奥田宣子NIEアドバイザーは記事を活用して郷土意識を育む歴史の授業を参観=盛岡市、県民情報交流センター・アイーナ
新聞作りを通した中学生の深い学びを参観する細江隆一NIEアドバイザー=同
災害の記事から学ぶ授業に聞き入る原田結花NIEアドバイザー=同

 東日本大震災の復興から仲間と生きる力をつかみ、学校で新聞を活用した深い学びを実践する子どもたち-。7月26、27の両日、岩手県盛岡市などで開かれた第23回NIE全国大会盛岡大会は、記念講演や座談会、公開授業などを通して、震災の中で新聞の力を実感し、さまざまな教科の授業でNIEを体験する子どもたちのはつらつとした姿を浮き彫りにした。テーマは「新聞と歩む 復興、未来へ」。全国から集まった約1600人に交じり、岐阜県NIEアドバイザーの奥田宣子教諭(山県市立富岡小)細江隆一教諭(美濃加茂市立西中)、原田結花教諭(山県市立高富中)が、意欲的な実践の数々を熱心に参観。それぞれ印象に残った発表や交流について、報告を寄せた。

◆新聞で高まる郷土意識 奥田宣子教諭 (山県市立富岡小)

 盛岡大会では「新聞と歩む 復興、未来へ」をテーマに、NIEを通したふるさとを愛する心の日常的な耕しを学んだ。特に子どもたちの命を守る危機意識の高さに驚いた。

 岩手大教育学部付属小学校6年1組の社会「江戸幕府と政治~地域に残る江戸文化~」の授業は、城下町を表した絵巻を基に、当時の人々のくらしを知り、盛岡に残る町家の保存や活用を考えた。

 資料には、日常的にスクラップしている新聞から2006年版と18年版の盛岡町屋の記事。町屋商家を核にした町づくりを学び、自分の住む地域に町屋の存在を知るだけだった子どもたちが、自ら保存価値を考え、維持していく必要性を主張できるようになった。記事の有効な活用によって、わが町を誇りに思う心を育てた。記事が昔と今をつなぎ、子どもたちが地域の未来に期待を膨らませる郷土愛を育んだ。地元を大切に思う心が、復興の原点。教科書に一歩踏み込んだNIEは、歴史的事実を実感させ、郷土の未来を描く子どもの姿につながった。

 盛岡市立本宮小学校6年1組の総合的な学習の時間「命を守る ふるさとを守る~地域の防災・減災を新聞で学び、新聞で伝える~」の授業は、洪水の記事を読み、考えをまとめた切り抜き新聞を用いて、地域の防災、減災を考えた。

 記事の内容から、当時の問題点を明らかにし、自助・共助・公助の対策を講じた。災害弱者の避難をテーマに話し合うグループは「避難勧告などが発令されない施設に災害時マニュアルがなかったことが問題点だ」と指摘。自助対策は「そこに留まらず水が流れて来ない高い所に避難する」。共助対策は「普段から避難訓練する。夜の訓練こそやる必要がある」。公助対策は「迷わず避難勧告を発令。危険地域に対応できる堤防を造る」。なぜこうなったのか、今後どうすることが必要か、事実と向き合い、災害を想定して命を守る対策を考えた。

 地域を一番知っているのは地元の人々。しかし、自然災害は予測が難しく、いつ危機的な状況に陥るか分からない。正しい判断力と行動力を磨くことが、人の命を守る。NIEは、生まれ育った郷土に対する意識を高め、未来へと願いをつないでくれる。

NIE実践の成果学ぶ 細江隆一教諭 (美濃加茂市立西中)

 2日目の分科会は、二つの中学校の授業を参観した。どちらも国語科の授業だが、それぞれ特色があり、実りのある内容だった。

 盛岡市立仙北中学校の授業は、複数の新聞記事を読み比べ、「説明のワザ」(①文章の構成や展開、表現の仕方②見出しの付け方③図や写真の用い方)をまとめる単元を構想する内容だった。言語活動を「個人で新聞を作成する」とし、説明のワザを学んで新聞作成に生かすのが目的だ。

 感心したのは、NIEを取り入れた単元指導計画を指導者が自ら作成した点。2年生の教科書教材である「五重塔はなぜ倒れないか」を使用し、説明のワザを学習した後で、新聞を読み比べて確認した。その単元指導計画は指導者のオリジナルだ。見るからに時間も手間もかかる指導計画で、「ワークシート」には生徒が理解しやすいようきめ細かい配慮もあり圧倒された。生徒らのプレゼンには「既習事項の、この内容からこう考えた」と明確な根拠も示され、これまでの指導の成果だと感じた。

 岩手大学教育学部付属中学校の授業は、国語科と総合的な学習をタイアップして、新聞社へ投書するための新聞作りの作業だった。感心したのは、編集会議の様子。各人が書いた原稿について「ここはコンセプトと違う」「同じ内容の繰り返しはカットしよう」「ここは思いが伝わりにくいのでは」と、レベルの高い話し合いがされていた。「相手意識を持たせる指導」を大切にしてきたNIE実践の成果だと感じた。

 また生徒らは、実際の記事の内容を「記者が主観で書いた部分(意見)」「客観で書いた部分(事実)」に振り分けたが、どの生徒も短時間で作業を終えていた。これまで新聞を活用しながら、同様の実践を重ねていなければできないことだと感じた。さらに下書きの段階で、各教科の先生の力を借り、内容の精査を行う工夫もあった。国語科、総合的な学習、各教科の先生との連携を図っているところは大いに学びたいと思わされた。

 全国大会はレベルの高い授業が多いが、今回は特にそれを強く感じた。「新聞と歩む 復興、未来へ」というテーマを掲げた盛岡大会にかける先生方や生徒、新聞社の熱い思いを感じた大会だった。

災害、自分事として考え 原田結花教諭 (山県市立高富中)

 東日本大震災で思い出すのは、二つの壁新聞。一つは「6枚の壁新聞」。通常の新聞発行が無理で、手書きの壁新聞で人々に情報を伝えた新聞社があった。もう一つは「ファイト新聞」。避難所にいる人々を元気にしようと、子どもたちが書いた。地域と共にあるという素地がやはり東北にはあると、大会のさまざまな実践にふれ、再度感じた。

 「災害を自分事として考える」「人々に思いをはせ、万が一の時の自分のあり方を考える」ためのヒントをたくさん得た。斉藤孝氏の「新聞力と復興」の講演、高校公開授業および新聞と歩む「岩手の復興教育」について論じる。

 ①「週1回の朝活動を新聞学習に(講演から)」

 例えば西日本豪雨の新聞記事を切り取りスピーチすることで、その災害についてずっと関心をもち続けることができる。「ニシニホンゴウウ」という音を漢字変換して「西日本豪雨」と理解できることで、漢字熟語の語彙(ごい)を深めることができる。週1回の朝新聞学習は、日曜日の夕方の家庭の会話をも変える。明日の朝の新聞学習のために、家族で新聞記事を読み聞かせたり探したりする時間となる。

 ②「防災学習から減災学習へ。児童生徒の手に未来をゆだねる」

 岩手復興教育は、「命や心の大切さ(いきる)」「家族や地域の絆(かかわる)」「防災・安全(そなえる)」の3本柱から成り立っている。本大会では、西日本豪雨で被災した中学教諭も参加、復興教育プログラムについて学んだ。

 私は、岩手県立沼宮内高校の公開授業「災害を自分事として考えよう」を参観した。「地域の町民の命を救うために、自分は何ができるか」という視点を明らかにした授業だった。岩手日報の連載記事「子どもの防災」を読み、防災マップを作成した事例、震災展示室を設置した事例などから、自分たちはどのように防災を伝えるかを学ぶ授業であった。風化が進んでいる震災について「災害の経験や教訓を未来につなぐのは人だ」と呼びかける新聞社の姿勢にも学ぶものがあった。

 本大会のテーマ「新聞と歩む 復興、未来へ」の姿が、学校教育の現場から新聞各社の取り組みから見えた岩手訪問であった。