皮膚科医 清島真理子氏

 円形脱毛症の患者数は人口の2%、国内では200万人に及ぶといわれています。どの年代にも発症しますが、20代、30代に多く、また25%は15歳以下です。髪の毛が円形か楕円(だえん)形に抜け落ちてしまう皮膚疾患ですが、十円玉くらいの脱毛が1カ所のみの場合から、数カ所の場合、そして頭全体に及ぶ場合や、眉毛やまつ毛も抜けてしまう場合まで、程度はさまざまです。単発の脱毛症の80%は1年以内に治りますが、5%は多発型に進行していくという統計があります。多発型では完治までに半年から2年くらいかかるといわれています。

 円形脱毛症は「精神的なストレスが原因」とよくいわれます。確かにストレスで交感神経が活発に働くと血管が収縮し、頭皮の血流が悪くなるために脱毛するという説は昔からあります。しかし精神的ストレスを全く感じてない円形脱毛症の患者さんも多数いらっしゃることもあり、ストレスだけが原因ではないと考えられています。

 円形脱毛症の病因について、最近の考え方を紹介しましょう。毛は、ある程度の長さまで成長すると自然に抜け落ちて生え変わります。つまり「成長期」「退行期」「休止期」という「毛の周期」があります。成長期は毛がどんどん伸びていく大切な時期で、毛根は過剰な免疫反応が起こらないよう守られています。ところが何らかの誘因で毛根が攻撃され破壊されると毛が抜けます。これが円形脱毛症です。その誘因はさまざまで、感染症、栄養障害、薬剤、極度の疲労などが挙げられています。

 治療には塗り薬、飲み薬、脱毛部への紫外線治療や局所注射、点滴療法などがあります。最近「オルミエント」という飲み薬が重症の円形脱毛症に使用できるようになりました。JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬の一つで、免疫の働きを抑える作用があり、既に関節リウマチやアトピー性皮膚炎でも使われています。ほぼ全脱毛の患者さんがこの薬を9カ月間飲んだところ、45%の患者さんで頭の80%以上に毛が生えたというデータがあります。6カ月以上にわたって頭の50%以上の範囲で脱毛のある円形脱毛症の人で使用できますが、治療前に採血などの検査が必要です。

 円形脱毛症では髪の毛を失うことによる悩みだけでなく、周囲の人から「ストレスに弱い人」「命に関わる病気でもないのに」などというイメージで見られるつらさが加わって、悩み苦しまれている患者さんがたくさんいらっしゃいます。特に子どもでは学校でのいじめなどによってつらい思いをしていることがあります。家族、学校、職場など、周りの理解と温かい目が大切です。

 円形脱毛症の治療は効果が現れて完治するまでに時間が必要です。一度治っても再発することもあります。主治医の先生との信頼関係の下で前向きに粘り強く治療を続けてほしいと思います。毛髪の治療だけでなく、ウィッグ(かつら)、スカルプケアやメンタルケアも含めて皮膚科専門医にご相談ください。

(岐阜大学名誉教授、朝日大学病院皮膚科教授)