分散登校で隣席と離れて座り、作文を書く生徒ら=加茂郡川辺町、川辺中学校

川辺町立川辺中教諭 細江隆一

 わが校も6月1日から分散登校を始めた。5月下旬に学年ごとの登校日があったおかげで、分散登校もスムーズだった。クラスをA、B二つのグループに分け、午前と午後に登校した。6月15日からは一斉登校に入ったが、分散登校が良いウオーミング・アップになったようだ。

 登校日から「分散登校の時期に『新型コロナウイルス』に関わる作文を書きます」と宣言しておいた。1週間の間にコロナウイルスの記事や、書き方の手引を作成しておき、分散登校開始と同時に、2時間計画で、3年生の国語の授業で行った。新聞に掲載された中学生の作文をモデルとして紹介し、書き方を提示した。既に作文の書き方は2年生で学習しているので、原稿用紙にいきなり取り組み始める人、ノートに構成メモを記してから書き始める人、テーマ決めから仲間や先生と相談しながら始める人に分かれた。この方法で全員が作品を完成させることができた。

 中学3年生はコロナ禍での打撃が大きい学年である。新クラスは4月に始まらなかったし、部活動の最後の大会である中学体育連盟主催の大会(中体連)は中止。6月上旬に計画された修学旅行も延期。さらに、最後の行事である体育大会、合唱祭のめども立たない。そんな状況下である故か、彼らの書く作文にはコロナウイルスへの怒りや恨みが込められていた。特に、受験生という立場もあり、学習の遅れや進路への不安が描かれている作品が多かった。

 社会的な問題で書く生徒もいた。例えば「医療従事者への差別」。テレビでその特集を見た女子生徒は「医療関係者が差別的な目で見られるのはおかしいと思います」と、結論に書いた。SNSの書き込みが拡散し、全国で品物の買い占めが起こったことを知った女子生徒のまとめには「本当に必要な人に品物が渡らないのは良くない」とあった。新型コロナを罹患(りかん)したコメディアン志村けんさんの訃報について男子生徒は、「日本全国で愛されていた志村さんが亡くなり、悲しいです」と書いた。「医療従事者への感謝」というタイトルで作文を書いた女子生徒は、テレビで医療従事者の実態を知り、「医療従事者の皆様、本当にありがとうございます」と書いた。それぞれの生徒が、自分が興味を持った角度から「コロナ禍」の現状に切り込み、自分の意見を持つことができていた。

 今回の授業で大事にしたかったのは2点あった。一つは、コロナ禍で生活している自分や日本国民の現状を振り返り、意見を持つこと。もう一つは、「コロナ禍」という大きなテーマを、さまざまな角度から切り取り、分析することで、内容や問題点を明確にできる点を学ぶこと。完成した作品を読むと、ほとんどの生徒はその2点を達成していると分かる。

 スペイン風邪が流行したのは今から100年前。今回のコロナ禍のような事態は今後しばらく来ないかもしれない。だが、だからこそ、この機会にコロナ禍の生活を考え、自分の意見を持つことが大事であると考える。今回は国語の授業の例を示したが、他教科でも取り組みは可能である。総合的な学習や特別の教科道徳でもいい教材となりえるだろう。

 東日本大震災が発生した当時、それを取り上げた優れた実践が多数出たと記憶する。今回もまた子どもたちに、「生きる力」「他者を思いやる心」を育む実践が可能であると思う。