眼科医 岩瀬愛子氏

 10月10日は目の愛護デーなので、毎年、各地で無料眼科検診や啓発活動、関連の講演会などが行われますが、昨年・今年とコロナ禍のため、多くのイベントが中止になっていて非常に残念な状況です。そこで、講演会の代わりに少しだけここでお話をしたいと思います。

 「私は目が良いので」と自分のことを言う人に、それはどういう意味でおっしゃっているのでしょうか、と聞いたことが何度もあります。職業柄、私はいろいろな分野の人とお話をする機会があるので、時々この質問をしてみますが、ほとんどが「裸眼視力が良い」の意味で言います。また高齢の方は、「眼鏡がなくても字が読める」、あるいは「眼鏡がなくても針に糸を通せる」、「運転免許試験場で眼鏡なしで通った」などが、その根拠になっていることが多いようです。これは、見ようと思うところは眼鏡がなくても見える、ということだけを指しているに過ぎないとご存じでしょうか。確かに眼鏡なしで自分の一番見たいところが見えたら便利ですが、「目が良い」とはこれだけでは評価はできません。

 目はカメラのような組織ですから、カメラのフィルムに当たる網膜という組織にピントが合えば、病気がなければ、よく見えます。遠くを見る眼鏡、近くを見る老眼鏡、コンタクトレンズなどは、そのピントを合わせる道具ですから、自分の度数に合った道具を使って見ればよく見えます。この状態は「矯正視力が良い」ということで、年齢とともに度数が変われば、その時の目に合わせれば見えるわけです。

 病気になり、どれだけ眼鏡をかけ替えても視力が出なくなった場合、つまり矯正視力が落ちれば、皆さんは眼科に受診されると思います。問題は、「矯正視力が良くても病気の場合がある」のを、あまり知られていないことです。

 たとえ、遠くの山の木が見えたり針に糸が通ったりして日常生活で眼鏡がいらなくても、眼が赤くなくても、目やにが出なくても、進行すると日常生活に支障を来すほどの病気になっていることがあります。その代表が緑内障で、末期まで視力が落ちない場合が多いのです。その他、糖尿病網膜症も目の中で出血していても自覚症状がなく視力が良いこともあり、網膜剝離があっても進行しなければ、視力は良いままです。脳梗塞や脳動脈瘤(りゅう)、脳腫瘍などの頭の病気で視野が欠けていても、視力は良い場合も多いので、進行するまで気付かないこともあります。

 日本では、眼科の検査というと幼稚園・小学生の頃から、視力と、プールに入ってもよいかどうかの結膜などのチェックが主にされてきているので、視力が良いかどうかと目が赤いかどうかには敏感ですが、それ以外の目の症状に気を付けている人はかなり少ない気がします。

 目の病気があるかどうかは、外から見ても分かりません。視力だけ測っていても、分かりません。眼科で目の検査をすることが重要です。早期に発見すれば進行が止められる病気もあります。今、病気が軽度中等度で発見された場合は、日常生活でどう気を付ければいいのかを知ることができます。

 眼科検診は、人間ドックなどの検査の時に一緒に受けるか、公的検診や各医療機関の検診を受けることで可能です。目の愛護デーの今の時期はチャンスだと思います。自分の目のことをきちんと把握して、一生日常生活に支障がないのがいいですね。
(たじみ岩瀬眼科院長、多治見市本町)