鵜飼シーズン中の岐阜市の長良川で、自主規制が求められている区域を走る水上バイクが2日続けて目撃された。「車なら危険運転のように見える」。無料通信アプリLINE(ライン)で読者とつながる岐阜新聞の「あなた発!トクダネ取材班」に、岐阜市に住む人からこんなメッセージと映像が寄せられた。記者が現地を調べると、規制のルールが十分守られていない現状があった。

 

 投稿したのは、市内の40代の女性。撮影した場所は長良橋と鵜飼い大橋の間で、夜には長良川鵜飼の鵜舟が一列に並ぶ「総がらみ」が展開されるあたり。8月15日午後3時ごろの様子という。上流側から進んできた黒っぽい水上バイクが、川中で100メートルほど蛇行運転を行った後、上流側へ戻っていく姿が映っていた。

女性が提供した動画の一コマ。夜には長良川鵜飼が行われる場所だ

 わずか数十メートルほど先には、川遊びをする家族連れら十数人も映っている。女性は大きなエンジン音を聞いて川にカメラを向けたという。「水浴びをしている人もいて『危ないな』と思った。鵜飼への影響も心配だ。長良川での使用に制限はないのだろうか」と書き込んだ。

 動画の区域での使用は違法ではないが、国が自主規制を求めているエリアだ。規制の対象区域は、長良橋から上流約2・1キロの鵜飼い大橋まで。川岸で遊ぶ人の安全と、鵜飼が行われる川の環境を守るためなどとして、国と県などでつくる「長良川水上オートバイ等通航対策協議会」が2001年にルールを定めた。

記者が実際に遭遇した水上バイク=岐阜市、長良橋周辺

 投稿をもらった翌日の16日、記者が現地を確認しに行くと、長良橋付近で水上バイクに遭遇した。2人乗りしたオレンジ色の船体が上流側からやってきて、橋の近くでUターン。高い波が河原まで届き、小さな水しぶきを上げていた。動画に映っていた水上バイクとは異なるように見えるが、運転者が別の人かはわからない。この場所の自主規制はあくまで国が求める「お願い」にとどまり、罰則は設けられていない。

 川沿いを進むと、他にも規制が守られていない現場に出合った。鵜飼大橋から上流へおよそ3キロ、千鳥橋近くの様子だ。この場所では国ではなく県が水上バイクの使用を禁止しており、規制は河川法に基づく。違反すれば20万円以下の罰金を科される可能性がある。

通ってはいけない右岸側を走る水上バイク=岐阜市、千鳥橋近く

 周辺では3、4台の水上バイクが見られ、一部は河原が近い右岸側を通って下流へと消えていった。浮き輪で遊ぶ子どもやカヌーに乗る人も近くにいた。子ども2人が乗った浮き具を引っ張り、右岸側の橋脚の周囲を回る船体もあった。振り回すような形になった浮き具は橋脚のぎりぎりを通っていた。

千鳥橋近くの水上バイクの通航規則。右岸側は川遊びやバーベキューを楽しむ人が多い(岐阜県提供)

 バーベキューや川遊びに適した河原の広がる右岸側は、原則として通ってはいけない。左岸から20メートルの帯状の範囲のみ、速度を抑えて進むことが認められている。運転者に話を聞こうとしたがすぐに走り去ってしまい、取材はかなわなかった。

 岐阜県内の河川では、水上バイクが絡む悲惨な事故がたびたび発生してきた。2016年6月、羽島市の木曽川の「馬飼ビーチ」で、家族4人がはねられ10歳と3歳の男児が亡くなった。18年には岐阜市内の長良川で、水上バイクで引っ張る浮き具につかまっていた男女2人が消波ブロックに激突。30代の女性が死亡し、20代の男性が重傷を負った。

長良橋から藍川橋までの水上バイクの運航ルールを示す図。危険性などによって細かく決められている(岐阜県提供)

 河川の利用は原則として自由だ。過去に重大な事故が起きた場所や、川沿いに人が多い場所などに限り、河川管理者や関係団体でつくる協議会が話し合って規制を設けている。図のAは過去の事故から特に危険な場所とされ、河川法に基づき通航が原則禁止だ。長良川鵜飼が行われるBは終日、Cは夜間と朝方のみ、通航しないよう自主規制が求められている。

千鳥橋に県が設置した規制標識。「事故多し」の文字も見える

 岐阜県警のまとめによると、県内では19年以降水上バイクの事故は確認されていない。無事故が続きながらも「ルール違反」は複数見つかった現状に、県河川課の担当者は「水上バイクの事故は命に関わる重大なものになる恐れが高い。禁止区域などのルールを必ず守り、安全に配慮して乗って」と呼びかける。