精神科医 塩入俊樹氏

 ご家族、あるいは周囲に依存症の患者さんかもしれない方がおられたら、皆さんはどうしますか。以前にお話ししたように、依存症の治療では心理療法、社会資源の活用、場合によって薬物療法など包括的な支援が受けられますから、その地域の相談窓口や専門医療機関を探してご本人が受診するよう勧めていただければいいわけです。

 しかしながらこのようなアドバイスは、実際には失敗することが少なくありません。それは、依存対象となる物質・行動に対する問題行動を、当事者自身では気付いていない、あるいは気付いていても認めようとしない(実際はこのケースが多いです)ため、自ら援助を求めることはなく、支援や治療に対しても非協力的だからです。では、具体的にどうしたらいいのでしょう。

 まず、多くの場合、ご本人は依存の問題があることを自覚しています。心理的抵抗を示すのは、分かっているからこそで、痛いところに触れられたくないからです。つまり「問題があるのは分かっている。でもまだやめる決心がついていないし、自信もない。やめられない」という、相反する二つの考えの間で本人は葛藤しているのです。ですから、説得したいとか、相手を正したいということではなく、このような葛藤で患者さんの気持ちが動揺していることに理解を示し、寄り添っていただければと思います。

 寄り添うとは、患者さんの気持ちになることです。例えば、患者さんの「どうしたら良いか分からない」「何とかしなくちゃいけないのは分かっている」といった葛藤の気持ちを表した言葉を敏感に感じ取り、その後に同じ言葉を繰り返して言ってみましょう、お互いの心の距離が縮まっていくのが分かると思います。

 そして、患者さんの側に立つ、味方になることも重要です。直接患者さんに「あなたの味方です」と伝えるのも効果的です。というのも依存症では、往々にして患者さんとそのご家族や周囲の人たちとが反対側に立ち、綱引きをしているような状況になります。ぜひ「患者さんの側に立っている」という自覚を持ってください。その上で、患者さんの健康を守る立場から専門機関に紹介する必要があると伝えていただきたいです。

 また、「やめる」「やめない」にこだわり、患者さんをどちらか一方に選別しないことです。依存行為を完全にやめるかどうかは、ご本人にとっては非常に悩める問題です。依存症の治療が始まっても、患者さんは「やめる」「やめない」の間を“行きつ、戻りつ”なのです。ですから、まだ治療が始まっていない段階では患者さんに依存行為をやめる決心がついていないのは当然のことです。

 最後に、相談窓口・専門医療機関は、依存症対策全国センターのウェブサイトから検索可能です。岐阜県では、相談窓口は岐阜県精神保健福祉センター、県内の8保健所、専門医療機関としては各務原病院と大垣病院が指定されています。相談窓口では、ご家族のみの個人相談や、ご家族のための勉強会や相談会を行っている所もあります。また、自助グループへの紹介も可能です。ぜひ、お気軽にご相談ください。