公正競馬に努め、クリーンでエキサイティングなレースが楽しめる笠松競馬場

 「クリーン度100%」でよりエキサイティングなレースになった。騎手、調教師らの馬券不正購入など一連の不祥事で、所属騎手は9人に半減した笠松競馬。再開後は関係者の踏ん張りと底力、見捨てずに応援してくれる多くのファンに支えられて「再生への道」を力強く歩んでいる。

 昨年9月8日にレースが再開されてから、ちょうど1年。関係者は再発防止に努め、全力で復興に取り組んでいるが、真の信頼回復にはまだ時間がかかりそうだ。光を求めて長いトンネルを抜けて、立ち上がった現場のホースマンたち。ウマ娘人気によるオグリキャップ聖地への巡礼、コラボレースの開催では新たなファンも開拓できた。「ネットで馬券が売れればいい」というだけでなく、より公正で信頼され、より魅力にあふれた競馬場になるためには、さらに何が必要なのか。現状の問題点や求められる新たなファンサービスを探ってみた。
 

昨年9月、8カ月ぶりにレースを再開した笠松競馬。関係者一丸となって競馬場再生に取り組む決意を示した

 ■「黒いカネ」に群がり、大きくイメージダウン

 令和の時代、コロナ禍とともに笠松競馬も無観客開催となった。「紙の馬券」が買えなくなり、ネット馬券の通信履歴から、暗躍していた騎手ら馬券購入グループの不正があぶり出された。

 この2年余り、笠松競馬はまさに激動期。2020年6月、警察の家宅捜索を受けて騎手、調教師らによる「馬券不正購入事件」が発覚。昨年1月には「巨額所得隠し」の追い打ちもあって、レースは約8カ月間の開催自粛に追い込まれた。

 現場のリーディング経験者らが「黒いカネ」に群がり、ファンを裏切った。「騎手自身が、騎乗したレースの馬券を買っていた」という悪質行為は、消すことはできない。イメージダウンは大きく、「笠松の馬券はもう買わない」という厳しい声も根強くある。

 一連の事件では騎手8人、調教師5人が引退。主催者である岐阜県地方競馬組合は「公正競馬の実施、信頼回復」に一丸となって取り組み、「新生・笠松競馬」をアピールしているが、半減した騎手ら現場の負担は重く、所属馬は減って、連続4日間開催では6、7頭立ても目立った。レース運営は厳しく、名古屋や期間限定の騎手たちのサポートを受けながら、何とかやりくりしているのが現状だ。

毎朝1人30頭前後の攻め馬に励んでいる騎手たち

 ■起爆剤はスターホースの出現、ラブミーチャンのような強い馬づくりを

 この1年、コロナ感染のクラスターで1開催が中止になったが、大きな不祥事はなかった。騎手たちは午前1時台から1人30頭前後の攻め馬に励むハードな日々。調教師は14人に減少し、所属馬は約450頭。騎手、競走馬の質・量ともに、地方競馬としての一定の水準を取り戻すのは何年先になるのか。馬主さんや応援する全国のファンの皆さんに真の復興を認めてもらうには、どっしりと構えて足腰を強化する必要がある。ダーティーなイメージを一掃し、NAR(地方競馬全国協会)やファンの信頼を取り戻すには、この先まだ10年ぐらいかかりそうだ。

 起爆剤として最も期待されるのは、スターホースの出現だ。オグリキャップやライデンリーダーを生んだ名馬の里でもあり、木曽川河畔の自然条件はスターホースが育つ素晴らしい環境にある。生き残った騎手、調教師の皆さんには、JRA交流のダートグレードを5勝したラブミーチャンとまではいかなくても、一歩でも近づけような強い馬づくりが求められる。

 ■「マイナスからのスタート」、再発防止策の取り組みは不透明

 昨年は不祥事の余波が大きかった。構成団体は県と2町で、知事選絡みのゴタゴタ感も影を落とし、競馬組合の管理者は笠松町長から副知事にバトンタッチ。スピード感のない対応で再開が遅れ、「このまま競馬場がつぶれるかも」と騎手らの生活を脅かした。

 馬主・厩舎関係者らへの補償費や競馬場の管理費が膨らんで、赤字額は4億5000万円ほどに。本年度は「マイナスからのスタート」になり、抱えた巨額赤字分を減らしていく1年となっている。開催日を99日間に増やし、「黒字5億7000万円」を見込んでいるが、馬券販売は好調だ。「1日4億円」の目標を上回っており、昨年度の赤字分を返済できる可能性が高い。

ファンでにぎわった「くろゆり賞」。ライブ観戦ならでは、騎手たちの迫力ある追い比べが楽しめる

 ■「笠松でまたか」といった不祥事を繰り返さないために

 昭和の時代(1975年)には、騎手らの八百長レースや覚醒剤売買が発覚。再発防止を徹底したはずだったが、経営難による2005年以降の賞金・手当の削減もあって、厩舎関係者の生活は困窮。「遊ぶ金が欲しかった」という騎手らの馬券不正購入は起きてしまった。補償費などが膨らんで「負の遺産」となっているが、同じような不祥事を繰り返さないためには、厳しい監視の目が必要だ。

 笠松競馬のホームページでは、一連の不祥事を受けて、再発防止策の取り組み状況を報告しているが、昨年12月7日の厩務員を対象にした「研修会の開催について」を最後に更新されていない。これでは、再発防止策はレース再開のためのもので、継続的に対策が講じられているのか、全く分からない。

 昨年4月以降「第三者委員会からの報告受理」に始まって、20回にわたって再発防止策や研修会の報告が行われた。組織体制を強化し、外部委員による運営監視委員会、現場には公正確保対策推進会議が新設された。現状はどうなのか、ちゃんと機能しているのか。レース再開後の取り組み状況もオープンに報告していただきたい。
 
 再発防止への取り組みは競馬組合、馬主、厩舎関係者、応援するファンを含めた全てのホースマンが共有し、一丸となって「不祥事を二度と起こさない」よう意識を高めていくことが大切だ。現状のような不透明な対応では、何年か後に「笠松でまたか」といった不祥事が再発して、存続のピンチを迎えることにもなる。

不祥事を受け、厳しい取材規制が続く装鞍所エリア

 ■厳しい取材規制いつまで、優勝騎手以外はコメントなしも

 4月の「ウマ娘シンデレラグレイ賞」では、聖地巡礼の若者が殺到し、ネット上でも爆発力を発揮した。一方で、コロナ禍と一連の不祥事で、笠松競馬場内での報道関係者に対する取材規制は厳しさを増したままだ。検量室や騎手控室がある装鞍所エリアには監視カメラが多く設置されているが、報道関係者は最終レース終了後しか立ち寄れない。レースの合間の騎手インタビューは、装鞍所エリア外(競馬組合の職員立ち合い)でなら可能だが、レースに連続して騎乗する騎手も多く、空き時間を取れずに取材は難しい状況にある。
 
 例えば、岐阜金賞(11R)のケース。タニノタビトで勝った岡部誠騎手は最終12レースは騎乗がなく、11R後には競馬場を後にしてしまう。優勝したため、表彰式インタビューで喜びの声を聞けたが、アタマ差での厳しいレース。もし2着に敗れていたら、3冠を逃したレース直後のコメントは取れなかっただろう。結果的に2、3着だった塚本征吾騎手、渡辺竜也騎手は12Rも騎乗したので、話を聞けた。 

 ■11月のヤングジョッキーズ戦どう対応

 「あれだけの不祥事を起こしたのだから、騎手との接触は極力避けるべき」という姿勢は理解できるが、全国の競馬場で日本一厳しい取材規制はいつまで続くのか。11月2日にはJRA勢も参戦するヤングジョッキーズシリーズのトライアル最終戦が笠松で行われる。ファイナルラウンド進出者が決定する大事な日であるが、一昨年のように8、10R(最終は11R)に実施されたら、装鞍所エリアでは全く取材ができないことになる。

 JRA勢や佐賀、高知などからの遠征組はすぐに帰ってしまい、表彰式での優勝者以外のコメントは聞けないのでは。最終戦ということで取材陣も多いだろうし、厳しい規制を段階的に緩和してもらいたいが、どう対応するのか。全国的に著名な競馬ライターが来場して取材する姿は一昨年からほとんどなくなり、競馬場からの発信力は乏しい状況にある。

 笠松競馬の馬券販売に貢献している地元スポーツ紙や競馬専門紙の記者たちも、現状の閉鎖的な対応を嘆いている。NARの指導もあるのだろうが、報道関係者は不正を暴く監視の目を光らす立場にもある。そろそろ取材規制を緩和して、開かれた競馬場として、全国的に復興をアピールしていけるといい。
 

ユーホール内で親しまれていて、閉店した「ホースの店」

 ■ユーホールの「ホースの店」が閉店

 この夏、場内の売店がひっそりと閉店した。ユーホール内で長年親しまれてきた「ホースの店」で、8月15日までのくろゆりシリーズが最後となった。ゴールやパドックの真ん前にあり、見やすいユーホール。近年は特別観覧席に比べて入場者は少なくなっていたが、お店の方がドリップ式のコーヒーを席まで運んでくださったりして、のんびりとした時間が流れていた。「あしたの競馬エースありますか」と買い求めたのがラストになった。馬券の「枠単」が導入された頃、万馬券を1点で当てた思い出深い場所。的中250票ほどのうち50票も持っていて、お店の人にその興奮を伝えて驚かれたこともあった。
 
 かつてはオグリキャップの初代馬主・小栗孝一さんが、「オグリ」の冠名を付けた愛馬の馬券をユーホールでこつこつと購入していた。窓口販売があった頃には、ドラゴンズの主力選手らが大口で買い求める姿があったし、大相撲名古屋場所の頃には浴衣姿で遊びに来ていた力士をスタンドで見かけることもあった。ユーホールは馬主席や実況席も近いことだし、飲食物の提供は今後も必要だ。ゴール板前で観戦できる特等席でもあり、もっとファンを呼び込んで、新たな飲食コーナーを設けてもらいたいものだ。

 ■若手限定戦や東海地区オールスタージョッキー戦を

 「こんなファンサービスがあったらいいな」と、笠松競馬を愛するファンの皆さんの声も集めてみた。

 「若手だけのレースや、20年以上のベテランだけのレース」は楽しそうだ。笠松、名古屋の騎手がそろえば実現可能だろう。「ウマ娘シンデレラグレイ賞」として芦毛限定レースは復活したし、C級サバイバルなどユニークなレースも増えてきた。笠松・名古屋のリーディング上位騎手6人ずつによる「東海地区オールスタージョッキー戦」の復活や、名手の里をアピールできる「アンカツ記念」を創設できるといい。

車いすでレース楽しむ来場者も増えている笠松競馬場

 ■入場時にスタンプカードを、障害者用のエレベーターを

  入場関係では「また全員入場無料日があるといい。入場時のスタンプカードが満タンになったら、売店で使える金券などと交換できるとか」。「開放された無料休憩室では、コインロッカーや無料のお茶復活を」と望む声。

  施設関係では「障害者は特別観覧席に行くのが大変。1カ所でもエレベーターがほしい」との声。場内では車いすの来場者も増えている印象があり、移動しやすく気軽に楽しんでもらえる環境づくりを進めていただきたい。

 オグリキャップ像の後ろに常設されている「オグリの絵馬掛け」の人気コーナー。「絵馬をわざわざ笠松駅まで買いに行くのは面倒。場内で販売してほしい」という声も。場内では小栗孝一商店の出店日には購入できる。

 ウイナーズサークルでのファンとの交流は、今はコロナ禍で制限されているが、将来的に「表彰される騎手に先着何人とかでインタビューできるといい」とか「誘導馬とのふれあいを再開してほしい」と要望。場内の雰囲気については「もう少し和気あいあいが良く、距離感を縮めてほしい。ギスギス感が嫌」といった声もあった。

 かつて、場内アンケートで「JRAにあるような大型ビジョンを笠松にも」と要望したことがあったが、今では「清流ビジョン」として実現。ファンはもっと声を上げて、老朽化した場内の環境整備を訴えていくことも必要だろう。

 ■笠松で連勝後、JRA移籍のスタンレーは新潟2歳S10着

 笠松でデビューし2連勝後、JRAに移籍したスタンレー(牡2歳、美浦・小野次郎厩舎)。新潟2歳ステークス(GⅢ)の芝レースに挑戦。笠松では後藤正義厩舎に所属し、大原浩司騎手が騎乗。800メートル戦を逃げ切って7馬身差の圧勝。2戦目の1400メートル戦は2着馬に2秒4の大差勝ち。ともに「持ったまま」で合計約20馬身差をつけ、JRAで重賞参戦となった。

 結果は後方からの競馬となって10着。「途中はリズム良く行けましたが、直線の切れ味勝負では、アップアップになりました」と騎乗した吉田豊騎手。笠松での2戦の勝ちっぷりから、一部では「オグリキャップの再来か」と期待を込めた声や本命視する予想もあったが、「中央・芝」の壁は高く、重賞挑戦はそう甘くはなかった。それでも、1着馬とは1.0秒差でそんなに負けてはいない。2戦目以降の巻き返しも十分にあるだろうし、笠松に戻って2歳重賞ロードに参戦する手もある。
  

地方競馬通算100勝を自厩舎のリコネクトで飾った東川慎騎手(右から2人目)=笠松競馬提供 

 ■東川慎騎手、通算101勝目で「減量騎手」卒業

 笠松競馬は9月7~9日に岐阜金賞シリーズ後半戦。8日にはヤングジョッキーズ園田ラウンドに、東川慎騎手が1戦のみ参戦する。8月26日には4R「深沢杏花騎手応援記念」で、地方競馬通算100勝を自厩舎のリコネクト(雌4歳、後藤正義厩舎)で達成した。「馬主、調教師、厩務員さん。こんな未熟な男に、勝てる馬を乗せていただき、ありがとうございました。馬上での自分をもっと磨き上げ、笠松競馬を盛り上げられるよう頑張ります」とツイッター上で感謝。

 同じ日10Rの晩夏特別では、7頭中7番人気のペルソナデザインで逃げ切って通算101勝目。この1勝で晴れて「減量騎手」を卒業し、一人前のジョッキーとして認められた。ファンは「最低人気で勝ったの、めっちゃカッコよかったです」と祝福。ゴール後の左手のアクションは「やったぞ」という感じで、飛躍への大きな1勝となった。人気のない馬でも大外から上位に持ってくるシーンはよく目にするし、注目していきたい騎手である。

 ■馬との距離がすごく近く、迫力あるレース

  フェアプレーに徹して、熱いバトルを繰り広げている笠松競馬のジョッキーたち。1400メートル戦なら最初の直線は結構長くて、1コーナーへの先陣争いが激化。向正面から勝負どころの3コーナーへの下り坂、4コーナーから最後の直線への追い比べは見応えがある。

 日本の真ん中にある笠松競馬場。名鉄名古屋駅から正門まで30分ほどで到着でき(笠松駅からは徒歩3分)、意外と近い。全国の競馬ファンには、ライブ観戦でも足を運んでいただき、昭和レトロ感あふれる場内と、馬との距離がすごく近くて迫力あるレースを満喫していただきたい。