頑張りたいです」と意欲。同じ勝負服姿の渡辺騎手のほか、「祝300勝」のプラカードを掲げた松本一心騎手候補生も参加。「(隠れていた)顔が見えるように」というファンの声に応じると、引き締まった表情だった森島騎手も松本候補生の方を向いてにっこり。笠松競馬が経営難に苦しんでいた2010年に生え抜きジョッキーとしてデビューして12年。中堅として飛躍を期す森島騎手に、ファンから祝福の温かい拍手が送られていた。

 ■25日に岐阜金賞、タニノタビトの3冠阻むかイイネイイネイイネ

 8月25日には、笠松で注目の3歳重賞「岐阜金賞」が行われる。駿蹄賞と東海ダービーを制覇した名古屋・タニノタビトが史上5頭目となる「東海3冠馬」を目指して参戦。金沢MRO金賞で重賞初Vを飾った笠松・イイネイイネイイネが迎え撃つ。タニノタビトには3冠レースで2戦とも2着に敗れているが、主戦の渡辺竜也騎手は「地元・笠松では負けられない」と必勝態勢だ。

 放牧から帰厩したタニノタビトは夏負けなどがなければ、向正面から3冠ロードへ一直線。4コーナーを回って追撃するイイネイイネイイネの末脚が勝るか。名古屋・けやき杯を勝って5連勝中のコンビーノも参戦予定で、興味深い一戦となる。笠松生え抜き馬でクイーンCを勝ったドミニクは、園田での西日本ダービー(9月15日)挑戦も視野に入っているという。

 「3歳秋のチャンピオンシップ」シリーズでもある岐阜金賞と西日本ダービー。勝てば盛岡・ダービーグランプリ(10月2日)挑戦も有力になる。笠松ファンの大きな夢は、イイネイイネイイネとドミニクがそれぞれ勝利を飾って、ダービーグランプリでの「頂上決戦」が実現することだろう。