男性の育休取得率が2020年度は12・65%と過去最高を更新しました。女性と比べると低水準に変わりはありませんが、さらに低い1%台だった頃、岐阜県職員の渡辺大二さん(43)=美濃加茂市=は1年間の育休を取りました。育児をきっかけに、今秋からはひとり親家庭の支援活動を行っています。ことし8月下旬から8週間の育休を経験した男性記者が渡辺さんに取得した理由や苦労、当時の周囲の反応などを聞きました。(デジタル報道部・松田尚康)

「仕事よりもさまざまな経験ができ、出会いがあった」と1年間の育休を振り返る渡辺大二さん=美濃加茂市、渡辺さん方

「仕事よりもさまざまな経験ができ、出会いがあった」と1年間の育休を振り返る渡辺大二さん=美濃加茂市、渡辺さん方

周囲のサポートがあってこそ

―育休の期間と理由は。

 次女(10)が1歳を過ぎた2012年4月から1年間、育休を取得しました。もともと子どもが好きで、一番近くで成長を見守りたかった。妻と結婚する頃から、子どもが生まれたら取ろうと考えていました。長女と次女を出産し、育休の続いた妻が職場に復帰するタイミングで、僕が育休に入りました。

 期間は業務も考慮しました。仮に3カ月間だった場合、仕事をカバーしてくれる(代替の)職員が誰も来ないかもしれない。事前に(定期)人事異動がある4月から1年間取ると伝えれば(代替の)職員が付くと考えたからです。

―職場にどのように相談しましたか。同僚の反応は。

 人事課が秋に異動先の希望調査を実施しています。育休を取りたいと(調査の書類に)記入しました。長女が生まれたときも、次女のときもです。長女のときに取得できなかったのは、2人目の妊娠が分かったため。2人目をもうけなければ、長女の出産後、妻が職場に復帰するときに取っていました。

 取得した頃は「イクメン」という言葉が広まりつつあった時期。職場では否定的な声は聞かれませんでしたが、みんな驚いていました。係の同僚が6、7人いましたので、取得の半年ぐらい前に係長から順に一対一で伝えました。育休の取得は権利ですが、周囲のサポートがあってこそ。権利の行使を振りかざすのではなく、礼儀は必要だと思い、一人ずつに説明しました。

―両親は背中を押してくれましたか。

 反対されたら嫌な気持ちになっていたでしょうが、両親も「いいんじゃないか」という反応でした。親戚には「出世に響かないか」と心配する声もあったようです。父は「仕事人間」ではなく、すぐに自宅に帰ってくるタイプだったので、その影響があるのかもしれません。

一人になれる時間と相手の話を聞くこと

―育児と家事の分担や工夫は。

 妻が久しぶりの仕事に専念できるように、平日は料理を含めて家事全般を担いました。妻が帰宅したときには温かいごはんを食べられるように心掛けました。料理をしたことがなかったので、レシピ本を購入。調味料も本に書いてある通りに買いました。少ししか使わない調味料を買ってしまい、無駄になったことは失敗でしたが。サケのムニエルを作ったときに、妻が感動してくれたことは今でも覚えています。ただ、料理好きにはなれず、今では作っていません。

 気を付けたことは、妻が一人になれる時間を作ってあげることです。僕は趣味のフットサルに出掛けさせてもらいました。妻は授乳があったので、意識しないと出掛けられません。

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乳幼児学級のママ友と餅つき大会を開いた。「餅つきにはパパの力が必要で、頑張ってつきました」と渡辺さん=美濃加茂市(2013年1月撮影、渡辺さん提供)

―育休中の苦労や不満は。

 午前中は美濃加茂市内で開かれている三つの乳幼児学級や親子教室に通っていたのですが、次女の機嫌が悪くて大泣きすることが多く、大変でした。遊び場所を毎日考えることにも苦労しましたが、ブログを書くため、新しいところにはどんどん行っていました。

 その日にあったことを帰宅した妻に話そうとしたところ、仕事に疲れているせいか、聞き流されることがありました。期待する反応がなかった。大した出来事が毎日起きるわけではないのですが、誰かに話したいんですよね。育休中のママは幼い子どもと話すわけにもいかず、話し相手に飢えている。そういうストレスから、妻が夫に不満を抱く理由が分かりました。聞く姿勢は大切です。

子連れで行けるカフェや公園は?ブログで情報発信

―ブログはどのような内容ですか。

 育休に入る前に一つ決めていたことはブログを書くこと。育休を取らせてもらっているという気持ちと岐阜県職員という立場を考え、男性の育児や育休はどのようなものか皆さんに伝え、少しでも考えてもらえたらと思っていました。

 長女は幼稚園に通い、次女とは乳幼児学級などに参加していたのですが、どこもパパは1人。他のママと話すうちに、多くのママが結婚を機に美濃加茂市内に住み始めたことを知りました。子ども連れで行けるカフェや遊べる公園を知らない。今ほどSNSで情報を得られないので、ママたち向けの情報を発信できないかと考え、方針を転換。新しいカフェなどの情報を聞いたら、すぐに訪ね、写真を撮影し、ブログに掲載しました。特に喜ばれた情報がパン屋さん。「子連れで行ける新しいお店にみんなで行こう」とママ会を開くきっかけになり、仲良くなれます。美濃加茂市を中心に可茂地区の情報を伝え、ママに役立つようなブログに特化するように努めました。

―育休を振り返ると。

 仕事で1年間過ごすことよりもはるかにさまざまな経験ができ、出会いがありました。取ってよかったです。ママの視点にも立てるようになりました。

 スーパーに子どもを乗せるカートがあります。子どもが2人いると、誰が乗るかでけんかになるんです。そうなると2台必要ですが、2台ものカートを押すことは難しいし、邪魔になる。普段利用しているスーパーの株主だったので、育休中に株主総会に出席し、改善を要望しました。総会が終わった後、利用店舗の店長からお礼を言われ、数カ月後には2人乗りのカートが導入されていました。言ってみるものだなと思いました。

子どもとの時間は一瞬

―男性の育休の取得が進まないのはなぜでしょうか。

 「出世に響くかもしれない」「周りに取得者がいないから取りづらい」などという、見えない壁が影響しているのではないでしょうか。職場に業務のフォローをお願いすることに気が引けるのかもしれません。

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ママ友と開いたクリスマス会でサンタクロースにふんし、子どもたちに菓子を配る渡辺さん=美濃加茂市(2012年12月撮影、渡辺さん提供)

 義務になれば、本人も組織もどのように業務を回せばよいのか、マネジメントを考えるきっかけになるのでしょうが、育休の取得が目的化することは避けなければなりません。あくまでも手段。それぞれの環境があるので、取得を強制すべきとは思いませんが、子どもと接する貴重な時間を大切に少しでも長く過ごしてほしいと思います。小さいうちは本当に一瞬で、後悔してもその時間は取り戻せません。

 育休中に岐阜県庁の職員がメンバーのパパサークルを立ち上げました。育休取得の有無は関係ありません。メールで月1回程度、育休に関連した制度を紹介したり、パパ会を開いたりしました。

育児から子育て支援へ

―プライベートで、ひとり親家庭を支援する事業を始めましたね。

 子育ては時が過ぎると、問題意識を忘れがちです。僕の子どもは大きくなりましたが、子育て支援にずっと取り組みたくて、今秋から「こども宅食」を始めました。美濃加茂市内の中学3年か高校3年の受験生がいるひとり親家庭に、企業や個人から提供された食料品などを2カ月に1回、無償で届けています。コロナ禍の影響で開くことが難しくなっている「こども食堂」よりも、支援が行き渡りやすいのが「こども宅食」の特徴です。独りではない、社会で応援しているというメッセージを込め、実家からの仕送りのようなイメージで展開しています。賛同企業を増やし、応援したい企業と支援団体を結ぶコーディネートの機能も形作ることはできないかと考えています。


【男性の育休取得】 厚生労働省が7月に発表した2020年度の雇用均等基本調査で、男性の育休取得率は前年度から5・17ポイント上昇し、12・65%と過去最高を更新した。6月に成立した改正育児・介護休業法では、女性と比べて低水準の男性の取得を促すため、従来の育休とは別に子どもの生後8週間以内に父親が最大4週間の育休を取れる「出生時育児休業(男性版産休)」が新たに設けられた。