ゴールドウィング賞2着だったスタンレーと藤原幹生騎手

 来夏の東海ダービー馬候補でもある名古屋、笠松の2強が早くも火花を散らした。晩秋の名古屋競馬場で行われた「第61回ゴールドウィング賞」(SPⅠ、1700メートル)は地元・セブンカラーズ(牝2歳、川西毅厩舎)が、山田祥雄騎手の騎乗で逃げ切りV。1番人気で2歳チャンピオンに輝いた。

 笠松の新星・スタンレー(牡2歳)には「ダービージョッキー」の藤原幹生騎手が騎乗。管理する後藤正義厩舎は昨年のドミニクに続いて、このレース連覇を狙ったが、3馬身差の2着。初対決は名古屋に軍配が上がった。東海公営の若駒による新たなバトルは始まったばかりで、一冬を越えてどんな成長を見せるのか。距離が2000メートルに延びる駿蹄賞、東海ダービーに向けて巻き返していきたい。

 ゴールドウィング賞は、前身の中日スポーツ杯時代(1990年まで)から、オグリキャップ、オグリローマン、ライデンリーダーら笠松の名馬が勝ったレース。前売りオッズは一時、スタンレーが単勝1番人気だったが、最終的には地元馬セブンカラーズが単勝1.5倍でファンの支持を集め、スタンレーは3.3倍で2番人気となった。

 ナイター競馬での一戦は、名古屋と笠松でともに3連勝中の2頭によるマッチレースの様相となった。圧倒的なスピードを誇るセブンカラーズは、ダッシュ良くハナを奪うと軽快なフットワーク。笠松から挑んだスタンレーは2番手からぴったりとマーク。向正面の残り800メートル過ぎから早めに動き、セブンカラーズに外から並ぼうかという勢いで競りかけた。

ゴールドウィング賞を1着でゴールするセブンカラーズ。2着スタンレー、3着はミトノシャルマン 

 ■ギアを上げて1着ゴール、山田騎手満面の笑み

 「藤原騎手が仕掛けたな」。一瞬の攻防は見応えがあった。スタンレーが一気に前へ出そうだったが、セブンカラーズもギアを上げたため、抜き去ることはできず。3~4コーナーから直線でも差は縮まらず、最後はやや突き放されてゴール。地元・名古屋で走り慣れた本命馬がファンの期待に応えた。笠松勢では、渡辺竜也騎手がミトノシャルマン(牡2歳、角田輝也厩舎)に騎乗し、好位から3着に踏ん張った。

 重賞初Vを飾ったセブンカラーズは、準重賞の若駒盃、弥富記念を圧勝。東海ダービー5勝の川西毅調教師は「自分たちの馬がナンバーワン。自信を持って臨もう」と山田騎手の手綱に託し、デビューから全て逃げ切りで無傷の4連勝を飾った。会心のレースを終えて検量室前に戻ってきた山田騎手は、1着の枠場に入ると満面の笑み。隣の藤原騎手が悔しさをにじませた表情とは対照的だった。

 優勝騎手インタビューでは「うれしいです。(デビュー時に比べて)馬はしっかりして気合乗りも良くなった。出たなりで、そのまま逃げて折り合いもつきました」。笠松のスタンレーに徹底マークされたが「力関係がどうなのか分からなかった。早めにプレッシャーをかけられ、直線を向いて最後は脚が上がっちゃいましたが、何とか勝ち切れました」。東海ダービーに向けた課題については「ちょっと距離が長い感じなので、克服できるよう調教を積んでいきたい。もっと走ってくる馬です」と手応え十分。陣営では年内は休ませ、東海ダービーを見据えて調教から距離延長にも対応し、連勝を伸ばしていく構えだ。

 ■藤原騎手も手応え、3馬身差は逆転可能か

 スタンレーは笠松デビューの生え抜き馬。7馬身差、2秒4の大差で2連勝後、JRAに一時移籍(美浦・小野次郎厩舎)。8月の新潟2歳ステークス(GⅢ)の芝レースに挑戦。後方からの競馬となって10着に終わったが、1着馬とは1.0秒差と善戦。JRAでは1戦のみの「短期留学」で、笠松に戻って再出発。前走「第1回オグリカップ記念」は、自厩舎の藤原騎手が初騎乗。5馬身差で逃げ切って重賞挑戦となった。

勝利の味をかみしめ、笑顔の山田祥雄騎手(右)。藤原騎手は悔しい2着となった

 ゴールドウィング賞では、向正面で加速し勝負に出た藤原幹生騎手。「馬場もナイターも初めての馬。セブンカラーズを先に行かせて2番手からで、思っていた競馬はできました。早めにプレッシャーをかけようと手応え良く動きましたが、相手もスピードを上げてきたんでね。直線では、お互いいっぱいになりました」と淡々。

 勝てなかった無念さはあるが、初馬場で負けて強しといえるレースぶりに、それなりの手応えも感じている様子。セブンカラーズは今後も「大きな壁」になりそうだが、この日の3馬身差は距離が延びれば「逆転可能」な数字。半年後の東海ダービーに向けて、さらなる成長を期待される素質馬。このまま笠松所属で重賞戦線に挑むとみられ、ファンの夢も膨らむ。昨年のゴールドウィング賞を勝ったドミニクは、年末のライデンリーダー記念で4着だったが、スタンレーも挑戦すれば盛り上がる。

 ■3冠レースに向けて、いいライバル関係

 藤原騎手は4年前、ビップレイジングで東海ダービーを制覇しており、笠松現役では唯一の東海ダービージョッキー。頼もしい男がスタンレーの主戦で、セブンカラーズとは、来年の「3冠レース」に向けて、いいライバル関係になりそうだ。今年の東海ダービーでは、名古屋・タニノタビトが笠松・イイネイイネイイネをアタマ差で破り、岐阜金賞も制し、東海3冠馬へと駆け上がった。スタンレーは新馬戦438キロから460㌔台となり、馬体もまだ成長途上。後藤正義調教師も「スタミナはあるので距離は大丈夫」と期待。自在性もあり、2000メートル戦の東海ダービーなど距離延長にも対応できそうだ。名古屋、笠松の若大将が頂上決戦の東海ダービーや全国の重賞戦線に向けて、しのぎを削ることで、近年劣勢である東海公営のレベルアップにもつなげていきたい。

 血統面では、セブンカラーズの父はコパノリッキーで、母父はスペシャルウィーク。スタンレーの父はマクマホンで母父はキングカメハメハ。母父がともに日本ダービー馬で、武豊騎手、安藤勝己騎手が騎乗していたというのも興味深い。新種牡馬マクマホンはイタリア産馬で、日本に導入したのが『トーセン』の冠名で知られる島川隆哉オーナー。マクマホンはイタリアダービーやカタールダービーを制覇しており、スタンレーの東海ダービーVにも期待がかる。

W杯サッカー日本戦のパブリックビューイングが行われた名古屋競馬場のパドック前(名古屋競馬提供)

 ■競馬場パブリックビューイングで「ドーハの歓喜」

 名古屋競馬場では23日、ナイターでの12R終了後、W杯サッカーのパブリックビューイングも行われた。パドックにある大型ビジョンを活用。日本がドイツに逆転勝ち。市民ら約200人が歴史的勝利を観戦した。三重県菰野町出身の浅野拓磨選手が逆転ゴールを決めて大金星。「ドーハの歓喜」を競馬場でも体感でき、熱気に包まれた。

 23日、名古屋競馬の馬券販売は何と11億8000万円。南関東の開催が浦和(昼間)で、祝日のナイターは全国で名古屋だけだったこともあり、10億円の大台をあっさり突破した。ゴールドウィング賞があった22日も9億円超で、開催時間帯の「隙間」を狙ったナイター営業は効果抜群だった。

 サッカーのパブリックビューイングは4年前、笠松競馬場でも行われた。J2時代のFC岐阜戦で、スタンド前の「清流ビジョン」で放映された。FC横浜との一戦で、約400人のサポーターが観戦。熱い声援を送り、三浦知良選手の出場でも盛り上がった。

地方通算100勝を達成した関本玲花騎手(右)と祝福する深沢杏花騎手(岩手競馬提供)

 ■レディスジョッキーズ、深沢騎手奮闘

 地方競馬の女性騎手7人が腕を競った「レディスジョッキーズシリーズ・盛岡」は22日、2レースで熱戦を展開。神尾香澄騎手(川崎)と関本玲花騎手(岩手)が勝利を飾った。笠松から参戦の深沢杏花騎手は第1戦が6番人気で5着、第2戦は7番人気で6着。ジョッキーズ戦では相変わらず騎乗馬に恵まれないが、人気よりも一つでも上位の着順を目指して奮闘。いつかは、くじ運に恵まれて1、2番人気馬への騎乗があれば、真っ先にゴールを駆け抜けてくれることだろう。

 第2戦を勝った関本騎手は、地方通算100勝目も達成。このうち笠松では期間限定で4勝を挙げており、深沢騎手が「祝100勝」のプラカードを掲げ、ファンらと区切りの勝利を祝った。乗り慣れない左回りのコースに苦戦した深沢騎手は、川崎競馬場でのレディスジョッキーズ戦(来年3月2日)で上位進出を目指す。

 ■新たに助っ人5人、平瀬騎手Vダッシュ

笠松での期間限定騎乗でメインレースなど初日2勝。満面の笑みを見せる平瀬城久騎手

 「ようこそ笠松へ」、「おかえりなさい」。騎手不足、馬不足の笠松競馬に新たな助っ人が5人。紅葉シリーズから期間限定騎乗の金沢の平瀬城久(くにひさ)騎手(43)は初日3R、9Rで勝利を飾り、2着も2回と好ダッシュ。北海道勢3人も相次いで笠松入り。大井からも1人が来場する。

 今年も北から期間限定騎手を迎えるシーズンが到来した。前々回は一連の不祥事のため、関本玲花騎手らがレースに騎乗できなかった。前回は、騎手らのコロナ禍で1開催が取りやめになり、騎乗機会が少ないまま、地元に戻った騎手もいた。今冬こそはアクシデントなく、存分に騎乗してもらい、勝利の味とともに期間限定騎手に「おいしい」と評判だった飛騨牛など岐阜グルメも堪能してもらいたいものだ。

 平瀬騎手は来年2月6日まで伊藤強一厩舎に所属。1996年デビューで、地方通算1382勝。2012年のオグリキャップ記念をジャングルスマイルで制覇するなど、重賞37勝の名手だ。韓国・釜山、マレーシアヘの海外遠征や高知、南関東(大井)への期間限定騎乗にも挑んできた。
 

メイン「馬産地日高特別」をエネスクで大外から豪快に差し切った平瀬騎手

 ■思い出の馬はジャングルスマイルで、オグリキャップ記念V

 初日メインの「馬産地日高特別」では自厩舎のエネスクに騎乗した平瀬騎手。4コーナーを回ってもまだ6番手だったが、鋭い差し脚で大外から豪快に突き抜けた。騎乗スタイルは「差し」が得意という平瀬騎手。外差しが決まる馬場でコース適性を発揮させた。この日は、期間限定騎乗の歓迎セレモニーとメインVの表彰式と、ウイナーズサークルに2度も登場。ファンの拍手と声援を浴びた。
 
 5R後のセレモニーでは「人がすごく優しくて気さくに話してくれるんで助かってます。1400勝の区切りも近いんで、笠松で達成したい。短い間ですが頑張っていきます」と意欲。9R後の勝利インタビューでは「最後はいい脚を使ってくれました。こういう強い馬に乗せてもらって、ありがたいですし、またこのウイナーズサークルに来たいです」と好スタートを喜んだ。

 ファンのリクエストに応えて笑顔でガッツポーズ。思い出の騎乗馬はやはりジャングルスマイルで、重賞を5勝。オグリキャップ記念では、船橋・タートルベイの追撃をかわして逃げ切りVを決めた。2年前の金沢・MRO金賞ではフジヤマブシに騎乗し、東海ダービー馬の笠松・ニュータウンガールを最後方から大まくり。強烈なインパクトを与えた。

3年連続、笠松での期間限定騎乗に挑む馬渕繁治騎手の紹介セレモニー 

 ■馬渕、黒沢騎手は今冬も 若杉、高野騎手は初参戦

 門別開催を終え、北海道から馬渕繁治騎手(56)=森山英雄厩舎=、黒沢愛斗(まなと)騎手(35)=同=、若杉朝飛(あさと)騎手(20)=栗本陽一厩舎=の3人が来場した。馬渕騎手は3年連続(2月13日まで)、黒沢騎手は2年連続(12月31日まで)、デビュー2年目の若杉騎手は初チャレンジ(1月31日まで)となる。また、大井の高野誠毅(せいき)騎手(38)=川嶋弘吉厩舎=は11月28日から3カ月間の期間限定騎乗となる。

 馬渕騎手は前回の笠松騎乗では、年明けから勝利を量産。計12勝を飾る活躍を見せた。歓迎セレモニーでは、笠松競馬場について「大好きです。いっぱい馬に乗せてもらえるし、勝たせてもらったり、本当に良い所です」。地方通算975勝を挙げており「1000勝を目指して頑張りたいです」と意欲を示した。
 

昨年に続く笠松での期間限定騎乗で、返し馬に向かう黒沢愛斗騎手

 前回、追い込みの競馬が鮮やかで、9勝を挙げた黒沢騎手は「ファンの方が温かく迎えてくれて、また笠松に来ようと思っていました。厩舎の方、騎手の方も温かくて、すごく良い競馬場だと思います。短い期間ですが、一つでも多く勝てればいいなと」。体は小さくても、力強い競馬でゴール前をにぎわせてくれる。

 2人は騎乗初日(11月17日)から見せ場たっぷり。馬渕騎手は6番人気で3着、黒沢騎手は4番人気、5番人気で2着と馬券圏内を確保。穴馬でも好位から追い上げており、キャリア豊富な道営コンビは今後も注目のジョッキーとなりそうだ。今年笠松で21勝を挙げている金沢の青柳正義騎手や「前回はコロナ禍もあって、ほとんど仕事していない印象です」という岩手の高橋悠里騎手らも年明け後の笠松参戦に意欲。笠松の若手騎手にとっては、多彩な騎乗技術を学ぶいい機会にもなる。

笠松グランプリの開催をアピールするポスター

 ■笠松グランプリ、桑村騎手や御神本騎手も参戦

 地方全国交流で1着賞金1000万円の「第18回笠松グランプリ」(SPⅠ、1400メートル)は11月29日に開催。他地区選定馬は北海道からスティールペガサス(桑村真明騎手)、南関東勢は川崎からルーチェドーロ(御神本訓史騎手)、ベストマッチョ(吉原寛人騎手)、浦和からアポロビビ(左海誠二騎手)の3頭。高知からは昨年の優勝馬ダノングッド(多田羅誠也騎手)が連覇へ照準。全国のトップジョッキーがそろい、熱戦を繰り広げる。笠松勢はインシュラーやナリノクリスティー、名古屋勢はロッキーブレイヴが参戦。当日はアンカツさんも来場。笠松グランプリのウェブ予想会ライブ配信を行うほか、パドック解説や表彰式のプレゼンターも務める。
 
 今年も残すところ1カ月余り。このところ、放馬事故でお騒がせとなった笠松競馬だが、笠松グランプリシリーズからウインター、年末特別シリーズへと続く12月は開催日が10日間もある。まずは競馬場内外での安全確保を第一に、競走馬も騎手もけがなどなく、レースが無事に開催されることを願いたい。