岐阜大学精神科医 塩入俊樹氏

 思春期は「第二次性徴の発現の始まりから成長の終わりまで」と定義されます。成長の終わりとは通常、腕や大腿(だいたい)部の骨の骨端線(骨が成長する部分)の閉鎖(通常、17~18歳)を指します。従って、思春期はそもそも個人差が大きく、栄養状態や運動量なども影響することから、「○歳から○歳ごろまで」などと期間を特定できません。一方、青年期とは、主に心の発達段階のある時期(学童期と成人期の中間)で、青年期前期(12~15歳ごろ)、青年期中期(15~18歳ごろ)、青年期後期(18~24歳ごろ)に分かれます。思春期は心の発達段階でいうと、前青年期(10~12歳ごろ)から青年期前期にほぼ当たります。

 前青年期は小学校高学年に当たり、学童期(6~10歳ごろ)の後に訪れる発達段階です。この時期は、身体面での成長が加速し、子どもによっては第二次性徴も認め始めます。一般的に、女子は男子よりも1~2年早く始まります。

 この時期の心の発達では、親から心理的に独立し、親友や仲間との親密な関係を獲得することが最も重要です。正常な対人関係の獲得が難しいと、子どもは強い孤独感を感じます。また、この時期の仲間づくりの過程で、いじめが起きることも少なくありません。いじめを受けた子どもは、学校に行く意欲が低下し、登校を渋り、さらに進むと不登校となります。この状態が適切に対処されないと"引きこもり"状態となり、家族とのコミュニケーションがほとんどなくなることもあります。

 青年期前期では、引き続き第二次性徴が進み、おおむね成人同様の性的機能が備わります。前述したように、第二次性徴は個人差が大きいものですが、大体この時期に現れてきます。この急激な身体的変化、特に性的成熟は青年に、時に"体が自分にとって異物のように感じる"くらいの動揺をもたらし、月経や夢精、自慰などに不潔感や嫌悪感を覚えることもあります。特に、友人よりも性的成熟が早い場合、他人との違いに強い不安を抱くことが多いのです。

 第二次性徴は誰にも起きる正常な身体的変化で、心の中に生じた性的なものに対する興味や関心、衝動も通常の心理であることを伝え、安心させることが大切です。さらにこの時期から、他人から見られる自分を意識し始め、自分の容姿や服装に関心を持ち、ダイエットや美容などへの傾倒がみられます。これは、思いのままにならない自分の体を、自分でコントロールしようとする試みと捉えることも可能でしょう。一方、心の発達としては、具体的に目に見えないことでも抽象化・概念化し、未来志向で考えられるようになります。この柔軟な思考力が後の創造性を生み出す土壌となるのです。

 最後に、対人関係においては、前青年期から引き続いて同性同年配の友人との密接な関係を持つことが重要な課題です。親よりも友人といる方が魅力的で楽しいと感じる時期なのです。

(岐阜大学医学部附属病院教授)