岐阜大学精神科医 塩入俊樹氏

 「統合失調症」の治療には、大きく「薬物療法」と「心理社会的療法」の二つがあります。治療が目指すところは"リカバリー(回復)"です。リカバリーとは「健康状態に関わらず、希望を抱き、そして自らの能力を発揮して生活を送ること」と言われています。患者さんが日々の生活に満足感を持ち、以前のように仕事や学校といった社会生活に参加できるようにすることです。

 治療では、まず「統合失調症」の症状を抑えるために、抗精神病薬を用いた薬物療法を行い、それを治療のベースとして継続してもらいます。症状の改善が見られた後に、社会生活機能のさらなる改善を図るための心理社会的療法を行っていきます。

 もちろん「焦らず、無理をせず、十分な休息を取る」といった心構えが、患者さん側にも必要なことは言うまでもありません。具体的には「過度の不安や孤立、過労や不眠をできるだけ取り除く」ようにすることが大切です。

 では「薬物療法」と「心理社会的療法」について、もう少し詳しく述べましょう。前述したように「薬物療法」に用いられる薬は、抗精神病薬と言われるものです。この薬には「統合失調症」に起きている、脳内の神経伝達の混乱(2016年11月28日付本欄参照)を抑えるという作用があります。具体的には「幻覚」や「妄想」といった「陽性症状」の原因と考えられる「中脳辺縁系」のドーパミン分泌の亢進(こうしん)を抑え、逆に「意欲の低下」「感情鈍麻」などの「陰性症状」に関係する「中脳皮質系」のドーパミン分泌減少を改善させます(同付本欄参照)。

 その結果、患者さんは「幻覚」や「妄想」といった心と脳に現れている過労状態から抜け出すことができ、過度の不安や不眠も改善することで、社会生活を正常に営むことが可能になります。ただし、薬には副作用がつきものですから、主治医である精神科医からの十分な説明や診察が必要です。

 「心理社会的療法」とは、社会復帰を目指したもので、まず、患者さんや家族への「心理教育」によって、出現する症状や経過といった病気の特徴、治療の重要性やその具体的な進め方などを学び、再発予防に結びつけるものです。さらに「精神科リハビリテーション」と呼ばれる、地域生活に必要な基本的技能(コミュニケーション能力、自立生活技能、問題解決技能)を訓練することで、仕事や対人関係のやりにくさを減らす「社会生活技能訓練(SST)」、作業活動を通じて、生活リズムや認知機能の改善を目的とした「作業療法」、そして妄想や幻覚についての誤った確信を客観視し、影響されないように対処法を身につける「認知行動療法(CBT)」などがあります。

 これらを患者さん個々の状態に合わせて用い、治療していくのです。これらの治療法は主に、臨床心理士や精神保健福祉士(PSW)、作業療法士(OT)によって行われます。では、このような治療法を用いた結果、患者さんはどのような経過をたどるのでしょうか。次回は、「統合失調症」の経過についてお話しします。

(岐阜大学医学部付属病院教授)