眼科医 岩瀬愛子氏
涙は目の外側を覆う水ですが、目の中には、涙とは別に房水という水が入っています。房水の量で目全体にかかる圧力が保たれ、目の形を維持できています。この目の圧力、眼圧(単位はミリHg)が、その目にとってちょうど良く保たれることで、目は正常に機能します。正常に機能するとは、外界から瞳を通して目の中に入った光が網膜に到達し、網膜に映った、見える範囲の全ての視覚情報が、視神経によって脳に伝えられることです。
房水は、目の中の毛様体でつくられ循環した後、シュレム管と呼ばれる排水溝に当たる所から目の外に流れ出ます。つくられる量と出ていく量が同じだと房水の量は一定に保たれますが、つくられる量が多いか、出ていく量が少なくなると房水は目の中にたまり過ぎて、眼圧が高くなります。眼圧がその目にとって高くなり過ぎると、目の奥にある視神経が圧迫されて傷が付きます。その視神経が情報を伝えていた場所が見えにくくなっていき、視野の一部が欠けていきます。これが緑内障です。
日本人の眼圧は、約3千人の調査の結果、平均は14・5ミリHgで、正常範囲は10~20ミリHgであることが分かりました。正常範囲を超える高眼圧は緑内障の原因になります。ところが、眼圧が正常範囲にあっても、その人の目にとって高い眼圧の場合は、やはり視神経が傷付き緑内障を発症することがあります。欧米人と比べて日本人では、正常な眼圧でも緑内障になる「正常眼圧緑内障」の比率が高いことが分かっています。
緑内障では、一度傷付いた視神経は、残念ながら元には戻りません。緑内障治療とは、薬で元に戻すのではなく、緑内障になった目が、それ以上進行をしないように、あるいは進行速度が極めて遅くなるように、「その目にとって眼圧が高い状態」を改善することです。すなわち「眼圧を下げる」のが治療となります。
眼圧を下げる方法としては、薬物治療、レーザー手術、外科手術の三つの方法がありますが、緑内障の型や患者さんの状態で、最適な方法を選択します。
薬物治療の中心は、点眼薬を使用して眼圧を下げる治療です。点眼薬には、眼圧を下げるために「房水が目から出ていきやすくするもの」と「房水がつくられる量を抑えるもの」があります。点眼薬には、多くの種類があり、それぞれ特徴があるので、まず1種類から始め、複数の薬を組み合わせることもあります。
緑内障治療用の点眼薬には、すべての人に起きるわけではありませんが副作用もあります。「充血」「染みる」「差した後に短時間かすむ」などは、よくある副作用です。薬によっては「まつげが伸びる」「目の周りがかぶれる」「目の周りが黒ずむ」こともあり、「息切れ」「脈が遅くなる」などの全身的な副作用が出ることもあります。緑内障であると診断が確定した場合は、眼圧を下げないと視野が欠けて病気が進行してしまいます。副作用かと思ったら、自己判断で薬をやめたりせず、主治医とよく相談し、自身に合った薬物を選択し長期の治療を続けることが大切です。点眼薬で十分に眼圧が下がらない場合や、点眼薬が使えない場合などは、レーザー治療や手術による治療で眼圧を下げることになります。
自分の一生の事なので、いずれにしても、信頼のできる主治医とよく相談することが一番大切です。
(たじみ岩瀬眼科院長、多治見市本町)