YJS浦和ラウンドに向けて、闘志を燃やしていた及川烈騎手

 「ミスターオレンジ」の勝負服がゴールを突き抜けた。笠松競馬で武者修行中(期間限定騎乗)の及川烈騎手(18)=浦和、長谷川忍厩舎=が19日、ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)浦和ラウンドで第1戦5着、第2戦1着。盛岡での勝利に続いて2勝目を飾って快進撃。東日本トライアルラウンドの全日程を終えて、地方騎手トップでファイナルラウンド進出を決めた。11月2日の西日本最終・笠松ラウンドで全出場者が決まり、正式発表となる。

 YJS初出場でファイナル切符を手中にした及川騎手。埼玉県川口市出身のルーキーで、4月25日に浦和競馬場でデビュー。南関東では1勝どまりだったが、6月6日から笠松・後藤正義厩舎に所属。騎手不足で騎乗機会が多い笠松では8勝。新天地で騎乗技術を磨き、YJSでは盛岡、浦和で1勝ずつ。期間限定騎乗を3カ月延長した(11月26日まで)。

 浦和への出発前「馬のリズムとか、笠松で学んだことはすごく大きいです。それを生かして頑張ってくるだけです」と闘志満々。「浦和の先輩の七夕裕次郎騎手(22)に会って、一緒にレースができるのが楽しみです」と、久しぶりの浦和のレースで成長した姿を見せようと意気込んでいた。

浦和9R、ナムラキティーで激戦を制した及川騎手(中央)。ファイナルラウンド進出を決めた(埼玉県浦和競馬組合提供) 

 ■追い比べを制し1着ゴール、成長した姿

 及川騎手の浦和騎乗は6月3日以来だったが、笠松でのレース経験を生かし、地元ファンの前で躍動する姿を見せた。

 第1戦の7Rで8番人気・コンディトラム(牡5歳、川村守男厩舎)に騎乗。及川騎手はこの馬に1度だけ騎乗経験があったが、デビュー3日目、後方のまま12着と完敗。印象は悪かったが、やるしかない。状態はアップしており、笠松仕込みの積極策で、道中は3番手をキープ。いい手応えで4コーナーを回ると先頭に並びかけ、少し前に出た。最後は後方から強襲した七夕騎手騎乗の11番人気・アナハ(牝5歳)に外から差し切られたが、及川騎手も5着に踏ん張って10ポイントをゲット。地方騎手上位4人がつかめる「ファイナリストの座」は大混戦となった。

 第2戦の9Rでは3番人気のナムラキティー(牝5歳、小沢宏次厩舎)に騎乗。道中4番手から徐々に押し上げ、4コーナーを回ると一気に先頭を奪った。最後は右ムチをうならせて、同じ浦和の中島良美騎手(23)らとの追い比べでグイッと一伸び。クビ、アタマ差で激戦を制し、1着ゴールイン。及川騎手はナムラキティーの首筋を左右ポンポンとたたき、たてがみを優しくなでていた。

YJS浦和ラウンドに出場した地方、JRAの若手ジョッキーたち(地方競馬全国協会提供)

 ■JRA勢含めトップ通過、笠松競馬にとっても喜ばしいこと

 これで及川騎手は30ポイントを獲得し、トータル78ポイントで断トツ。トライアル2勝を挙げ、JRA勢を含めても東日本の最高点でトップ通過したが、本人はポイント差について「全く意識しないで乗りました」とレースに集中。10代の若いエネルギーを爆発させた。ハラハラしたのはレースを食い入るように見つめて応援した関係者やファンの方だったか。及川騎手は現在、笠松所属騎手の一員でもあり、ファイナリストになったことは、預かっている競馬場としても喜ばしいことだ。

 2位は野畑凌騎手(18、川崎)が56ポイントで続き、3位争いは4人が55ポイントで並ぶ大接戦。上位の着順数で木間塚龍馬騎手(18、船橋)が3位、7Rを最低人気馬ドラグ(牝4歳)で3着に食い込んだ大木天翔騎手(22、大井)が4位でファイナリストに滑り込んだ。笠松でもおなじみの岩手・関本玲花騎手は11位に終わった。
 
 浦和ラウンドでは2戦とも南関東勢が3着までを独占。JRA勢では水沼元輝騎手(20)が72ポイントで1位。小林凌大騎手(21)、永野猛蔵騎手(20)、佐々木大輔騎手(18)の順でファイナル進出を決めた。                                               

先輩の七夕裕次郎騎手(左)とともにYJS浦和ラウンドで勝利を飾った及川騎手(埼玉県浦和競馬組合提供)

 ■勝利後は、いつも馬に「ありがとう」と感謝

 浦和での勝利騎手インタビューで及川騎手は「ホッとしました。馬の反応も良く、伸びてくれればいいなと。ゴールではびっくりしました。まだまだ成長していきますので応援してください」と喜びをかみしめ、地元ファンから大きな拍手を浴びた。

 笠松のレースも開催中で、戻ってきた及川騎手は浦和での2戦を振り返ってくれた。

 5着だった1戦目について。コース取りは「先生からも『ひたすら前に行けば残るから』と言われていて、その通り前につけられて良かったです。4コーナーぐらいまではじわじわと伸びていたんですが、末脚は外の馬の方が良かったんで」と。人気を上回る着順で好騎乗だった。

 勝った2戦目は「勝負になると言われ、馬の状態も良くて肩ムチにも反応してくれました。馬込みに入って、もまれたら良くないし、砂をかぶらないように気を付けて外を回しました」。ゴールの瞬間は「勝ったかどうか分からなかったです。最後の一伸びでも微妙なラインだったんで。でも『勝ったぞ』という先生の声が聞こえてきて」と1着ゴールを確信。騎乗したナムラキティーのたてがみを優しくなでていたが、「馬に『ありがとう』という感謝の気持ちです。勝った時は笠松でもいつもやっています」と頑張って走ってくれた馬をたたえているそうだ。                                   
 渡辺竜也騎手ら笠松の先輩には「緊張せずに、楽しんで乗ってくるように」と言われて送り出された。浦和では、先輩の七夕騎手と一緒に勝利騎手の表彰を受けた。「仲良くさせてもらっていたんで、うれしかったです。久しぶりの浦和で楽しかったですし、これからもお互い頑張っていこう」と健闘を誓い合った。

 笠松でのレース経験も生かして好騎乗を見せた及川騎手。笠松では「他の馬の邪魔をしないよう、なるべくきれいに乗るよう心掛けています。浦和も笠松と同じような先行有利なコースなんで、前へ行こうと意識して乗りました」と好結果につなげた。

ファイナルラウンド進出を決め、笠松に戻ってきた及川騎手(笠松競馬提供)

 ■笠松でもみんなから「おめでとう」、ファイナル「楽しみ」

 盛岡ラウンド第2戦で勝利を挙げた時点では「これでファイナルラウンドがちょっとだけ見えてきました」という及川騎手だったが、浦和ラウンドでも第2戦を制覇し勝負強さを発揮。自らの手でファイナルの夢ステージを引き寄せた。
 
 笠松に戻ってきて、先輩騎手や厩務員らみんなから「おめでとう。うまく乗ったな」と。お世話になっている後藤正義調教師らにも「良かった、良かった」と勝利とトップ通過を祝福された。表彰式では「口が乾いて仕方がなかった」そうだが、トップ通過は胸を張れるし、これからは先輩騎手にも一目を置かれる存在になりそうだ。有力馬への騎乗が増えれば、勝利を積み重ねられるだろう。

 笠松ではまだ1カ月以上騎乗する。若手にはリーディングの渡辺騎手や、減量騎手を卒業した東川慎騎手もいて、いい刺激を受けている。今後も心掛けたいことは「安定性と技術向上です」。勉強熱心だし、すごく向上心が強い及川騎手。厩舎の先輩でもある東川騎手からもいろいろと学びながら、楽しくやっているそうだ。好きな食べ物は「野菜とかヘルシーなものですね」と調整ルームの食事でも多く摂取。午前1時台から競馬場入り。朝が早い笠松では、攻め馬に本番レースと懸命に励む日々が続く。     

 ファイナルステージは12月16日・名古屋、17日・中京だ。東西の地方、JRAの若手ジョッキー16人が頂点を目指して腕を競う。「いい経験になると思うので、味わいながら騎乗したいです。中京の芝コースが楽しみですし、1度だけ乗ったことがある名古屋でも頑張りたいです」と夢を膨らませる及川騎手。まずは、けがや騎乗停止などなく、ファイナルラウンドを無事に迎えたい。                                                

藤原幹生騎手の地方通算1100勝達成セレモニー。おなじみのパフォーマンスで「1100勝」?を表現した(笠松競馬提供)

 ■「笠松の鉄人」藤原騎手が通算1100勝「歩けたので大丈夫でした」

 けがにも強い「笠松の鉄人」藤原幹生騎手は10月6日7Rで、自厩舎のヒルノデプラーツ(牡3歳、後藤正義厩舎)に騎乗し、地方通算1100勝を達成した。セレモニーには、藤原騎手の勝負服姿で5人が登場。東川慎騎手が「祝1100勝」のプラカードを持ちながら、森島貴之騎手、渡辺竜也騎手、加藤聡一騎手とともに笑顔で盛り上げ。「1100勝」?を表現したパフォーマンスも見せ、祝福するファンから温かい拍手が送られた。

 「ミッキー」の愛称で親しまれ、笠松現役ではただ一人の「東海ダービージョッキー」。昨年は8カ月間のレース自粛があったが、48勝を挙げて笠松所属騎手のリーディングを獲得。地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップでは浦和での最終戦を圧勝し、総合準Vに輝いた。

 昨年9月に1000勝の大台を突破。今年6月、落馬による大けが(肋骨3本を骨折)で戦線を離脱したが、事故から50日余りで戦列復帰を果たし、鉄人ぶりを発揮。今年も勝利を積み重ねており、リーディング4位だが「ペースはいいと思います。けがは、あばら骨だったので、そんなに大きなけがではなかったです。歩けたので大丈夫でした」とたくましい言葉。レースでの目標については「勝たせてもらえるなら全部勝ちたいです」。ファンには「天気もいいので、競馬を楽しんでいってください」と呼び掛けていた。頼もしい男が、玄人好みの豪腕とフェアな騎乗ぶりで笠松のレース全体を引き締めてくれている。

ジュニアクラウン、渡辺竜也騎手が騎乗したボルドーネセバルが制覇した(笠松競馬提供)

 ■ジュニアクラウン、渡辺騎手騎乗のボルドーネセバル完勝

 第50回を迎えたジュニアクラウン。秋まつりのチャリティーオークションでは、第15回ジュニアクラウンを勝ったオグリキャップのレプリカゼッケンも出品され、1番人気で落札された。当時は若駒が激突する重賞レースだったが、10年前からJRA認定競走として、準重賞になった。1着賞金は250万円でほぼ同じだ。

 今年は3番人気のボルドーネセバル(牡2歳、笹野博司厩舎)が直線で抜け出して圧勝。渡辺騎手の好騎乗が光った。3馬身差の2着には岡部誠騎手騎乗の7番人気・アップフェリス(牝2歳、大橋敬永厩舎)が突っ込んだ。

 前走ゲート入りで外傷を負い、競走除外となったゼイリブが先行力で1番人気。連勝中のビリーヴィンとの2強ムードだったが、2頭とも伸びを欠いて脱落。終わってみれば、笠松・名古屋のトップジョッキー2人のワンツー。返し馬で1頭取り消しがあったが、馬連で2万円超えの高配当となった(3連単は35万円)。専門紙の予想は「×、…、△」と人気薄だったからか、2歳馬の秋の成長力は侮れない。

ジュニアクラウン優勝馬のボルドーネセバルと笹野博司調教師(右)ら喜びの関係者(笠松競馬提供)

 渡辺騎手も「本当に成長していて、追い切りからいい動きで、(秋風ジュニア2着だった)前回とは違っていました」。単勝1.4倍の人気馬ゼイリブを2番手から追走。「ぴったりマークして、思った通りの競馬ができました」と、完勝劇にうれしそう。自厩舎の馬で勝って、表彰式では久々に笹野博司調教師とのツーショット。今後、さらなる成長が楽しみな1頭になってくる。
 
 ジュニアクラウンの勝ち馬にはオグリローマンやラブミーチャンらGⅠ勝ち馬もいる出世レース。近年ではビップレイジングやニュータウンガールが制し、東海ダービー馬にも輝いている。渡辺騎手にとっては、イイネイイネイイネで果たせなかったダービー制覇の夢を、自厩舎・ボルドーネセバルでかなえられれば最高だ。